昔々、山に住み着いた鬼が麓の村人達に年一度の生け贄を差し出さねば皆殺しにすると迫った「この風習が今なお…?」「最後まで読んで!」

鬼はぁ~そと!・゜゜・。ヾ(・ω・`。)(。´・ω・)ノ゙・゜゜・。福はぁ~うち!
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安井守生@低浮上 @Magio1976

むかーしむかし、とある山に鬼が住みついた。鬼はただ山道で座っているだけだったが、ある日、その道を通ろうとした3人に声をかけ、1人を喰らって2人は通してやる、と言って来たのじゃ。その日は引き返したが、次の日もその次の日も、鬼は同じ道に座っていた。

2023-03-02 12:38:06
安井守生@低浮上 @Magio1976

どうしてもその道を通らねばならぬ村人2人が意を決して、鬼の元へ歩み寄った。「1人を食らって1人は通してやる。」と鬼は言った。親を亡くし、嫁も子供もいない若い男が、自分が食われると名乗り出た。村で一番、悲しむ者が少ない者である自分が食われるべきだ、と若い男は言った。

2023-03-02 12:42:42
安井守生@低浮上 @Magio1976

良いだろう。通れ。鬼は言った。もう1人の村人は涙を堪えながら、脇目も振らず、振り返らず、その道を進んだ。 帰り道では、鬼は現れなかった。 しばらくたったある日、その道を通らねばならない用事が出来た村人がその道を訪れると、やはり鬼は座っていた。鬼は同じ要求をしてきた。

2023-03-02 12:45:31
安井守生@低浮上 @Magio1976

行きの道で現れ、帰り道では現れない。道を通ろうとさえしなければ、鬼はいつも同じ山の同じ道に、ただ座っている。いつしか鬼は、山に座っている鬼という事で、山座鬼と呼ばれるようになった。

2023-03-02 12:49:52
安井守生@低浮上 @Magio1976

さて、村では村人が少しずつ減って困っていた。月に1度はその道を通らねばならない。しかし働き手の男を鬼に差し出して失う訳にもいかず、かと言って女子供を鬼に食わせる訳にもいかない。困った村人達は、皆で鬼の元へ出向き、懇願した。

2023-03-02 12:51:25
安井守生@低浮上 @Magio1976

ならば、年に一度、若い娘を喰らわせろ。男の肉はもう要らぬ。年に一度、2月の初めの日に、若い娘を喰らわせろ。そしたら1年の間は、誰でも通って良いぞ。約束を違えてみよ、村の者みな喰ろうてやるぞ。

2023-03-02 13:04:18
安井守生@低浮上 @Magio1976

その道を通る度に村人が食われて来たのだ。年に一度、2月の初めの日に若い娘を差し出さなければ、この鬼は必ず村までやって来て、村人はみな食われてしまうだろう。そう思った村人は、泣く泣く鬼の言う通りにする事にした。

2023-03-02 13:09:35
安井守生@低浮上 @Magio1976

2月のその日がやってきた。村人達は、鬼の元に1人の若い娘を連れて行った。 ふむ。うまそうじゃ。約束を守ったか。ならばこれを持ち帰れ。鬼は、壱と書かれた木の札を村人に投げてよこした。その札を見る度に、ワシに差し出した娘の数を思い出し、恐れるが良いぞ。

2023-03-02 13:17:04
安井守生@低浮上 @Magio1976

娘は、この鬼に最初に喰われた若い男の事をずっと好いていた。 娘は、もう生きる望みを失った、あの若い男の元へ自分も行きたいと思い、進んで鬼に喰われる役目を引き受けたのだった。 1人の村人が、鬼が投げてよこした壱と書かれた木の札を拾い上げた。この村人だけが、娘の思いを知っていた。

2023-03-02 13:30:36
安井守生@低浮上 @Magio1976

さて、木の札が5つになる頃、村にはもう鬼に差し出せる娘はいなかった。 困った村人達は、鬼の元へ出向いて必死に頼み込んだ。 4月の終わりの日まで待ってやる。必ず若い娘を連れて来い。村に娘がおらぬなら、どこかの娘を騙して連れて来い。約束を違えてみよ、村の者みな喰ろうてやるぞ。

2023-03-02 13:36:12
安井守生@低浮上 @Magio1976

困り果てた村人たちは毎日まいにち、どうしたものかと話し合った。本当にどこかから若い娘をさらってきて鬼に食わせてしまおうか、そう考える者も出てくる有様。 そんなある日、村人の1人が隣の山に登ったおり、滝のそばを通りがかると、1人の修験者がいるのが目に入った。

2023-03-02 13:58:55
安井守生@低浮上 @Magio1976

藁にもすがる思いで修験者に話かけると、酒臭い息でその修験者は言う。ふむ、それはさぞ困っておろう。しかし得心がゆかぬ。何ゆえその鬼は、ずっと座っておるのだ。 目を閉じてしばし考えたのち、修験者は言った。良いだろう。共にお前たちの村に行こう。考えがある。わしの言う通りにしてみよ。

