〔AR〕その21前半

東方プロジェクト二次創作SSのtwitter連載分をまとめたログです。 リアルタイム連載後に随時追加されていきます。 著者:蝙蝠外套(batcloak) 前:その20(http://togetter.com/li/394278) 続きを読む
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BIONET @BIONET_

「香霖、次はあれが食べたいぜ」 「まずはその串を手放してからにしたまえ」 突き抜ける蒼天、煌めく太陽の虹彩。 人里は、神に祝福されたような――実際神が祝福したかもしれない――秋晴れの元、祭囃子に沸いていた。

2012-10-23 20:30:58
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紅葉の神は穏やかな風に流されながら紅葉を舞い散らし、豊穣の神は男衆が担ぐ御輿の上で秋の恵みを歓声上げつつばらまいていた。 「本当にあいつら秋は元気だな。ま、今元気にならずしていつはしゃげって話か」

2012-10-23 20:31:34
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「彼女たちは冬眠するようなものだからね。今この瞬間、信仰を集めるだけ集めて備えないとならないのだろう。大はしゃぎすればすむあたり、熊とかよりは幸せかもしれないが」 人家の屋根づたいに飛び回る静葉と、街道を練り歩く御輿に揺られる穣子を見て、霧雨魔理沙と森近霖之助は話していた。

2012-10-23 20:36:59
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「まぁ木枯らしと芋の話はいい。香霖、あれ買ってくれよ」 「今度はなんだい。さっきも言ったが、食べ物ならまずその手に持ってる串をどうにかしたまえ」 魔理沙は焼き鳥の串で鮎の塩焼き屋台を指しながら、空いているもう一方の手で、ねだるように霖之助の手を握った。

2012-10-23 20:37:40
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二人が今歩いているのは、人里に何本かある主要な街道の一つで、道の脇にはこれでもかと屋台が立ち並んでいる。当然人手もかなりのものであり、あまり揚々と立ち止まることはできない。 人波を避けながら屋台を巡る魔理沙と霖之助に、声をかける者がいた。

2012-10-23 20:38:08
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「あら、妹さんのおねだりは大変ですことね、お兄さん?」 「あ? 何を意味不明なこと言ってんだ、お前は」 「同意したいところとしかねるところがあるな」 魔理沙と霖之助が同時に肩越しに振り返ると、そこには、二人にとって予想通りの人物がいた。風見幽香である。

2012-10-23 20:38:25
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「勘違いしないうちに言っておくが、私はこの出不精に、甲斐性を発揮させてやってるだけだぜ」 「ふうん、なにか勘違いされたくないことでもあるの? ねぇ?」 「さぁてね」 幽香はいつものように意地の悪そうな表情で、二人の間に割ってはいるように歩み寄った。霖之助は軽くため息をついた。

2012-10-23 20:40:25
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「魔理沙があまり余計なことを言う前に、僕の方からもはっきりさせておきたい。僕は魔理沙に引っ張られて今日ここにいるわけではなく、目的があって自分から赴いたんだ。魔理沙のお守りはついでだよ」 「へぇ、花見にも満足に出てこない貴方が珍しい」

2012-10-23 20:41:10
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「里の酒屋が地ビールを作ったと聞いてね。ビール自体がそう飲めるものではないし、日持ちがしないらしくて、すぐ飲みきるために大放出だそうだ」 「おい、香霖。そんなの初耳だぞ? ビールと聞いたら私も黙ってはいないぜ」 魔理沙は霖之助の視線を幽香から外させるように、その手を引っ張った。

2012-10-23 20:42:47
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「祭りの宣伝を見ればわりと目に付くはずだが。松の広場で露天酒場をやるってのは今回の目玉の一つだよ」 「んん? 滅多に人里に行かないお前が、なんで祭りの宣伝を知ってるんだ? 天狗の新聞に挟まってたか?」 「いや、バイオネットの公開ページだよ。人里の掲示板と同じものが見られるんだ」

2012-10-23 20:44:42
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人里の祭りは、度々里外の人妖が集うが、今回の秋祭りは、バイオネットを利用して、大々的な宣伝を行ったという。 「今までも、宣伝を行う天狗の新聞はあったはあったけれど、その内容は新聞ごとに偏りがあって、いまいち実際の催し物の全容がつかみづらいものだった。刊行時期もバラバラだしね」

2012-10-23 20:48:16
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「独自性を出すという名目で行われる情報の劣化ね」 「しかしバイオネットは、誰かから少しでも話を聞けば、いつでも詳しい情報が参照できる。それによって、自分が求めるようなものがあるかも判断しやすいのだろう」 「――つまり、どういうことだってばよ?」

