#再びの妄想DM

レオナ @leo_msk_tdys

50. 「ええ子なんやろ？わかるで。 大倉、ええ顔してるもん」 ヤスの言葉が、なんだか嬉しかった。 「どんな子なん？どこで知り合ったん？」 でも、それには答えられへん。 「んー、まあ、そのうちな」 なんて言葉を濁して、仕事場を後にした。 #再びの妄想DM

レオナ @leo_msk_tdys

51. 自宅に戻ってシャワーを浴び、ツイッターを開く。 ヤスにはあんな事を言われたが、ここ最近の、葉月の事が気がかりだった。 「今日もか…」 もう一週間、妄想話は流れていない。 それ以外のツイートも、一週間前から止まったままだ。 葉月とのDMを開く。 #再びの妄想DM

レオナ @leo_msk_tdys

52. 《こんばんは。ねえ、どうかした？》 …返事、返ってくるかな。 〈倉子ちゃん、お久しぶり。ゴメンね、ずっと浮上してなくて〉 来た！ グレーの吹き出しが現れると、思わずスマホに飛びついた。 《ううん、いいんだけど…なんだか心配になって》 #再びの妄想DM

レオナ @leo_msk_tdys

53. 〈実は、実家で飼ってる犬が死んじゃって…。もう歳だから仕方ないんだけど、それで落ち込んじゃって…〉 《そうだったの…》 少しホッとした。 いや、これはこれで充分大事やけど、葉月自身に何かあった訳じゃなくて、安心した。 でもこれはどうやって…。 #再びの妄想DM

レオナ @leo_msk_tdys

54. あ、これどうやろ？ こんなんで元気出るかわからへんけど。 《そっかあ、辛いよなあ。俺も飼ってた犬、看取れんくてめっちゃ寂しかったもん》 〈…え、倉子ちゃん？〉 《あは、こんなんどう？》 倉子のアイコンを俺に替え、“倉子”を“忠義”に替えた。 #再びの妄想DM pic.twitter.com/943pLqDCRO

拡大

レオナ @leo_msk_tdys

55. 〈びっくりした…いきなり替わったから〉 《倉子より、こっちのがええんちゃう？》 〈ありがとう。ちょっと元気出たよ〉 女の子のフリしてる俺が、更に俺のフリするって、ややこしいな。 でも少しでも元気になってくれたなら、よかった。 #再びの妄想DM

レオナ @leo_msk_tdys

56. それともう一つ、彼女にしてあげたい事があった。 《あと、フォロワー1000人おめでとう》 〈見てくれてたんだ。ありがとう！ びっくりしてるの。私の話を、そんなにたくさんの人が読んでくれてるって。 でも、すごく嬉しい。本当に嬉しい〉 #再びの妄想DM

レオナ @leo_msk_tdys

57. 笑顔の彼女を想像して、俺の顔もほころぶ。 《それで、葉月ちゃんにプレゼントしたいねん。 この間言うてた、アガットのピアス》 〈ダメだよ！あんな高い物、貰えないよ〉 《ええの。あれ俺も欲しくて。だから2人で一つずつせえへん？》 #再びの妄想DM

レオナ @leo_msk_tdys

58. そんな口実をつけて、ひたすら遠慮する彼女からやっとのことで了承を得て、彼女から聞き出した自宅へ、ピアスの片われを送った。 顔も名前も知らない彼女へのプレゼント。 その不思議なリアルさには、経験したことのないドキドキ感があった。 #再びの妄想DM pic.twitter.com/717GGDhw1m

拡大

レオナ @leo_msk_tdys

59. それからまた、葉月と会話をする日々は続いた。 俺が贈ったピアスを付けた写真を、送ってくれたりもした。 顔は写ってない。左の耳元と肩までのストレートの髪だけ。 それでも、彼女に少し触れられたような気がして、嬉しかった。 #再びの妄想DM

レオナ @leo_msk_tdys

60. その日から、自分もそのピアスを付けるようになった。 “お揃い”が擽ったくて、左耳がほんのり火照るようだ。 なんか俺、ホンマに女の子みたいやな、なんて思いながら、生放送の歌番組に出演した。 #再びの妄想DM

レオナ @leo_msk_tdys

61. 番組終了後、心地いい高揚感のまま、DMを開いた。 《さっきの番組、見た？俺、カッコよかった？笑》 “倉子”から名前を替えたままの俺は、“忠義”で話しかけた。 しばらく待っても、葉月からの返信はない。 まだ仕事中なのか、何か用事があるのか。 #再びの妄想DM

