牧眞司の文学あれこれ
そのなかで、いくつもの物語が進行し、それが互いに干渉したり陥入したり縺れにもつれ、いっときたりとも予断を許さない。 (続く
2012-06-21 16:36:30(9)哲学・形而上学・数学。パロディ的な蘊蓄だったり、冗談交じりの譬喩だったり、かと思えば、ある登場人物の存在性にかかわっていたり……クノーは自由自在に取りいれている。
2012-06-21 16:36:57(9)哲学・形而上学・数学。パロディ的な蘊蓄だったり、冗談交じりの譬喩だったり、かと思えば、ある登場人物の存在性にかかわっていたり……クノーは自由自在に取りいれている。
2012-06-21 16:36:57――と、まあ、こんな具合。でも、いくら項目を並べ立てても、おおもとの作品の魅力の何十分の一も伝わらない。読んでいる最中は、こうした面白さが畳みこむように押しよせ、まるでオーケストラのように響いてくる。至福の読書というしかありません。」
2012-06-21 16:38:01――と、まあ、こんな具合。でも、いくら項目を並べ立てても、おおもとの作品の魅力の何十分の一も伝わらない。読んでいる最中は、こうした面白さが畳みこむように押しよせ、まるでオーケストラのように響いてくる。至福の読書というしかありません。」
2012-06-21 16:38:01デュレンマットをもう一冊。『嫌疑』。このポケミス版は、短い長篇(いまの感覚だと中篇か)を2篇カップリングにしていて、そのうちひとつが『判事と死刑執行人』。これは同学社版の新訳で読んだばかりなので、お目当ては表題作の『嫌疑』。 (続く
2012-06-22 20:42:04デュレンマットの小説第一作は『判事と死刑執行人』で、『嫌疑』は第二作にあたり探偵役の警部も引きつづき登場する(しかし、ポケミス版ではなぜか逆順の収録)。 (続く
2012-06-22 20:42:29前作では名探偵という枠組を逸脱して、魔王めいたイメージすらあったベールラッハ警部(同学社版ではベアラッハ)だが、『嫌疑』ではいちおう主役ではあるものの、いささか影が薄い。テーマ展開に注目するかぎり、むしろ狂言回し的な役割だ。 (続く
2012-06-22 20:42:50今回ベールラッハ警部が挑むのは、ナチス時代に残酷な人体実験をおこないながら、戦後、経歴を隠蔽してのうのうと暮らしている非道の医者。その正体を暴くため、警部は敵の本丸である病院に潜入する。だが、実際に病を得ていることもあって、すぐピンチに陥ってしまう (続く
2012-06-22 20:43:38むしろ悪役の医者のほうが印象が強いくらいだ。さらに脇役ではあるものの、強烈な存在感を示す人物がふたり。ひとりは、共産主義のユダヤ人でありながらソヴィエト政府に裏切られたことで、おぞましい敵だったナチスに荷担する生き方を選んだ女医。 (続く
2012-06-22 20:44:04もうひとりは、タフな裏稼業をこなす通り名ガリヴァー。彼もまたユダヤ人で、ホロコーストで九死に一生を得た経験がある。 (続く
2012-06-22 20:44:34いっさいの情緒を封じた女医、大酒飲みで豪放磊落なガリヴァー。いっけん正反対のふたりだが、両者ともいまなお地獄を抱えて生きている。こうした人物配置によって、通常の事件解決ではおさまらない、深淵の前にたたずむごとき結末にいたる。
2012-06-22 20:45:13