キリング・フィールド・サップーケイ #1
「ヤメテー!」奴隷サイバーゴス女が、ヤスオを守るために殺し屋の足元にすがりつく。それを野良犬か何かのように蹴り飛ばしたデソレイションは、コッポドーを構えた。ハッカー・バロンは浜に打ち上げられたマグロじみて口をパクパクさせながら、両手とサイバネ・アームで反射的に股間を守った。 45
2012-09-23 23:47:00「アイエエエエエエエエエ!」「イヤーッ!」……ハッカー・バロンの絶叫がエンガワ・ストリート雑居ビルの窓から漏れ出し、すぐに停止した。インガオホー!その叫びは、ネオサイタマに降る冷たく湿った重金属酸性雨の音にかき消され、誰にも聴きとげられることはなかった。 46
2012-09-23 23:55:43「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」荒んだドージョー内では、黒いハカマ・ウェアに身を包んだ何人もの門下生が並び、マグロめいた目で木人にコッポ・コンビネーションを叩き込んでいた。前師範の偉大なウキヨエ肖像画は顔を塗り潰され、「反則する」「非道な」などのノボリが立ち並ぶ。 48
2012-09-24 00:04:43ここはデソレイションが経営する暗黒コッポ・ドージョーである。かつては反則技や私利私欲による暴力行為を禁じ、女性に護身術なども教える高潔なドージョーであった。ニンジャソウル憑依前のデソレイション……本名タギ・トワも、その凶悪性を師範タコロー=センセイに看破され、破門された。 49
2012-09-24 00:21:28かつて師範代の座についていたタギ・トワは、タコロー=センセイにその事実を隠したまま、密かに殺人依頼を請け負っていた。単純にカネのためか、あるいは法で裁けぬ悪党共に義憤を覚えたか……今となっては荒廃の彼方に忘れ去られたが……タギが嬉々として殺人術を振るったことは事実である。 50
2012-09-24 00:33:50すでにその頃から、彼の胸にはサップーケイが形作られ、侘しい風が吹き始めていた。その後破門され、ネンゴロであったタコローの娘との仲も引き裂かれたタギ・トワの精神は、荒廃を極めてゆく。やがて彼は邪悪なドージョー・ヤブリとして戻り、タコロー=センセイと娘を殺して師範の座を奪った。 51
2012-09-24 00:41:32読者の皆さんは、奇妙に思うことだろう。だがドージョー・ヤブリが行われた場合、門下生は新たな師範に忠誠を誓わねばならない……たとえどんなに卑劣な相手でも。さもなくばセプクだ。平安時代から続くこの伝統は、マッポーの世にも未だ残っている。かくしてタギはドージョーの支配者となった。 52
2012-09-24 00:48:58タギはその瞬間から捨て鉢だった。門下生に理不尽な暴力を振るい、ゲコクジョ・デュエルを誘って殺し、神聖なドージョーで酒を飲み、オイランを抱き、大っぴらに殺人稼業を営み始めた。またタコロー=センセイの教えをあらゆる手を使って貶めた。「正々堂々」のノボリは「反則する」に変わった。 53
2012-09-24 00:53:55タギ・トワは気まぐれに狼藉を働き、博打を打った。門下生が減ってくると、周辺のカラテドージョーに対してドージョー・ヤブリを行い、新たなマグロの目の門下生を連れてきた。彼の居室であるトコノマには、戦利品であるカンバンが十数個、敬意を払われることもなく雑然と積み上げられていった。 54
2012-09-24 01:03:36いかなネオサイタマといえど、タギの自己破滅的な犯罪行為は目に余るものだった。ある日、仕事を終えた彼は廃工場でヤクザクランによる待ち伏せ射撃を受けた。インガオホーで実際死ぬと思われたが……彼はいつの間にかニンジャソウル憑依者となっており、覚醒した力で窮地を脱してしまったのだ。 55
2012-09-24 01:12:58そして今、エンガワ・ストリートから帰った彼は、トコノマで依頼人に殺人映像を見せている。皮肉にも、デソレイションに唯一残っている人間味があるとすれば、それは殺人稼業への誠意だ。デソレイションは当の昔に殺人稼業の意義を忘れ、自らに課したノイズまみれのプロトコルと化してはいるが。 56
2012-09-24 01:29:30上空……汚染されたどす黒い雷雲の中を、マグロツェッペリンの編隊がうっそりと飛んでゆく。『裁きの日は近い……』重金属酸性雨にぬめった液晶ディスプレイには、逞しく日焼けした上半身を露にしながら高々とバスタードソードを掲げるあの男の姿とLED字幕が、暗示的に映し出されていた。 57
2012-09-24 01:38:05ズガガーン!ズガガガガーン!激しい雷鳴が鳴り、ソリマチ・ハイウェイを走る武装ヤクザベンツ軍団を照らす!車内には、アマクダリ社章バッジを左胸に輝かせるクローンヤクザたち。そして最後尾車両には、月飾りの武者兜を被り腕組みで座る、青色装束のニンジャ。その瞳は復讐の炎に燃えている! 58
2012-09-24 01:47:45ズガガーン!ズガガガガーン!再び雷鳴。空が破れたように重金属酸性雨が叩きつける。同時刻、デソレイション・ドージョー・ビルの前には、防塵トレンチコートにハンチング帽の男が立っていた。彼は鋭い目で見上げ、窓に貼られた「コッポ・ドー」「募集中」「月謝」などの欺瞞的ショドーを睨む! 59
2012-09-24 01:56:22