「あいつ!」「どうしたの?」アサリがヤモトを不安げに見つめる。あいつ何かやるつもりなのか、ここで?ヤモトの胸騒ぎが強まる。あのアフロ男は自分の同類だ。ヤモトはこの正体不明の直感に疑問を持たなかった。実際その直感はアタリである。ヤモトは彼のニンジャソウルを知覚しているのだ。44
2012-07-06 21:04:31「スッゾコラー!」取り巻きのヤンク軍団は興奮し、スクーターを空吹かしする。カミナリめいた騒音が教室の窓ガラスを震わせる!「ヘイ!ヘイヘイ!」ヤンクのスクーターが数台、睨み合う頭目とアフロヘアー男の周囲をグルグルと走行し始める。学校の管理者は見て見ぬ振りを決め込んだか、無反応!45
2012-07-06 21:07:53ヤモトは衝動的に窓を蹴破って校舎へ飛び降りそうになった、そして思い留まった。そのときだ!「あれは!」「何だ?」「手品?」「コワイ!」生徒達がざわめいた。その時にはもう、全てが終わっていた……まさに一瞬の出来事だった。 46
2012-07-06 21:09:07それは白いコロイド光だった。全てのヤンクの頭部、鼻や口から、白い光の筋がアフロヘアーのかざした左手へ向かってまっすぐに伸び、集束したのだ。クモ糸か何かのようなそれが見えたのは一秒にも満たない。直後、旋回していたバイクはコントロールを失い転倒、スピンしながら地面を滑った。 47
2012-07-06 21:11:29がくり、がくり、がくりがくりがくり!ヤンク達は主を失ったジョルリ人形めいて、くずおれ、倒れ、スクーターから滑り落ち、倒れ伏した!頭目とて例外ではない!30人のヤンクが横たわる中、アフロヘアー男ただ一人が立っていた。「ヘッ!」彼が侮蔑的な笑いを吐き捨てたのをヤモトは聞き取った。48
2012-07-06 21:14:46校門の外、数台の装甲ビークルがサイレンを鳴らしながらドリフトし、停止した。学校管理者の通報を受けたマッポが到着したのだ。「あー君!そのまま!動くと私たちは君を撃つかもしれない!そのままだぞ!」拡声器から轟く警告。ジュッテや鎮圧銃を手に手に構えたマッポが次々に降りてくる。49
2012-07-06 21:17:03ヤモトは教室を飛び出していた。「ヤモト=サン!?」「気分が悪いの」アサリに短く答え、階段を駆け下り、廊下を走る。上履きのまま玄関を走り出ると、校庭では大人しくマッポに囲まれたアフロヘアー男が今まさに連行されようとしていた。地面には倒れて動かないヤンク達……。 50
2012-07-06 21:19:07「殺したの?」ヤモトは叫んだ。アフロ男はヤモトを見返した。口元のニヒリストめいた笑みが一瞬だけ消え、真顔になった。「さあ歩け!」チョウチンを持ったマッポがアフロ男の背中をどやしつけた。「痛ェ。被害者ですよ俺は」マッポは顔をしかめた。「チッ、話は署で聞く!歩け」「ハイ、ハイ」51
2012-07-06 21:22:20「オイッ!ショーゴー・マグチ!」スチール・ショウジ戸の覗き穴が開き、ドスのきいた声が呼びかけた。ショーゴーは1ユニットしかないタタミの上で膝を折って寝ていた。隣にはカワヤ式の便座がある。「ショーゴー!聞こえねえか!お迎えだぞ!一生そこにいてえのか!」 53
2012-07-06 21:24:29「まだここに来たばっかりじゃん」ショーゴーはアフロヘアーをいじりながら起き上がった。「まあいいや。だから俺は無実だって言ったろ、勝手にあいつらが心臓発作でさ」「黙れ!」「お迎えって、誰だよ」「……」ショウジ戸の向こうが沈黙する。 54
2012-07-06 21:27:35返答代わりにスチール・ショウジ戸が開き、照明の光が留置室に入ってきた。室外へ出ると、廊下では看守ともう一人、スーツ姿の男が待っていた。「ドーモ。ショーゴー=サン」スーツ姿の男がショーゴーにオジギした「私の名はフマトニです。探すのにちょっと難儀しました。お会いできて嬉しいです」55
2012-07-06 21:29:37「誰よアンタ」ショーゴーはアイサツを返さず、アフロヘアーをいじりながら態度悪く言った。そちらを見もしない。現代的退廃高校生態度!一瞬の気まずい沈黙があったが、フマトニはにっこり笑った。「君の身元引受人ですよ。まあ、君が望むならあのまま大量殺人事件の容疑者になるのもいいが」 56
