ブレードヤクザ・ヴェイカント・ヴェンジェンス #6
ケジメニンジャは困惑した。そして畏れた……ケジメニンジャの内なるニンジャソウル、マンジ・ニンジャは、眼前のこの不定形の混沌めいた存在に、本能的な恐怖を感じた。それはかつての大戦争においてすら経験した事のない、不可解な恐怖である。これは何なのか?彼は何なのか?「イヤーッ!」ケジメ!
2011-09-11 23:04:20「グワーッ!」ケジメニンジャの恐るべき斬撃がついにニンジャスレイヤーを捉える。ニンジャスレイヤーの左手首から先がケジメされ宙を飛ぶ!おお、ナムアミダブツ!ナムアミダブツ!さらにケジメニンジャが高速回転しながら迫る。狙うは右手首だ!「イヤーッ!」
2011-09-12 00:19:26獲った!ケジメニンジャは容赦なき斬撃の軌道の先に勝利を確信した。この正体のわからぬ敵が内に秘めた不吉な何かをあらわにする前に速攻をかけ、トドメを刺すべし。ケジメニンジャの視界には、煮えたぎる人型の混沌、そこへ伸びるドス・ダガーの刃。その奥には凪いだ海、上空に自転する黄金の立方体。
2011-09-12 00:24:55この敵を倒し、そして己のビョーキトシヨリヨロシサンビョーキトシヨリヨロシサンビョーキトシヨリヨロシ己のサンビョーキトシヨリヨロシ己の生きたサンビョーキトシヨリヨロシサンビョーキトシヨリヨロシサンビョーキトシヨリヨ己の生きた痕ロシサンビョ意ーキトシヨリヨロシサ味ンビョーキトシヨリ
2011-09-12 00:27:49……「ヌウーッ!」ニンジャスレイヤーのニューロンが加速し、時間感覚が泥のように重くなった。くるくると回りながら飛ぶ己の左手首。感覚が研ぎ澄まされ、激痛が身を焼く。身体の左右のバランスが崩れ、さらにドス・ダガーは襲い来る。
2011-09-12 00:32:19ニンジャスレイヤーの視界が赤く染まった。その視界がすぐに晴れ、彼は己の右手がケジメニンジャの顔面を鷲掴みにしているのを見た。顔面を掴み、もろともに大きく跳躍していた。ニューロンの指令をも上回る速度であった。ビルの淵を飛び離れ、共に落下していた。轟々と風が鳴り、落下する二者を包む。
2011-09-12 00:44:30落下しながらケジメニンジャがもがいた。だがニンジャスレイヤーが右手を離す事はなかった。ニンジャスレイヤーはケジメニンジャとともに地面へ落下。その勢いそのままに、砕けたアスファルトへ後頭部から叩きつけた。
2011-09-12 00:52:33「ニンジャ……」フジキドは己の口から発せられた言葉を耳にした。そこへ続く文言に、自らの自発的な意志をも重ねあわせ、言った。「「ニンジャ殺すべし」」ケジメニンジャがもがく。ニンジャスレイヤーは拳の失われた左腕でその鎖骨を殴りつけた。切断面から噴き出す血液は重油めいて燃え上がった。
2011-09-12 00:54:39ケジメニンジャがもがく。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは右手で掴んだ顔を引き上げ、後頭部を再度叩きつけた。「イヤーッ!」叩きつけた。「イヤーッ!」叩きつけた。「イヤーッ!」叩きつけた。「イヤーッ!」叩きつけた。「イヤーッ!」叩きつけた。左手首切断面は松明めいて炎を燃やしている。
2011-09-12 00:56:59遅れて落下してきたのはその手首から先である。地面に叩きつけられる寸前、その手首はゴムにでも引っ張られたかのように反撥した。手首の先もまた、重油めいて燃える血液を噴き出していた。炎は糸のように、ニンジャスレイヤーの腕と切り離された手との間でつながっていた。
2011-09-12 01:02:18腕先の炎は切り離された手を引き寄せ、接合した。ニンジャスレイヤーの左腕は今や肘先が不浄の炎に覆われている。彼がこの不浄の炎を纏ったイクサは今までに数度だけある。ケジメニンジャに馬乗りになったニンジャスレイヤーの双眸を、水たまりが鏡めいて写していた。センコ花火めいた眼光を。
