「ラスト・ガール・スタンディング」#1 (再放送バージョン)

まとめました(布教用に1だけまとめた)。
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NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

こうして、少女ヤモト・コキは転校二日目にして下校中に激しく負傷し、二週間の入通院を余儀なくされた。20

2012-07-06 20:01:58
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

強姦殺人目的のヨタモノに襲われたところへ別のシリアルキラーが乱入し、二人は命からがら逃げ出した。マッポにはそのように捉えられている。ネオサイタマのマッポー的治安状況を鑑みれば、学級委員のアサリともども、命拾いしただけでも僥倖とされた。21

2012-07-06 20:04:21
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車内で一番後ろの座席に座るのは、同じハイスクールの制服を着た男子生徒だ。アフロヘアーでティアドロップ・サングラスをかけている。異様ななりである。無言でじっと見てくるその男子生徒へ視線を合わせないように、ヤモトは外の景色に集中する。 23

2012-07-06 20:07:49
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ヤモトは一人で黙々と朝食のヒジキ・トーストを食べ、着替えると、装甲仕様のバスに乗ってハイスクールへ向かう。バスの装甲はものものしい。治安のよくない区域を通るので、投石や火炎瓶に備える必要があるのだ。 22

2012-07-06 20:07:49
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「ヤモト=サン!」停留所で乗り込んできたアサリが声をかける。口元にあざが残り、憔悴しているが、つとめて明るく振る舞っている。「オハヨウゴザイマス。ヤモト=サン、もう大丈夫?」「ドーモ、アサリ=サン」ヤモトは笑顔を向けた。「あなたこそ」「私、今日からなの」「アタイもだよ」24

2012-07-06 20:10:16
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ヤモトはアサリを嬉しく思った。アフロヘアーの注視を意識せずにすむのは有難い。ヤモトはアサリのことが好きだった。学級委員の義務感もあろうが、転校したばかりのヤモトにつとめて親切にしてくれている。繁華街にも連れ出して……それが二週間前の酷い事件の原因にもなってしまった……。25

2012-07-06 20:13:28
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極限の状況を共有したことで、ヤモトとアサリのつながりはより強くなったに違いない。ユウジョウ!つとめて他愛の無い会話をしばらく交わしたのち、「アサリ=サン」ヤモトは耳打ちした。「何?」「一番後ろの席のあれ、誰だかわかる?」アサリはアフロヘアーを見やり、ぎょっとして「知らない!」26

2012-07-06 20:16:45
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「ずっとアタイを睨んでるでしょ」「ええー……」アサリはこわごわ横目で見ながら、「あんな恐いヤンク、うちの学校で今まで見たこと無いけど……あなたみたいに、転校生かもしれないね……」ぼそぼそと小声で会話するうち、バスはハイスクール正門前に停留する。 27

2012-07-06 20:18:48
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「アタバキ・ブシド・ハイスクール」。巨大な校長彫像と進学スローガンのノボリが生徒を出迎える。「遅刻をしない」「テスト重点」「皆勤賞」。真鍮のダルマが校舎屋上から校庭を睥睨する。 28

2012-07-06 20:20:54
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授業中、ヤモトは殆ど上の空であった。あの日の恐るべき暴力衝動、シ・ニンジャという単語の意味、自分に向かって語りかけ、そしてサヨナラと言い残し消滅した声。そういったものの正体は結局わからずじまい、二週間が経っても答えが出ないままだ。 29

2012-07-06 20:23:05
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あの日発揮した人間離れした運動能力はヤモトから去らず、あれ以来、ヤモトの奥底に内在している。今ここで窓ガラスを飛び蹴りで蹴破り、そのまま校庭へ前転しながら飛び降りる事も、やろうと思えば問題無くできるだろう。まるで呼吸するように。 30

2012-07-06 20:26:12
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「ではここの一節を、オセキ=サン。ドーゾ」「ハイ。『武士は食事しないとヨウジの値段が高騰してよくない』です」「だいぶできています」センセイの質問、それへの応答は遠くで聞こえる。 31

2012-07-06 20:28:15
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「シ・ニンジャ」がヤモトの体に宿ったのは、もっと昔のことだ。長い事、自分の中にいた。潜伏期間の長い病のように。今このとき、ヤモトが手当り次第に物や人を壊して回らないのは、そうしたくないから。先日のあの時は、友達を守りたかった。だからだ。必要な時、表層にあらわれるのだ。 32