レオナ @leo_msk_tdys

62. それからDMが届いたのは、30分程後の事だった。 〈あなた、誰？〉 葉月からのメッセージは、警戒心の混じった、よそよそしい言葉だった。 《誰、って？》 その真意がわからない俺は、そう聞き返した。 〈倉子ちゃんて、もしかして…〉 #再びの妄想DM

レオナ @leo_msk_tdys

63. その先を続けるのを迷っているかのように間が空いて、やっと次の言葉が送られた。 〈…大倉くんなの？〉 正体がバレた少しの焦りと、やっと俺として話せる嬉しさが交錯する。 《…なんで？》 #再びの妄想DM

レオナ @leo_msk_tdys

64. 〈さっきの番組で、見たの。大倉くんがあのピアスを付けてるのを。 あれはレディースだし一つ売りじゃないし、同じデザインなんて偶然とは思えない。 それと…〉 葉月の言葉は続いた。 〈あなたのアイコン。FCの会報の写真よね？この写真好きなんだけどーー #再びの妄想DM

レオナ @leo_msk_tdys

65. ーーあなたがアイコンを替えたの、会報が届く一週間も前だったの。まだ世に出てない写真を、どうしてあなたが持ってるの？ あなたは、本当は誰なの？〉 《俺は、大倉忠義。本人》 この時初めて、俺は本当に俺として言葉を発した。 #再びの妄想DM

レオナ @leo_msk_tdys

66. 〈…うそ…〉 《嘘じゃない。信じてもらえへんかもしらんけど、ホンマに本人》 戸惑ってる…んかな。なかなか返信がない。 《興味本位でツイッター覗いて、葉月ちゃんを見つけた。初めて読んだ時、なんでかわからんけど、惹かれた。 #再びの妄想DM

レオナ @leo_msk_tdys

67. でも、俺のファンやのに俺の話が少ないから、理由を聞きたかった。ヤキモチもあった。だから話しかけた。 話す内に、君の事も好きになった》 〈…そんなの、信じられない〉 もう隠し事はしたくない。 正直な気持ちを伝えたい。 もっと、君と近づきたい。 #再びの妄想DM

レオナ @leo_msk_tdys

68. 《そうやんな。でも、信じてほしい。だって俺は実在してて、君と同じように生きてる。 俺は、君が好きや》 それからまた間が空き、やっと現れたグレーの吹き出しに書かれていたのは、否定の言葉だった。 〈そんなの、ダメだよ…〉 《なんで？》 #再びの妄想DM

レオナ @leo_msk_tdys

69. 〈…そんなの、許されない〉 “だから、なんで” そう打ちかけた時ーー 〈あなたは向こう側の人間なの。私なんかと繋がっちゃいけない。 もう、ここには来ないで〉 はっきりとした、拒絶。 今まで言われ慣れたはずの言葉が、胸に刺さった。 #再びの妄想DM

レオナ @leo_msk_tdys

70. その後は何を言っても、何度話しかけても、彼女からの返事はなかった。 それから2日後、TLに別れの話が一つ流され、その翌日、葉月のアカウントは消えていた。 #再びの妄想DM

レオナ @leo_msk_tdys

71. ＊ ＊ ＊ 葉月が消えて、俺は彼女の居場所を奪ってしまった事をひどく後悔した。 あれから一年、今でも時々ツイッターを開いて、葉月を探している。 「大倉さん、原作買ってきましたよ」 「ああ、ありがとう」 不甲斐ない俺でも仕事は順調だった。 #再びの妄想DM

レオナ @leo_msk_tdys

72. 新たに連続ドラマの出演が決まり、その原作本をマネージャーに買ってきてもらった。 「新人だけど結構話題になってるみたいで、平積みになってましたよ」 「へぇー、そうなんや」 恋愛小説なんて普段読まんしなー、と思いながら、表紙を開いた。 #再びの妄想DM

レオナ @leo_msk_tdys

73. 「あれ、これーー」 読み進めると、不思議な感覚に陥った。 静かに惹きつけられる感じ。でもそれは、なんだか懐かしいような…。 #再びの妄想DM

レオナ @leo_msk_tdys

74. 3話目の撮影の日、ディレクターから見学者の来訪を聞かされた。 それは、中盤まで撮影を終えた頃だった。 「ご紹介しまーす！原作者の葉山香月さんです！」 拍手を受け、出演者一人一人に挨拶をする女性の姿。 やがて、その足は俺の前で立ち止まった。 #再びの妄想DM