2011-09-12 01:06:23フジキドは己の下になったケジメニンジャを……否。マンジ・ニンジャを見た。輝く人型の輪郭を。そして周囲に広がる無限の砂浜、真っ黒の空、宙に浮く黄金の立方体を見た。そして己の身体を。ナラク・ニンジャのニンジャソウルと重なり、まだらになった己の輪郭を見た。
2011-09-12 01:10:15「これは」フジキドは呟いた。「これは一体」マンジ・ニンジャが身じろぎした。その輪郭に、凶々しい書体の米粒大の文字が群がる。「ビョーキトシヨリヨロシサン」「ビョーキトシヨリヨロシサンビョーキトシヨリヨロシサン」ぞわぞわと群がる文字はやがてフジキドの身体を這い上り始める。
2011-09-12 01:15:21「ヌウウッ!?」「滅ぼせ!バカめ!」フジキドのニューロンに叱責が駆け巡った。「ナラク!?」「滅ぼすのだ!マンジ・ニンジャを!」「ナラクに従え!フジキド!」思いがけず、頭上からしわがれた老婆の声が飛び来たった。「考える時間は無いよ!」「……イヤーッ!」
2011-09-12 01:19:01マウント・ポジションから、フジキドは右拳でマンジ・ニンジャを殴りつけた。「グワーッ!」シロアリめいて二者の身体にたかるヨロシ文字の一部が飛び散り、砕け散った。「イヤーッ!」さらに、接合されたばかりの左拳を振り下ろす。「グワーッ!」さらに右拳!「イヤーッ!」「グワーッ!」
2011-09-12 01:22:43さらに左拳!「イヤーッ!」「グワーッ!」さらに右拳!「イヤーッ!」「グワーッ!」さらに左拳!「イヤーッ!」「グワーッ!」さらに右拳!「イヤーッ!」「グワーッ!」殴るたびヨロシ文字は飛沫めいて砕け散る!残されたヨロシ文字はぞわぞわと蠢き、マンジ・ニンジャの顔部分へ寄り集まる!
2011-09-12 01:26:14フジキドは両手指を組み、振り上げた。「スゥーッ!ハァーッ!」背中を反らし、拳に力を込める。そして、「イヤーッ!」振り下ろす!マンジ・ニンジャの顔面に、拳が叩きつけられる!「グワーッ!」残るヨロシ文字が、そしてマンジ・ニンジャが爆発四散!「グワーッ!」後方へ吹き飛ばされるフジキド!
2011-09-12 01:33:05「グワーッ!」背中から地面に落ちたフジキドの脳裏に微かに老婆の声が聞こえた。「ようやった……」……今の不可解な体験は?そしてケジメニンジャを倒すことは出来たのか?フジキドは即座にスプリングキックを繰り出し立ち上がった。そして仰向けに倒れるケジメニンジャを見下ろす。
2011-09-12 01:39:10ダークスーツ姿のクローンヤクザの首から上は無残に爆ぜ割れ、消失している。死んでいる。倒したのだ。そしてここは無限の砂浜などではなく、ビルの谷間、砕けたアスファルトの路地裏だ。フジキドは己の左手を見た。手首にはブレスレットめいた焼け焦げの跡ができている。激しく痛む。
2011-09-12 01:43:10たった今フジキドが見た光景は何だったのだろう?「ナラク?」フジキドは呟いた。己のニューロン内の返事は無い。フジキドは訝った。ケジメニンジャにトドメを刺しながら、異常高揚した精神が幻覚を見ていたのか?……否!手首の接合傷、死んだ敵。結果は全て現実だ。体験は現実の重みを持っていた。
2011-09-12 01:55:28エンジン音が背後から近づいてきた。振り向くと、三輪トラックの窓からくたびれた男が身を乗り出し、手招きしていた。「ちょいと拝借!俺は実際探偵であって盗人じゃ無いんだが」ガンドーだ!「乗りな、まだ間にあう……オイオイ何をボンヤリしてる?」「うむ」フジキドは小走りにトラックへ向かう。
2011-09-12 02:03:25「ベストなタイミングだったな、ええ?」ガンドーは路上のケジメニンジャの死体を見やる。「おかしなクローンヤクザだったが、さすがだな。……だが頼むぜ、まだ何があるかわかったもんじゃ無い。『ハイキングはドア・トゥ・ドア』だ」「ミヤモト・マサシか」「あぁ、誰かは忘れた」
2011-09-12 02:09:23助手席へ乗り込みながら、それでもフジキドは上の空だった。ガンドーは芝居がかって肩をすくめた後、「ハイヨー!シルバー!」叫んで一気にアクセルを踏み込んだ。安定の悪い三輪トラックはよろめきながら急発進した。
2011-09-12 02:16:50