〔AR〕その24 セクション4

東方プロジェクト二次創作SSのtwitter連載分をまとめたログです。 リアルタイム連載後に随時追加されていきます。 著者:蝙蝠外套(batcloak) 前:セクション3(http://togetter.com/li/411869)
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BIONET @BIONET_

めまぐるしく移り変わる、生と死のファンタスマゴリア。 絶えず変幻する景色は、そう表現できるかもしれない。竹の一生を背景に、様々な生命の変遷が上演されているような気がした。 こいしとはぐれたさとりは、恐怖と寒気に震えながら、竹藪をかき分けた。こいしの声はあれからずっと聞こえない。

2012-11-23 23:01:47
BIONET @BIONET_

視界が信用できない。瞬きの一瞬後には、周囲の光景は一変している。その上、本物の竹ととっさに区別が付かないため、どう前に進んでいいかすらわからなくなってくる。一歩踏み出したかと思ったら現実に密集した竹に衝突することは、もはや何度あったろうか。

2012-11-23 23:08:01
BIONET @BIONET_

おかげで、厚手の上着のあちこちは擦れたり、破れたりして、顔面のガーゼはずれ、手の包帯も緩んでいる。その隙間を突くように、冷たい空気がさとりの肌を、傷口を苛んだ。 「うう……うう……」

2012-11-23 23:12:09
BIONET @BIONET_

傷口が痛みを発する度にさとりは呻く。と同時に、その痛みと呻きが、かろうじて彼女の体を動かしているようなものだった。 それでも、元より精神的にまいっていた状態で強行軍を続けていたさとりの肉体は、確実に疲労が蓄積し、抵抗力が落ちてきた。

2012-11-23 23:16:10
BIONET @BIONET_

ざわり、と首筋が泡立つ。おとぎ話にでてくる竹取りの翁のような老人の影法師とすれ違った瞬間、さとりの体を支えている力はがくりと抜けていった。 「ぐっ……」 まるで、その影法師に力を吸われたかのようだった。危うく倒れ伏すところを、体の芯が辛うじて引き戻す。視界が斜め下に落ちる。

2012-11-23 23:20:17
BIONET @BIONET_

そこで、さとりは何かを発見した。幾度か瞬きし、幻惑の変化が及んでいないことを確かめたところで、それが何なのかが認識できた。 地面が少し盛り上がり、さらにそこに木のうろのような穴が空いていた。何らかの動物が掘った巣か、それとも妖精の作った落とし穴の出来損ないか。

2012-11-23 23:26:46
BIONET @BIONET_

今のさとりには判断がつかなかったが、ふとした思いつきで、さとりはその穴の中に転がり込んだ。 内部は思ったよりは広く、彼女一人が身を縮こませて入る分には問題なかった。奥にまで入り込んださとりは、箱に押し込められるように体を丸める。

2012-11-23 23:31:47
BIONET @BIONET_

幻影は、穴の中にまでは入ってこないようだった。動く必要がなくなったと判断したさとりは、深く息を吐いた。  だが同時に、わずかながらも体を持ち上げようとしていた気力も弛緩していき、途端に破滅的な不安感がさとりを押しつぶしにかかった。 「やだ……もうやだよぅ……」

2012-11-23 23:35:38
BIONET @BIONET_

もはや、壊れかけた精神をつなぎ止めるようなエネルギーは、さとりには残されていない。ただ、じんわりと、粉砕されていくのみだった。 唯一彼女を支えていた、妹のこいしとも、はぐれてしまった。今のさとりに、こいしの無事を祈れる楽観性は、存在し得ない。

2012-11-23 23:37:19
BIONET @BIONET_

何故、こんなことになってしまったのか。これも、いき過ぎた望みを抱いて失敗した罰なのか? もういっそ、あの影法師と同じような存在になれば、どんなに楽だろう。地霊殿で見た、昔死んだペット達の姿は、生前と変わらず生き生きとしていた。きっと、あらゆる苦しみから解放されているに違いない。

