小話集3

小話まとめ
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「アイシャドウ」

森猫アキラ @Shinbyou_A

七色のアイシャドウ。この頃はやりの化粧品は虹蝶の鱗粉から作られる。町ゆく女性が美しくなるのは結構だが、彼女らは知っているのだろうか。七色の羽の虹蝶はオスで、自分の獲物に鱗粉をつけてそれを手土産にメスを誘う。虹蝶は生きた獲物に卵を産みつける性質があって……、ああ、じきに繁殖期だね。

2012-05-19 20:23:21

「棚卸」

森猫アキラ @Shinbyou_A

さて心の棚卸を始めよう。帳簿上は希望が七つとなっているけどこれはどこに? ……いかんな、一つは棚晒しで到底使えないし、箱の五つは「一時の慰め」に希望のメッキをしただけじゃないか。最後の一つは? 倉庫の奥にある? でも下手に開けると苦痛や嫉妬や絶望の在庫が崩れてくるのか。困ったな。

2012-05-20 19:53:05

「通りの神秘と憂愁」

森猫アキラ @Shinbyou_A

金環日食の日。太陽グラスで見あげていると、不意に服を引っ張られた。ワンピースの少女が眩しげに目を細めている。君も見る? とグラスを貸すと、少女は早速それをかけ、持っていた棒で天をつついた。からん、と音。もどかしげにグラスを返し、少女は棒で輪を転がし駆けていく。日食は終わっていた。

2012-05-21 19:23:35

「集会」

森猫アキラ @Shinbyou_A

月の宵、いつも猫がいる空き地で食育反対の集会を見た。食生活を押しつけるな! バランスのいい食事なんて知るか! 好きなものだけ食わせろ! 無茶な主張だと思いながら覗くと、演説しているのはアリクイで、キクイムシが拍手をし、人食い鬼が頷いていた。隅では夢喰い獏が誰かの悪夢を囓っている。

2012-05-21 19:23:52

「フェティシズム」

森猫アキラ @Shinbyou_A

手フェチの私は理想の手を持つ彼とつきあっているのだが、彼はそういうのは嫌だという。俺という一個の人間を見ろ、と。しかし彼は故郷の町から見える海が好きで、それ以外の海など海ではないというのだ(海は一個だろうに)。まあ彼が望むならいい。私は彼の身体を故郷の海に投げた。手だけは貰って。

2012-05-22 20:57:36

「赤い屋根」

森猫アキラ @Shinbyou_A

友人は重度の方向音痴で、今日もさんざん迷ったという。ちゃんと信号から三軒目の家を右に曲がったのに、なんで。疲れた顔の友人を窓の外から覗き込むのは赤い屋根のおうち。この友人は建造物に好かれるたちで、道を歩けば彼女に惚れた家がついてきてしまう。背後の熱烈な目を、教えてやるべきか否か。

2012-05-23 21:13:39

「新メニュー」

森猫アキラ @Shinbyou_A

「新メニューを開発したよ」 「ただの焼き魚定食では」 「またそういうニベもないことを。というわけでこれは君みたいな人のためのニベ焼きです。これ食べてちょっとは愛想良くなってください」 「お断りします」 「ううう、ニベが駄目なら今度はとりつく島を採ってくるか……、さばけるかな、島」

2012-05-24 20:54:38

「発掘」

森猫アキラ @Shinbyou_A

血眼の彼が掘りあてたのは、蝋燭を立てたケーキ・徹夜でクリアしたゲーム画面・なかなかあわない帳簿。苛立つ彼が捜しているのは彼自身に繋がる思い出の品。ここは彼の死んだ元恋人の心だ。あんなに沢山贈り物をしたのに彼女の心には何も届いてなかったのか。それを信じられず、彼はツルハシを振るう。

2012-05-25 21:28:45

-------------20話-------------------

「デッドライン」

森猫アキラ @Shinbyou_A

先輩とエレベータに乗る。上昇する箱が止まりドアが開くと同時に銃声が轟いた。驚く間もなく廊下が燃え、血を流した社員が駆けてくる。先輩は無造作に扉を閉めるボタンを押した。 「締切を破るとああなるのよ」 締切はデッドライン。死線を目前にした僕は、再上昇する箱の中で必ず日付を守ると誓う。

2012-05-26 20:53:35

「本の虫干し」

森猫アキラ @Shinbyou_A

「おお黒髪の乙女よ。どうかカーテンを開けてそのお顔を」 「あなや。いかでか見ゆべき」 剣を捧げて求愛する騎士と、御簾の奥で怯える女御。司書は慌てて古書を閉じて絵巻を丸めた。二人が消えた空間に溜め息をつく――組み合わせを考えて曝書するべきだった。虫干し中に変な虫がついては笑えない。

2012-05-27 21:01:40

「花咲か」

森猫アキラ @Shinbyou_A

まだ寒い春の夜、落語家は見知らぬ広場に連れ出された。黒服の、妙に背の高い人たちを前に一席ぶてという。ええいままよと得意の「長屋の花見」を。ウケは上々。ほっと目をあげるともう客はいない。あたりは森で、木々の枝にはぽつぽつ花がついている。そういえば「咲」の字は元は「笑」の意味だった。

2012-05-28 21:06:51

「プレッシャー」

森猫アキラ @Shinbyou_A

勉強しろというプレッシャーに耐えかねて家を飛び出し、神社の裏手で魔方陣を描いた。骨董品屋で入手した古書は本物で、小さな悪魔が登場する。俺はもうどんな圧力も受けたくない! 願いを言うと激痛とともに鼓膜が破れた。手始めに気圧を0にしたよと悪魔の口が動くのを見たところで眼球がはじける。

2012-05-29 20:30:20
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