2012-07-06 20:30:23
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

……宿ったのは、いつから。ヤモトには心当たりがある。驚くほどに晴れたあの日のキョート。そう。ネオサイタマではない。キョート独立国。太陽の光を受け、ゆっくりと降ってくる影。校舎屋上から落下した男子生徒。それをなす術無く見上げていた自分、暗転する意識、恐怖。 33

2012-07-06 20:33:32
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

あのときヤモトの中に、何かが入り込んだ。そしてそれが故にヤモトは生きながらえた。そして飛び下りた男子生徒も。飛び下りた男子生徒も……生き延びた……? 34

2012-07-06 20:35:38
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

「ザッケンナコラー!」「スッゾコラー!」窓の外で罵声。ヤモトは我にかえった。「シャッコラー!」「ナマッコラー!」「アッコラー!」ヤクザ・スラングとヤンク・スラングを織り交ぜた恫喝の文句だ。コワイ!授業中であるが、生徒は先を争って席を立ち、窓にかじりつく。 35

2012-07-06 20:38:48
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

「アイエエエ!君たち!授業の途中ですよ!」「おい、見ろよ!」「誰だあいつ……」「あれだよ、転校生……」「抗争?」「髪型が……」「大丈夫なの?」口々にさえずり合う生徒たち。「君たち!席に戻って!」「だってセンセイ、他校の奴らですよ、いっぱいだよ」「アイエエエエ!?」 36

2012-07-06 20:42:00
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

ヤモトはアサリの隣に立った。アサリはヤモトを見て、「ほら、あれ、朝の」校庭を指差した。ナムサン!他校の制服姿のヤンク三十人超が校門を突破、そして生徒の一人と対峙している。後ろ姿であるが、そのアフロヘアーはあまりにも特徴的だ。 37

2012-07-06 20:44:04
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

ヤンクとは、反社会的な高校生が学校単位で組織する危険な武装自警クラン構成員の総称である。日本において、公教育制度の成立とともにその存在はあった。戦後混乱期が生徒に自衛を要請したのである。今となっては、見ての通り、社会秩序を乱すばかりの集団だ……。 38

2012-07-06 20:47:15
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

「ダオラー!」「ナンオラー!」ヤンクはリベットを打った制服をてんでバラバラに着こなし、その半数が違法改造されたスクーターにまたがっていた。もう半数は、そのスクーターの後ろに乗って移動してきたのだ。違法な二人乗り行為である! 39

2012-07-06 20:50:22
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

スクーターにはサムライめいた巨大な旗が大量に設置され、丸みを帯びた書体でピンクの威圧的スローガンが書き込まれている。「毎日暇している」「負けぬ」「恐怖」「大漁」「勉強するかわりにケンカだ」「ホームラン」。頭目と思われるスモトリ級の巨漢が釘バットを振り上げた。「ダーラー!」40

2012-07-06 20:53:28
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

お互いにアイサツは済ませたのだろうか?「とっとと始めるぜ。メシの時間だ」アフロ男は腰に手を当て、挑発した。「ザッケンナコラー!」頭目は釘バットをためらいなくアフロ男へ振り下ろす。ナムサン!だが、おお、見よ!彼の頭がトマトめいて潰れると誰もが予想したが、そうはならなかった! 41

2012-07-06 20:55:31
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

「イヤーッ!」アフロヘアー男は片手で釘バットを掴み、遮ったのである。ヤモトの首筋を、ざわざわした感触が駆けた。「ナンオラー?」「スッゾコラー?」ヤンク達はお互いに顔を見合わせ、あるいはわけもわからず叫んで威嚇した。頭目は釘バットを持ったままブルブルと震えている。 42

2012-07-06 20:58:37
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

ヤモトは自分がバタフライナイフを止めた時の感触を思い出していた。頭目は釘バットを引くこともできないのだ。「お前ら、死ぬんだぞ」バットを掴んだまま、アフロヘアー男が不敵に言う。校舎の会話が教室のヤモトの耳に入るのはなぜか。無論それはヤモトに備わったニンジャ聴力のためだ。 43

2012-07-06 21:02:11