ファスト・アズ・ライトニング、コールド・アズ・ウインター #2

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「フー」メイヴェンは一仕事終え、軽く息を吐く。ダストボックスの隣の冷却ボックスを指差した。「カンオケに入れておけ」「ハイ!」イタマエ社員が一斉に叫んだ。メイヴェンは邪悪なニンジャであり、己のメンツを傷つけた無能者の殺害に何の躊躇いもない。洗浄ルームを通り抜け、厨房に入る。24

2012-09-15 19:26:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「社長!よろしくお願い致します!」厨房内のイタマエ社員が一斉にオジギした。「スピードだ。スピードで忠義を示せ。スピードだぞ」「ハイ!」「知っての通り支店長はセプクした。貴様らの中から次の支店長を選ぶ可能性も十分ある。その者は給与が二倍になる」「ありがとうございます!」 25

2012-09-15 19:37:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

メイヴェンは様々なオーガニック魚が水槽内を泳ぎ回る厨房を通り抜け、カウンターに立った。「宜しくお願い致します!」「ハイヨロコンデー!」氷でできたまな板の上にマグロ肉が投げ出された。オーガニックだが安定供給され実際安い。秘密裏に養殖されたマグロだ! 26

2012-09-15 20:12:16
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「エーラッシェー!」メイヴェンは神秘的な言葉を口にした。実はこの単語はニンジャスラングに近いパワーワード。平安時代のスシ儀式に用いられた秘密の言葉だ。カウンター客は喜びと期待に目を輝かせる。包丁を持つメイヴェンの腕が霞んだ。ハヤイ!赤いマグロ肉は一瞬で適切にスライスされた。 27

2012-09-15 20:15:24
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メイヴェンは釜にシャモジを繰り出し、凄まじい勢いでコメを空中に跳ね上げてゆく。それぞれが適切なスシ一個分の米量だ。カウンター客がどよめいた。「魔法だ!」誰かが叫んだ。実際魔法めいたワザマエだ!メイヴェンはジャグラーめいて腕を動かし、降ってくるコメで次々にマグロスシを握る! 28

2012-09-15 20:18:39
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「ヘイオマチ!」「次はオーガニック・アナゴ宜しくお願い致します!」イタマエ社員がオジギし、ヘビめいた生物を差し出す。ナ……ナムサン、オーガニック・アナゴだと!?アナゴはマッポーの世においてもはや漁獲できず、バイオアナゴに取ってかわられた筈。しかしこれは紛れもなく真のアナゴ! 29

2012-09-15 20:25:59
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「イヤーッ!」のたうつアナゴの頭部めがけ、メイヴェンは巨大な針を叩き込んだ。アナゴの頭部が串刺しだ!さらにメイヴェンは包丁を滑らせてこれをヒラキすると、串を打ち込み、ハケでタレを塗りつけた。ハヤイ!そして滑らかだ!「グリル!」「有難うございます!」社員が受け取り、グリルへ!30

2012-09-15 20:33:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ワオオーッ!」客が沸いた。もはやこれは劇場だ!メイヴェンはカウンターを見渡す。(((光!音!パフォーマンス!絶やさぬ刺激!食とはプロパガンダであり、洗脳だ。この場に居る連中は、もはや口を開けて餌を待つばかりの養殖動物よ!))) 31

2012-09-15 20:40:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キャバァーン!座敷席からキャンペーン音!メイヴェンは指差した。「おめでとうごさいます!貴方は今日のお会計が無料だ!」「アバーッ!」驚愕のあまり客は仰け反った。「ワオーッ!」「社長」社員が耳打ちした。「コミノ=サンという方から連絡が」メイヴェンは頷いた。「暫く貴様らでまわせ」32

2012-09-15 20:52:36
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メイヴェンは一礼して退出し、事務所へ戻った。当然、メイヴェンの恐るべきワザマエに比するスシシェフなどこの場に存在しない。だが、十分だ。一度彼のパワーワードと扇動的ワザマエを体験すれば、後はアトモスフィアを食っているようなものなのだ。そして食材はオーガニックであり、実際安い。 33

2012-09-15 21:00:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

然り。問題は何も無い。客は喜び、チェーンは拡大し、弱小店舗は併呑される。従業員は研修によって自我を亡失し、メイヴェンに絶対忠誠。低賃金で喜んで長時間労働する。マシーンよりも低コストだ。これにより更に安さを確保し、他店に圧力をかける。 34

2012-09-15 21:05:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

大量発注による低コスト化。ビッグバジェットはパワー。中小スシ屋では決して真似が出来ない芸当だ。しかもスシネタはオーガニックときている。質!安さ!王道的勝利への進軍だ。「ドーモ。コミノ=サン。メイヴェンです」彼は扉を閉め、通信機に囁いた。「……ああ。その通り。ネズミは消した」 35

2012-09-15 21:13:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……そうだ。一切問題無し。貴社においても、より一層警戒を怠らぬよう。……私が例のプラントの不祥事を知らんとでも?なに、独り言よ。互いに節度を守り、ウィンウィン関係でいたいものだ。それだけだ……オタッシャデー」 36

2012-09-15 21:29:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

通信を終え、メイヴェンは「社長」 と金捺しされた重箱を見やった。彼は無雑作に重箱を開けた。オーガニック・トロマグロやオーガニック・アナゴを初めとする最高級スシセットだ。「フン」メイヴェンは鼻を鳴らし、トロやアナゴを避けて、イカスシやトビッコを口にした。そして蓋を閉めた。 37

2012-09-15 21:40:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「勝手な真似をした」フジキドは詫びた。「だがこれしか無かった。戦うのなら」「そうです」老店主は頷いた。「いや、有難かったですよ。うまくやってくれて。どのみちこの店はこのままじゃ抵当に取られちまうんです。でも……これで、スシ勝負だ。晴れ舞台です。俺のスシ人生の締めくくりですよ」39

2012-09-15 21:52:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

エーリアスはバイオアナゴ・スシを飲み込み、チャを飲んだ。「アンタさ……」フジキドを見た。フジキドはスシを食べている。老店主に聴こえぬよう、囁いた。「アンタ、セプクを賭けるなんて……何考えてんだ」「そのくらいせねば、敵も乗って来るまい」「負けたらどうすンだよ」「……死ぬ」 40

2012-09-15 21:56:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」「おやじさんのワザマエを信じている」フジキドは低く言った。「とても、旨いスシだ」「……」エーリアスは眉根を寄せた。「相手はニンジャだぜ……」フジキドはチャを飲んだ。「なあ」エーリアスは肩を掴んだ。「何考えてる?」「……」「死に急いでるのか?」 41

2012-09-15 21:59:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(「ファスト・アズ・ライトニング、コールド・アズ・ウインター」 #2 終わり。#3 に続く)42

2012-09-15 22:00:53