2012-11-23 23:38:40
BIONET @BIONET_

心を読む必要もなくなり、恐れられることもなくなる。何も感じず、何にも煩わされず、ただぼんやりと漂うことができれば――それはどんなに素敵なことだろう。 ならば、どうすればいいか。おそらく簡単なことだ。たった一つのシンプルな答え。

2012-11-23 23:39:02
BIONET @BIONET_

それは、自らを、死――。

2012-11-23 23:39:08
BIONET @BIONET_

「ナンカ、ミツケター」 「――?」

2012-11-23 23:39:18
BIONET @BIONET_

今や遠ざかったこいしの声、そして竹を揺らす風のささやきとは違う音を、久々に聞いた気がする。  次に目に飛び込んできたのは、妖しげな燐光をかき消す強い明かり。さとりは眩しさのあまり目を堅く閉じた。 「どうしました?」

2012-11-23 23:41:28
BIONET @BIONET_

また別の声だ。先ほどの抑揚のない音声とは違う、確かな人間の声。 さとりは、その声に聞き覚えがあった。それと共に、唐突と第三の目に押し寄せてくる情報量。 穴の内部を照らす光が、少し遮られた。何者かが穴の中をのぞき込んだようだった。 さとりは、閉じた眼を開いて、穴の入り口を見やる。

2012-11-23 23:41:53
BIONET @BIONET_

侵入者と目が合う。瞬間、視線を重ねた二人は、お互いに呆気にとられたような顔だった。 光を放つ人形を掲げて、のぞき込むのは、紅顔の少女。 名は、稗田阿求。あの日以来、さとりは片時も、この少女の顔を忘れることはなかった。

2012-11-23 23:42:19
BIONET @BIONET_

「な、なんでここに――」 阿求は、唖然とした表情で、穴の中にうずくまるさとりを見下ろした。あまりにも唐突で、意外で、脈略のない展開。  阿求と上海人形は先行したアルフレッドを見失ったままに竹林を突き進んでいた。そして、竹林の異変の様子を悪夢そのもののように見ることとなった。

2012-11-23 23:44:53
BIONET @BIONET_

急激に変化する道に対して、阿求は、変化していない地面と己の記憶を照合しながら、ある道を進んだ。阿求は一旦、竹林の案内人をしている藤原妹紅の住まいに赴き、彼女の無事を確認し、そして助力を請おうと考えたのだ。

2012-11-23 23:45:06
BIONET @BIONET_

だがその途中、再度アルフレッドが姿を現した。もう何度かわからない逡巡の果てにアルフレッドを追うことを優先した阿求は、その行く末で、こうしてさとりを発見することになった。

2012-11-23 23:45:15
BIONET @BIONET_

もしやアルフレッドは、さとりの存在を知らせたかったのか? その思いつきを立証する手だてはない。 そして、今のこのような状況の竹林の中で、まごまごしている意味などない。 (詳しい事情は後、後!) 「さとりさん! 早くここから出ましょう!」 「え、う……」

2012-11-23 23:45:40
BIONET @BIONET_

だが、しかし、やはり、彼女から発せられる圧倒的な記憶の量が、さとりに大きく立ちはだかる。あの日の決裂を思い出し、さとりの身はすくんでしまう。 「う……いや……」 「でも、ここにい続けるのはよくないですよ!」

2012-11-23 23:46:49
BIONET @BIONET_

「いやよ……いや……私に、かまわないで……」 そのかすれ声が、阿求の心を軋ませた。 紫から教えてもらったことだ。さとりにとっては、阿求こそが恐怖の対象たりうるのだと。今、こうして近づいているだけで、さとりに害をなしているようなものなのだ。

2012-11-23 23:47:16
BIONET @BIONET_

(……だから、だからって!) 阿求は、上海人形を手からリリースする。空いた片手で穴の縁をつかみ、そしてもう片方の手を、穴の中のさとりへと差し出した。さとりの目の前に迫る、細い手。さとりは、怯えながらも、その手をまじまじと眺める。

2012-11-23 23:47:33