隣接権でよくでてくる「版面」について喜多野土竜【@ mogura2001】先生の解説

最近話題の隣接権の議論に出てくる【版面】についての解説。 漫画家同士の会話でもキーとなる単語についての解説です。 @mogura2001
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喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

なんか、版面権とか言われても、一般の人にはチンプンカンプンだろうな。版面は「はんめん」とも「はんづら」とも読みますが、要するに印刷物の各ページを、どんな形でレイアウトして、どんな書体や文字の大きさで見せるかなど、それなりに出版社側が工夫している物だったりします。

2012-03-18 12:31:00
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)例えば、新書版の小説でも、二段組といって1ページが上下2つの段になっている物と、そうでない物がありますよね。同じ二段組でも、1行当たりの文字数が22文字だったり23文字だったり。小説だと統一されたフォーマットがありますが、もっとデザイン的に凝った物もありますね。

2012-03-18 12:35:52
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)漫画の場合は原稿をコピーしてのっけるだけじゃん、と思うかたも多いでしょうが、そうではありません。お手元に新書版とB6判と文庫本の漫画単行本があるなら、枠線の外側の余白部分に注目してください。本の判型によって余白の比率は、上側(天小口)と横側(前小口)で、バラバラのはずです。

2012-03-18 12:41:18
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)ヤンマガコミックのようなB6判では、基準版面と呼ばれる枠線の上と横の比率はほぼ同じですが、新書版では上側が横の2倍ぐらいあります。新書版というのは実は、かなり縦長の判型なんですね。文庫本だと、もっと各社バラバラです。白泉文庫だと、比率は均等ですが余白の幅自体が狭いですね。

2012-03-18 12:46:01
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)新書版やB6判ですと、基準版面からはみ出した絵は断ち切りと言って、絵柄の途中でカットされた形で出版されます。なので、本の切断面を見ますと不規則な模様が出現していますね。『もやしもん』の単行本は、これを逆手にとって遊んでいますが。ところが文庫本では断ち切りがない物が多いです。

2012-03-18 12:50:36
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)多くの文庫本では、断ち切りになる絵柄でも、直前のところで余白をいれてあるので、本の切断面が真っ白という出版社が多いですね。文庫は単価が高い分、高級感を出す工夫なんでしょう。このように、単純に見えるマンが単行本でも、イロイロと細かいルールやら工夫が必要です。

2012-03-18 12:54:33
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)で、主流派の紙の原稿の場合、ただスキャンなりフィルムに取れば印刷用のデータができるかと言えば、そう単純でもないです。下書きやアシスタントへの指定用に青ペンで書かれた線は、本来は機械が拾わないのですが、何かのはずみで読み取る事があります。(特にトーンの下に書いてある場合)。

2012-03-18 13:00:03
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)トーンや写植は薄いとはいえ厚みがありますから、この影が出るので、フィルム上で消す作業があったり、読み取りの機械のレンズ上のゴミとかで汚れが出たり、フィルム自体に傷や汚れが付着したり。今はデジタル化が進んでいますが、手間はあんまり変わりません。

2012-03-18 13:04:07
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)紙の印刷は極小のドットですから、トーンの柄によってはモアレ(干渉縞)が出たりもしますしね。昔は、ページ数とかも全部担当が原稿に貼り込んでいましたから、作家の手を離れた原稿が本になるには、けっこうな手間が掛かります。それは、写植をどう打つかの細かいルールでもあります。

2012-03-18 13:08:17
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)漫画の写植は、少年誌ではルビ付きですが、ヤング誌や青年誌では特殊な読みをする言葉以外は、ルビがありません。ルビがある場合の行間隔は親文字の大きさの1.5倍、ルビなしの場合は1.25倍が読みやすいとされていますが、同人誌とかそこらへんがバラバラで読みづらい物を見かけますね。

2012-03-18 13:12:57
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)また、文中の括弧や句読点は約物と呼ばれますが、これらは文字の半分の幅しかないので、文字を詰める作業をした方が読みやすいです。他にも、ぶら下がりとか泣き別れとか、イロイロと細かい禁則処理がありますが、割愛。これに加えて、書体の統一とルールもあります。

2012-03-18 13:17:36
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)今は写植も電算写植やDTPにとって変わられつつありますし、そういう面倒臭い作業は大手では変プロに丸投げしていたりしますが、逆に言えばそこでもけっこうな手間暇金銭が発生しています。で、打ち上がった写植を貼り付け、さらに校閲のチェックを受け、誤字脱字用字用語の統一などの作業。

2012-03-18 13:22:41
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)レコードの原盤とたかが漫画ごときのデータを一緒にするなと見下される方もいらっしゃるでしょうが、レコードとは確かに比較にならないとは言え、出版のクオリティに耐えるレベルのデータに仕上げるまで、バカにできない手間暇がかかってる訳です。

2012-03-18 13:27:32
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)各種まとめを読んでいますと、版面権は写植までなのかページ全体なのかという議論が起きていますが、編集経験者からすると、全体に認めるしかないんじゃないかなぁと。もっとも作家側が完全デジタルデータで、写植まで自分で打ち込んで、なおかつ校閲マンも雇ってチェックしてきた場合は…。

2012-03-18 13:32:49
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)実際、漫画家さんの中には、自分のところで写植を打って貼り込んでくる人もいました(写植代&張り込みの手間の分、原稿料も上乗せして請求できる)。こうなると、版面権はどこに設定するんだと。ちなみに拙著はデザインやレイアウト、写植まで全部自分がやっていますので、この場合も微妙。

2012-03-18 13:36:39
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)ここから個人的雑感。財力に余裕がある作家は、これからはスタッフとして元編集者を天降り(笑)させるってのも、手なのかもしれませんね。業務の内実が分かっている人間がいれば、交渉も楽でしょうし、トラブル回避の役に立つかも。実際、元担当をスタッフにしている作家もいます。

2012-03-18 13:42:13
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)赤松先生も指摘されてるように、実際の力関係は作家と出版社では圧倒的に後者が強いですしね。本来は、作家側がちゃんと実務や出版社の内情に詳しいスタッフを雇い、著作権などに詳しい弁護士を顧問として、マネジメントするべきでしょうが、現実問題としてやれるのは一握りでしょう。

2012-03-18 13:48:11
喜多野土竜 ⋈ @mogura2001

承前)そういう意味では、赤松先生や森川先生のように、出版社も喧嘩しづらい売れっ子が、公的な形で交渉過程をオープンにされたのは、第一歩かなぁと。

2012-03-18 13:52:31