トビゲリ・ヴァーサス・アムニジア #3

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そしてその儀式が執り行われるのは、次のブツメツ……。それまではユカノは無事、という話だったな」フジキドは内心穏やかならざる気持ちで返した。儀式という言葉の響きが焦燥感を掻き立てる。「ああ、連中の性質上、全ニンジャを琥珀ニンジャ像の間に集めた、盛大なセレモニーになるだろう」 23

2012-06-17 18:10:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

儀式の詳細は不明。その結果何が起こるのかも、正確には不明……ユカノがパラゴンから聞いた言葉を信ずるならば、この世の地獄が訪れ、キョートは炎によって焼き払われるという。終末教団が使いそうな、陳腐な常套句だ。だがこれがニンジャ秘密結社となると、ありえない話ではないと思えてくる。 24

2012-06-17 20:35:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

儀式直前までは、ザイバツの弱点を突くべく可能な限り情報収集や下準備を行う。そこまではいい。儀式の日に乗り込むというのも理にかなっている。全体の警備が手薄になるのは道理。だが結局のところ問題は、どこからどうやって乗り込むかだ。このままでは、作戦会議は振り出しに戻ってしまう。 25

2012-06-17 20:47:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「で、俺とナンシー=サンはここに目を付けた」ガンドーがチャを啜って指差すと、地下に走る荷物搬入口のひとつが点滅した。小さなウィンドウがいくつも開き「明らかな業者用」と補足が入る。「……これは?」「ヨロシサンやオムラの連中が使う搬入路だ。普段は分厚い隔壁でロックされている」 26

2012-06-17 20:56:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「だが、ここをハッキングで開くのは至難の技…」ガンドーが言いかけた時、チャブの隅に置かれたモーターチイサイが突然浮遊し、「重点!重点!」とユカノからの着信を告げた。セキュリティの都合上、ユカノとの通話時間は限られている。一秒も無駄にはできない。3D通話モードがONになった。 27

2012-06-17 21:03:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヌンヌンヌンヌン……」モーターチイサイから円錐状のホログラフィが投射され、座敷牢に正座するユカノの姿が、フクスケほどの大きさで映し出された。強烈なノイズにより、その肌色はいくらか蒼ざめて見えるが、瞳には確かな力強さがある。「お二人とも、聞こえますか?私は大丈夫です」 28 

2012-06-17 21:09:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ガンドーとフジキドは、3Dユカノ映像の横にインターレース方式で映し出された「満」という大きな漢字に目をやる。この緑の漢字は、通信を続けるにつれ下から徐々に赤へと変わり、それがそのまま傍受危険度を示す、たいへん優れたUGIなのだ。「いつも通り、手早く行こうぜ」ガンドーが言う。 29

2012-06-17 21:13:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「私からですね。座敷牢は快適です。少々、鐘の音がうるさいですが」ユカノが冗談めかして言った。「先刻、パラゴンが来ました。儀式の内容について、不安がっている様子を見せたところ、丁重に扱うと念を押されました。儀式後にも、私には重要な役目があると。人身御供などではないようですね」 30

2012-06-17 21:19:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「よし、次はこっちだな」ガンドーが言葉を繋ぐ。フジキドは3D映像内のユカノの様子を見守る。「作戦案がほぼまとまった。ネオサイタマからヤバイ級ハッカーのナンシー=サンがリモートで応援してくれるぜ。……そうか悪い、ナンシー=サンとは面識が無いのか。とにかく、ハッキングがスゴイ」 31

2012-06-17 21:25:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「私はハッキングやUNIXには疎いですよ」ユカノが言う。「大丈夫だ。原理は単純。トーストを焼くより簡単だ。そっちのモーターチビにナンシー=サンがウィルスを送る。ここから先が難問だ。モーターチビを連れて城内の電算機室に忍び込む必要がある。するとチビが勝手にウイルスを注入する」 32

2012-06-17 21:34:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「電算機室に忍び込む?」フジキドが耳を疑った。「ああ、その方策を今から話し合おうと思ってたのさ。最初はな、俺がやろうと思ったんだ」ガンドーがハンズアップする。「大丈夫です、私がやりましょう」とユカノ。「手段を選ばなければ、脱獄くらいできるでしょう。チャンスは一度きりですが」 33

