シー・ノー・イーヴル・ニンジャ #2

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「畜生!こいつにばかりは慣れねえにも程があるぜ!」ジャイゴが毒づいた。時間は朝6時である。壁に四角い穴が開き、囚人たちが「飼料」と蔑称するオカラ・スシが人数分のトレーに乗って、オートメーションで供された。天井のスピーカーからは精神を澄み渡らせる効果を狙ったネンブツが流れている。

2011-07-27 21:36:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「食って寝て、食って寝てだ」ベツリキがモサモサとオカラ・スシを頬張りながら、ため息を吐いた。「これじゃ出所する頃にゃ、ジャイゴ=サンみたいなスモトリになっちまう。しかも味がマズイ」双子のタケオ兄弟は同時に相槌を打った。「「そのとおり!」」

2011-07-27 21:40:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「逆に俺にゃあダイエットだぜ、こいつは」ジャイゴがあっという間にオカラ・スシを呑み込んだ。「ビフテキが食いてえ。バッファローの味噌漬けでもいい。クリスマスはいつだ!?」「……」正座してスシを食べ終えたフジキドはゼンダを見た。誰とも目を合わせず、暗い目でオカラを咀嚼している。

2011-07-27 21:43:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「労働!キアイ!」合成音声が叱責した。ガンガンガン、というアラーム音が鳴り、ボンボリが点滅。ザシキが解放され、廊下への整列が促される。廊下には既に看守がジュッテを構えて待機している。「歩け歩け!」

2011-07-27 23:15:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

数人の看守が追い立てるままに複数のザシキ牢の囚人達は薄暗い廊下を何度か曲がり、工場区画へ集められる。区画入り口のノレンには「労働が自由にします」「不如帰」とミンチョ書きされている。ここで正午のスシ供給時間まで、彼らには労役としての工場労働が待っている。

2011-07-27 23:27:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フジキドら「リンドウ」チームに割り当てられたのはバイオイカ・ジャーキーの裏返し業務だ。コンベアーベルトで右から流れてくるバイオイカが繰り返し赤熱するプレス機でプレスされる合間を縫って手をさしはさみ、イカを裏返さねばならない。

2011-07-27 23:35:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

この作業は実際危険で、見よ、「アイエエエエ!」少し離れた上流で悲鳴が聞こえた。うっかりと手をプレスしかかってしまった囚人だ。手動の安全装置があるため致命傷には至らぬが、火傷は免れない。コンベアーベルト表面にはお節介にも「インガオホー」とあらかじめプリントされている。

2011-07-28 00:29:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アップ」「ダウーン」定期的にジャイゴが発する合図にあわせ、皆で手を差し入れ、イカを裏返す。胸の悪くなるような悪臭である。「アップ」「ダウーン」「アップ」「ダウーン」ベツリキがゼンダとフジキドにおどけた調子で警告する「だんだんトリップしてきて、いい感じに眠くなるけど、ダメだぜ」

2011-07-28 00:29:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アップ」「ダウーン」……「アップ」「ダウーン」……「アップ」「ダウーン」……プレス機の高熱とイカが発する蒸気で、皆、大粒の汗を流している。フジキドの右隣では、ゼンダが荒い息を吐き、しきりに額の汗を拭っている。「アップ」「ダウーン」……「アップ」「ダウーン」

2011-07-28 00:30:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アップ」「ダウーン」……「アップ」「ダウーン、おい!」ジャイゴが叫んだ。意識を失いかけたゼンダが、吸い込まれるようにコンベアーベルトへ倒れこんだのだ!「ヤバイ!」巨体のジャイゴが咄嗟に近くの安全装置レバーを引く!「ウオオーッ!ドッソイ!」ガゴン!装置が悲鳴めいた軋み音を発する。

2011-07-28 00:30:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ドッソイオラー!」ジャイゴがスモトリ仕込みの鬨の声を発し、ジャッキアップめいてレバーと格闘する。だが安全装置が十分に働かない!軋みながらイカもろともゼンダを押し潰そうとする赤熱プレッサー!「早く引きずり出せ!」「「さ、作業着がひっかかっちまってる」」タケオ兄弟が悲鳴を上げた!

2011-07-28 00:30:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そのときだ!「イヤーッ!」電撃的速度でジャイゴの傍らに到達したフジキドが自らもレバーに手をかけ、力任せにジャッキアップ!ジャイゴのスモトリ膂力を持ってしても押しとどめきれなかったプレッサーがあっという間に引き上がった!「お、オメエ、すっげえな!」ジャイゴが興奮して叫んだ。

2011-07-28 00:31:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その隙にベツリキがコンベアーベルトに引っかかったゼンダの作業衣のボタンを引きちぎり、タケオ兄弟が朦朧状態のゼンダを力いっぱい引っ張る!ゴウランガ!その苦力、古事記に記された巨大カブ・サルベーション伝説のごとし!見事な連携によりゼンダは救出された!実際彼は危険な状態であった!