2023-03-02 14:50:24
安井守生@低浮上 @Magio1976

村に着くと修験者の元に村人たちが集まってきた。修験者は皆に尋ねた。 さて、お前たちの中で、どこからか若い娘をさらって来て鬼に食わせようと考える者はおるか? みな、一斉に1人の村人の方を見た。みなに注目され、縮こまる村人。 わっはっは。まぁそうもゆくまい。わしに考えがある。

2023-03-02 14:54:38
安井守生@低浮上 @Magio1976

修験者に言われるまま数名の村人が、麦を粉にして水で練り、人の形に練り上げると、それを薪の火で焼き固めた。 これに女物の着物を着せて、鬼に差し出してみよ。その鬼、ひょっとするとひょっとするぞ。

2023-03-02 15:02:46
安井守生@低浮上 @Magio1976

約束の4月の終わりが近づいていた。村人たちは、修験者に促され、鬼の前に着物を着せた人型のそれを差し出した。 おお、待ちかねたぞ。約束を守ったか。ならばこれを持ち帰れ。 鬼は例の壱と書かれた木の札を投げてよこした。 やはりな。 修験者が言った。 あの鬼、目が見えぬぞ。

2023-03-02 15:10:46
安井守生@低浮上 @Magio1976

麦の粉を水で練って人の形に練り上げ、薪の火で焼き固め、女物の着物を着せた「それ」に、今にも噛みつこうとする鬼。 修験者が、ふっと鼻を鳴らす。 「しかし味はごまかせぬ。」 「それ」に牙を突き立てた鬼が、ぴたりと動きをとめた。これは人の血肉の味ではない、おのれ、おのれ、たばかったな!

2023-03-02 15:37:02
安井守生@低浮上 @Magio1976

ひいっと声をあげてその場にへたりこむ村人。 そこか!今にも飛びかからんとする鬼。 鬼の前に修験者が立ちふさがる。 おんきりきりばさら ばさり ぶりつ まんだまんだ うんはった! きええい!

2023-03-02 16:38:50
安井守生@低浮上 @Magio1976

修験者が唱えると、鬼は目に見えぬ力で強く地面に押し付けられ、うめき声をあげた。うがああああああ! 答えよ、お前は何者か。 何ゆえこの山に座して人を食らう? 鬼が答える。 我は上総の国では名の知れた鬼。侍に両の目を突かれ、上総の国を追われ、逃げに逃げてこの武蔵の国へたどり着いた。

2023-03-02 16:56:37
安井守生@低浮上 @Magio1976

山を彷徨い、もはや歩く力もなく、目が見えぬでは人も獣もとらまえて喰らうこともあたわず。これまでかと思い、座して死を待つのみと諦めておったところ、人の声を聞いた。足音は真っ直ぐにこちらへ向かって来た。この機を逃しては人の血肉を喰らう事は出来ぬと思った。

2023-03-02 18:13:18
安井守生@低浮上 @Magio1976

我の目を突いた侍に脅され、人を食わずひっそりと生きようかとも思ったが、背に腹は変えられなんだ。鬼を恐るるが人の常。目が見えぬ事を悟られぬよう、向こうからこちらに来るように仕向けた。村人を喰ろうた後は力が戻ったので、せめてもの贖いと思い、人を脅かさぬよう術で姿を消した。

2023-03-02 18:19:54
安井守生@低浮上 @Magio1976

しかし、腹が減れば術が解けた。それからというもの、腹が減った頃になると村人が向こうから喰われにやって来るようになった。我はただ、ここに座しておれば良かった。見えぬ目で歩き回る必要は、もう無いのだと思った。しかし我の目を突いた侍がもしここへ来たらと思うと、恐ろしゅうて仕方なかった。

2023-03-02 18:27:13
安井守生@低浮上 @Magio1976

ある日、村人が涙ながらに訴えて来た。もう人を喰われとうない、と。我も心が痛まぬではないが、しかし目は見えずとも上総の国の鬼の王。人に情けを掛けたとあっては名が廃る。ならば若い娘を差し出させた。若い娘の滋養のある血肉を喰らえば、術で1年は姿を消していられよう。

2023-03-02 18:33:42
安井守生@低浮上 @Magio1976

我の目を突いた侍から姿を隠し、村人を脅かさずにいられる。これが我にできる精一杯の事であった。 そうか。 修験者が言う。 己が業を受け止め、その報いを受ける覚悟はあるか? 是非に及ばず 呻き苦しみながら、喉の奥から絞り出すように、鬼が言った。

2023-03-02 18:40:52
安井守生@低浮上 @Magio1976

修験者は少しの間、目を瞑り、そして目を開くと、両手の指を組んだ。 のうまくさらば たたきゃていびゃく さらば もっけいびゃく さらばた たらた せんだ まかろしゃだ うんきき うんきき さらば びき なん うん たらた かんまん! 修験者の、組んだ指先から、勢いよく炎が燃え上がった。

2023-03-02 18:56:01
安井守生@低浮上 @Magio1976

きええええい!!! その指先を刀の如き勢いで鬼に向け、指先から吹き出す炎が鬼に浴びせかけられようとした、その時、 おやめください! 1人の村人の女が修験者の前に立った。

2023-03-02 22:04:27