2012-10-23 20:50:51
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「好奇心に飢える里外の住人にとっては、押しつけられて終わりな天狗の新聞より、自分から探しにいけるバイオネットの方が、結果として有益になりやすい、ということね」 幽香があざ笑うように魔理沙へ助け船を出すと、霖之助は頷いた。

2012-10-23 20:51:19
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「ふーん。とりあえず便利なのはわかった。やっぱりお前のところから持ってくればよかったな」 魔理沙は残っていた焼き鳥を全て口の中に放り込んで、丁度近くにあったくず入れに裸の串を投げ捨てた。 「そんなことしなくても、店にきて使えばいいだろう。どうせしょっちゅう入り浸っているんだ」

2012-10-23 20:53:12
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「わかってないな。研究のために独占したいに決まっているだろ」 「香霖堂の端末の寿命は、風前の灯火ね」 「勘弁してくれ」 霖之助は眉を寄せてうなだれた。近い将来、本当にそうなりそうな危惧が彼の脳裏に去来した。

2012-10-23 20:53:41
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「さて香霖。約束通り串を手放したから、あれ買ってくれよ。そしてビールを飲みに行くんだぜ」 「約束した覚えはないが――まぁ、屋台のものなら持ち込み可のはずだから、買っていくのも悪くはない。君もどうだい?」 「あら、おごってくれるのかしら? でも私は、お酒だけでいいわ」

2012-10-23 20:54:06
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「そうか。じゃあ魔理沙、二尾買ったら広場にいこう」 「ちょっとまて。幽香、付いてくる気か」 露骨にいやそうな顔を見せる魔理沙に向けて、幽香は目を細めて笑った。 「悪くて? 私も、露天酒場でワインとブランデーを飲みたいと思って、ここに来たのよ」

2012-10-23 20:54:58
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「ワインか。今年は例年になくブドウが豊作になったそうで、過去最高の出来と喧伝しているところがあったような――何はともあれ、質のよいものが色々味わえそうだ」 「よく紅魔館の連中に買い占められるから、早いところ口にしておきたいのよ。冬場の常備酒としてもうってつけだしね」

2012-10-23 20:55:23
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「私は咲夜にねだれば、いくらでもホットワイン飲ませてもらえるから別に困らないがね。どうだうらやましいだろう」 「ところで香霖堂さん、確か松の広場って、近くに大きな道具屋がなかったかしら?」 幽香は、とてもにこやかに――ともすれば背筋が寒くなるような笑顔で――街道の先を指さす。

2012-10-23 20:56:03
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人が多いので見えにくいが、その先にあるのが、松の広場である。 「ん? ああ、直に面しているわけじゃないが、霧雨道具店は松の広場を抜けてすぐのところだよ。霧雨家の二階からは、松竹梅の三広場を見渡せるようになってる。そもそも広場の整備は、霧雨家が代々出資していて――」

2012-10-23 20:56:54
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「香霖、竹の広場を通っていくぜ。途中でつまみの追加をするためにな」 魔理沙はいつのまにか二尾の鮎の紙包みを抱え、霖之助の手を広場とは別の方向に引っ張っていた。 「なんで? わざわざ迂回することもないだろう。つまみにしても、ほら、数件先には枝豆売りもあるし」

2012-10-23 20:57:39
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「竹の広場の方角から香ばしいキノコの匂いがするんだ。お前わからないのか?」 「犬じゃあるまいし、わかるわけないだろう」 「ついこの間剪定用の鋏を買いに行った時、霧雨の店主さんも、祭りでビールが飲めることを楽しみにされていたわ」

2012-10-23 20:58:23
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「ああ、そうだろうね。親父さんは妖怪にも負けない酒豪だし、もしかしたらすでにできあがってるかも――」 「おい、いくぞ香霖!」 「わかったわかった――風見さん、どこか席が空いていれば、そこで落ち合おう」 「ええ、先に行ってるわ」

2012-10-23 20:58:45
BIONET @BIONET_

霖之助は肩をすくめながら、魔理沙の牽引に従う。二人は、そのまま街道を外れて別の道を進んでいった。 「うふふ」 その姿を見送った幽香は、嬉しそうに歪む口元を手で押さえた。 「今日は酒の肴に困らないわぁ。ああ、今から涎が垂れてしまいそう」

2012-10-23 21:01:47
BIONET @BIONET_

口の中に酒が入る瞬間を想像しつつ、幽香はあくまでののんびりと歩みを進めた。おそらく、屋台を冷やかしながら歩いていっても、魔理沙と霖之助よりも先に、広場に着くであろう。 そこで。 「あ、ごめんなさい!」 「あら」

2012-10-23 21:03:08
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