2012-06-17 21:42:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「気が早いな、ユカノ=サン」ガンドーが言った。「いざ決行となれば、ナンシー=サンが遠隔ハッキングで支援してくれる。キョートに経済攻撃を加えて、電算機室の連中の目を外に向けてくれるんだ。だが、まだ確実に決行が決まったワケじゃねえ。ヨロシサンから暗号プログラムを盗む必要がある」 34

2012-06-17 21:52:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「だが」とフジキドが言いかけた時、極秘IRC端末が鳴った。このIPを知っているということは、コケシ・サイコウか、ナンシー・リーか、あるいは敵か……ガンドーはフジキドにユカノとの通話を続けるよう促し、自分は端末を持って部屋の外に出た。敵にユカノの声を拾われれば終わりだからだ。 35

2012-06-17 21:58:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ディープスロート」ガンドーは低い声で応答する。「……ブッダ!ナンシー=サンかよ。寿命が縮まったぜ。ああ、ニンジャでも縮まるんだ。ハッキングの件で何か進捗が?ああ、五重塔のほうは仕込み済みだ。あとは暗号プログラムと経済攻撃……何だって?もう一度言ってくれ、ナンシー=サン!」 36

2012-06-17 22:02:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……数分前。キョート市内、ガイオン・サウスエアポート。オバンデス航空旅客機のファーストクラスから、サイバーサングラスをかけた金髪の女性が現れた。高級マイコアテンダントがしとやかにオジギする。「お仕事ドスエ?」「ええ、スーパーモデルよ」とその女ハッカーは悪気の無い嘘をついた。 37

2012-06-17 22:10:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

高いヒールを小気味良く鳴らしてタラップを渡りながら、女はガイオンの空気を吸う。そして胸元から改造IRC端末を取り出した。数々の違法プロキシサーバを経由し、発信先はむろんディープスロート。「予定変更。やっぱり来たわ」ナンシー・リーが言う「その方が何かと、手っ取り早いでしょ?」 38

2012-06-17 22:19:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

流石に一筋縄ではいかぬ女だ、と考えながらガンドーは言う。「安全を考えて、フライト予定をキャンセルしたとばかり」「あれは嘘よ」「知らせてくれても」「傍受可能性が否定できない。敵を欺くにはまず味方から」ナンシーはさらりと返す。ヒュウ、とガンドーは小さく口笛を吹いた。 39

2012-06-17 22:25:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【ワンツイート訳し漏れが発見されたため、ケジメされます】

2012-06-17 23:16:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「病み上がりだろ?すぐ車を……」「作戦の中で落ち合いましょ」「気が早いな」合流座標を暗号で話し合いながら、ガンドーは部屋に戻る。だが直前でふと思い立ち、ノブにかけた手を離した。思えば、通信路が開かれてから、フジキドとユカノは一度も、二人だけで話す時間を持っていなかったのだ。 40

2012-06-17 23:27:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ガンドーは既にナンシーとの通信を終えている。ユカノの記憶喪失とそれに対するフジキドの態度を思い出し、いつかシキベと何らかの形で再会を果たしたとき、自分もあのような違和感を抱くのだろうかとふと考えた。「体があって、記憶が覚束ない……記憶があって、体が覚束ない……難儀な話だぜ」 41

2012-06-17 23:27:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

一方、ユカノとフジキドは必要事項の話し合いを全て終えていた。未だ「満」メーターには余裕がある。ガンドーが帰る気配は無い。「……ユカノ、記憶はもう完全に戻ったのか?」フジキドがかつてのように問う。「ええ、フジキド。もう大丈夫。思い出しています。ドージョーの事、お爺様の事……」 42

2012-06-17 23:29:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フジキドはその丁寧な口調に、また違和感を覚えた。かつての彼女は、祖父ゲンドーソーに対してはむろん礼儀正しく振舞うが、それ以外の者にはもっと気さくで……十八歳の少女らしい自由奔放な態度だったはず。「お爺様の事は知っています」ユカノが言った「何か言い遺してはいませんでしたか?」 43

2012-06-17 23:31:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フジキドは記憶を手繰り寄せた。彼女の変化は、単純に成長によるものなのかもしれぬ、と思い直しながら。「……ユカノの事を……頼むと」「それ以外には?」「何も」とフジキド。「そうですか」ユカノはその答えを聞くと、少し嬉しそうだった。「満」メーターが危険水準に達し、警告音が鳴った。 44

2012-06-17 23:47:23