2012-07-06 21:31:55ショーゴーはアフロヘアーをいじりながら言った。「なんかアンタ気に入らねえ。じゃあ俺、このまま大量殺人事件の容疑者になるわ」「ま、待った!」フマトニは笑顔のまま慌てて、「本当に害意は無いんですよ、ここではちょっとね、色々言うのがはばかられてねェ」看守へ気遣わしげな視線を送る。 57
2012-07-06 21:34:00「言やァいいじゃん」ショーゴーは看守に向けて手をかざした。「ア……アババーッ!?」看守の口から白い光が伸び、ショーゴーの手のひらに吸い込まれる!直後、看守は白眼を剥いて床に倒れた!ナムアミダブツ!「どうだ、これで。邪魔者、いなくなったぜ」ショーゴーは薄笑いをフマトニに向けた。58
2012-07-06 21:36:09フマトニの反応はショーゴーの予想外だった。それまでの笑顔がかき消え、酷薄な目つきがあらわられたのだ。「チッ。狂犬め」カタナを交差させた意匠の金のバッヂが不穏に輝いた。「教育が要るか?大人をなめるなよ」「何だと」「イヤーッ!」 59
2012-07-06 21:39:15「イ、グワーッ!?」ショーゴーは反射的にフマトニへ「力」を用いようとしたが、まるで遅かった。手をかざそうとした時には既に顎をイタリア靴の爪先で蹴り上げられ、天井に頭部をぶつけて落下!アフロヘアーがクッションとなったが顎は蹴りを受けて外れ、発声ができぬ!「フガ、フガフガッ!」60
2012-07-06 21:41:22「ケチなニンジャソウルひとつで世界の王になったつもりだな?甘い、甘い!想像力ってもんを働かせろ。な?」フマトニはショーゴーの背中をイタリア靴で踏みつけた。「ゴジュッポ・ヒャッポ。お前は俺らの世界じゃヒヨッコよ。で……」フマトニはジッポーでモノホシ・タバコに着火し、灰を落とす。61
2012-07-06 21:44:31「グワーッ!」アフロヘアーに灰を落とされ、ショーゴーがもがく。フマトニは無慈悲に言った。「お前のせいで予定が狂ったぜ。選択の時間だ。いいか、お前はニンジャだ。俺たちにとって価値がある。お前次第だ。俺とシンジケートに来るか、それともここで死ぬか。今すぐ決めな」 62
2012-07-06 21:47:41ショーゴーはうつ伏せのまま苦労して顎を嵌め直した。「ザッケンナコ……」「聞こえねえな!」イタリア靴で背中を踏みつけながらフマトニは無慈悲に言う。「あらためてアイサツしてやるよ。ドーモ、ショーゴー=サン。俺はソウカイ・シックスゲイツのニンジャ、ソニックブームだ」「ニンジャだと」63
2012-07-06 21:49:46「そうだよガキィ!」ソニックブームが威圧する。「俺もお前もニンジャだ!お前がケチなケンカした事がシンジケートの耳に入ったんだよ、残念だな!遊びは終わりだ!」「グワーッ!」踏みつける!「お前、いつニンジャになった?そう昔でもねえだろう。不注意なんだよ、お前は!」「グワーッ!」64
2012-07-06 21:51:52ソニックブームが足に力を込める!「グワーッ!グワーッ!」苦しむショーゴーの薄れゆく意識に、「あの時」のビジョンがフラッシュバックする。屋上から見上げた眩しい太陽、バイオセミのけたたましい鳴き声。飛翔…… 65
2012-07-06 21:53:55……両親と妹が自分を置いて失踪し、昼夜を問わず闇ファイナンスのバウンサーがアパートへ恫喝に訪れるようになった時。日常に何の楽しみも持たず、友人もおらず、勉強もできず、スポーツをせず、好きなアニメ・コンテンツも無かったショーゴーは何一つ取りうる行動を持たなかった。一つを除いて。67
2012-07-06 21:57:02その日キョートの空は雲ひとつない快晴で、たいへんな暑さであった。四方に配置されたクロームのシャチホコ・スタテューが鈍く日光を反射する。校舎屋上に立つと、バイオセミの鳴き声が不快な湿気を伴ってまとわりつくようだった。ショーゴーは遺書は書かなかった。見せる相手がいないからだ。 68
2012-07-06 21:59:08