2011-07-28 00:37:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ビガー!ビガー!今更警報音が鳴り響き、機械が完全停止した。おっとりガタナで監督看守が二人駆けてくる。「大事ないか」「ねェよ、おかげさまでな!」ジャイゴが吐き捨てるように答えた。「ならばOK」「エート、よかった」看守たちはくるりとUターンして帰っていく。ベツリキは床にツバを吐いた。

2011-07-28 00:42:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フジキドは備え付けの水瓶の水をヒシャクで汲み取ると、ゼンダに頭からかぶせて意識を取り戻させた。もう一度ヒシャクで水を掬い、それを飲ませる。「……飲め」ゼンダは荒い息を吐きながら、「クソくらえ余計なお世話……いや……違う。俺が悪い。すまなかった。皆、迷惑をかけた。すみません」

2011-07-28 00:48:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そうだぜ!」ベツリキがゼンダの肩を叩いた。「こんなとこでタフガイ気取ってもいい事ねェって。仲良くしようじゃねぇの、ジゴクのサバービアは亡者同士って言うだろ?あれと同じさ」ゼンダは口を拭いながら、少し恥ずかしそうに無言で頷いた。冷水が彼の鬱屈を実際洗い流したかのようだった。

2011-07-28 00:53:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

昼食休憩でガリ・スシを食べながら、ようやくゼンダは「リンドウ」の面々と会話を交わした。彼らを驚かせたことに、この男は、実際この所内食堂備え付けのテレビで囚人たちも観ていたニュース……まさにそこで逐一中継されていた壮絶な「ソバシェフ・ランペイジ事件」の犯人その人なのであった。

2011-07-28 01:07:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゼンダはもともとガイオンの地表住まいの人間であり、実直な老舗ソバ店を夫婦で切り盛りしていた。朝早く起きてソバ粉を打ち、適正な価格でそれを振る舞い、店を閉めて4時間睡眠をとり、また起きてソバを打つ……そんなゼンめいた禁欲的な職業生活を営んでいた彼が、なぜあれほどの暴力に走ったのか?

2011-07-28 01:17:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……すべての始まりは、彼のソバ店の道路の向かいのマンション群がある日突然、メガコーポ「マグロアンドドラゴン・エンタープライズ」によって買い上げられて更地となり、周辺住民への周知無しに、人工プロテイン粉末加工工場の建設が開始された事であった。

2011-07-28 01:41:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

スシ用プロテイン粉末加工工場が落成すれば、近隣地域はスシ・プロテイン加工時に巨大プラントが際限なく撒き散らす有毒な大気に包まれることになる。反対運動の先陣を切ったのがゼンダだった。大気が汚染されればゼンダのソバ粉はおしまいだ。なにより、愛してきた町が汚される事が我慢ならなかった。

2011-07-28 01:49:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そもそもなぜ、閑静な住宅街の真ん中にそんなものが?それはマグロアンドドラゴンの巨大コンビナートが、ちょうどその区域の垂直直下、アンダーガイオン二階層にわたってブチ抜きで存在していたからだった。単にそのメガコーポにとって地理的な利便性があったという、それだけの理由の暴挙である。

2011-07-28 01:52:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

なぜそんな暴挙を伝統に厳格なキョート政府が許したのか?賄賂である。莫大な賄賂だ。ゼンダは計画を止めさせるべく、必死に汚職の情報を集めた。脅迫にも耐えた。さらにはマグロアンドドラゴンの後ろ盾のヤクザクランと対立するヤクザクランに協力を仰ぎすらした。

2011-07-28 01:55:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

反対運動が長期化するにつれ、ゼンダを支援していた人々は一人また一人と離れていった。マグロアンドドラゴンによる分断工作……ヤクザクランを用いた執拗な嫌がらせ、転居支援約束といった飴と鞭のやり口が功を奏したのである。しまいにはゼンダは逆に、でっち上げの法令違反をつきつけられてしまう。

2011-07-28 02:07:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

反対運動に心を砕いたが為に肝心のソバ屋は廃業。心労で倒れた妻はそのまま帰らぬ人となった。しかもゼンダが頼ったヤクザクランは最初から敵方とつながっていた。ヤクザクランの敵対関係など、ウィンウィン関係の利益折半約束を前にすれば容易に吹き飛ぶ。ゼンダはお人好しのピエロだったのだ。

2011-07-28 02:14:44