〔AR〕その22

東方プロジェクト二次創作SSのtwitter連載分をまとめたログです。 リアルタイム連載後に随時追加されていきます。 著者:蝙蝠外套(batcloak) 前:その21前半(http://togetter.com/li/395383) 続きを読む
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BIONET @BIONET_

まず結論から言うと、第百二十七季の人里の秋祭りは、大盛況のうちに幕を閉じた。それこそ、酔いつぶれた人妖が翌日の朝日で目を覚ますまで。

2012-10-30 20:31:32
BIONET @BIONET_

野鳥観察会のカウントによると、来場者数は例年を上回る人手が記録された。それが、バイオネットによる里外への宣伝効果であるかどうかは、今後の統計解析次第だが、少なくとも、多くの催し物が成功を収めたことは疑いようもなかった。

2012-10-30 20:31:46
BIONET @BIONET_

そんな、かつてない盛り上がりを見せた祭りの後に訪れる寂しさは、格別だった。秋の神々が、祭りの後かたづけと共に姿を消したかと思えば、幻想郷の空には寒気の一団が押し寄せ、空気を冬のそれに取り替え始めた。幻想郷の住人は、等しく冬の到来を知った。

2012-10-30 20:33:13
BIONET @BIONET_

そんな寂しさを助長するようなニュースが、寒気と共に幻想郷を飛び交った。 幻想郷全体を結ぶ通信インフラ、バイオネットが、神無月の末日で一旦サービスを休止するという発表が、花果子念報を通じて報じられたのだ。特にバイオネットの利用者にとっては寝耳に水のタイミングである。

2012-10-30 20:33:46
BIONET @BIONET_

休止の理由は、システムに発生した不具合の解消と、新バージョン意向のための準備という二点。不具合についての詳細は明らかにされなかったが、花果子念報が伝えるところによれば、バイオネット端末、ないしバイオネットの通信網となる地脈に、幽霊が寄りつくやすくなるケースがあるのだという。

2012-10-30 20:34:18
BIONET @BIONET_

幽霊が集まれば気温が著しく下がるため、これから冬に突入する幻想郷にとっては確かに無視できない問題だ。唐突な発表に人々は首を傾げつつも、休止の発表を受け入れ、日常に戻った。 しかし、一方で、日常に非可逆の変化が訪れた者達もいた。それを語るために、時を遡ることにしよう。

2012-10-30 20:34:34
BIONET @BIONET_

人里の秋祭り。時刻はまだ正午に達していない。 人里の三広場の一つ、梅の広場は、神道、仏教、道教の三勢力による信仰獲得合戦の坩堝と化していた。 と、書けばゆゆしい事態のように聞こえるが、実際のところは、守矢神社、命蓮寺、豪族仙人三人組による、取るに足らない客寄せ競争の場であった。

2012-10-30 20:35:34
BIONET @BIONET_

「さぁ皆さん! 今年のもりやそばも歯ごたえ十分風味最高で絶品ですよ!」 「乳製品はお釈迦様が悟りを開いたきっかけ! ネズミの大将も太鼓判の命蓮寺チーズをご賞味あれ!」 「酒は百薬の長! 桃は魔除けの証! 西王母の桃をリスペクト、水に溶かすとお酒になる聖徳桃で貴方もきっと仙人に!」

2012-10-30 20:36:52
BIONET @BIONET_

ごらんの有様である。

2012-10-30 20:37:00
BIONET @BIONET_

主要メンバーの数で行けば、守矢神社三柱、命蓮寺九名、豪族が三人と、命蓮寺が圧倒的である。命蓮寺は檀家の手伝いもいるため、人海戦術による最大の処理能力を誇る。 だが、守矢神社も山の妖怪や人里の氏子がおり、豪族の元には弟子希望者が集まっているため、人手では負けていない。

2012-10-30 20:38:01
BIONET @BIONET_

もとよりこの梅の広場は、秋祭りの運営委員会が好意半分、混雑対策半分で三勢力のために貸し出したのだが、おかげで人口密度は最大級である。 「人間って、こんなに集まるんだね」 命蓮寺スペースの一角で商品の整理を行っているこいしは、絶え間なく続く客足を感心するように横目で眺めていた。

2012-10-30 20:38:46
BIONET @BIONET_

「こいしは今年初めてだもんね。いやまぁ、私も去年一昨年とここまで盛り上がった記憶はないけど」 隣で同じく荷物整理をしていた封獣ぬえが相づちを打つ。二人は命蓮寺の面々が地底に封じられていた頃からの顔見知りであり、ぬえは在家信者のこいしの面倒を見るという体でよくつるんでいた。

2012-10-30 20:39:14
BIONET @BIONET_

「しかし白蓮も思ったより必死だねぇ。さっきから響子共々すごい音量で耳が痛いわ」 「響子ちゃんは、夕方から鳥獣伎楽のライブがあるんじゃなかったけ。今からあんなに叫んでて大丈夫なのかな」 「いや、あいつも要領良くなったのか、適度に声を出しつつ白蓮の声を反響させてごまかしてるみたい」

2012-10-30 20:40:12
BIONET @BIONET_

「強かだねぇ」 「そうじゃなきゃあんなパンクバンドやってないよ……あーそれにつけてもビールが飲みたい!」 ぬえは指定された箱を積み終えたところでだらりと手近な椅子にもたれ掛かった。 「いつ抜け出せるかしらね~、お昼時に人が減ればいいんだけど」

2012-10-30 20:40:37
BIONET @BIONET_

「でも、お酒飲んじゃまずいんじゃない?」 「あー、いいのいいの。白蓮は酒に詳しくないから、ビールのことなんて知らないよ。適当に泡の出る麦茶っていっておけば大丈夫。ワインだってぶどうジュースでごまかせるし。それにさぁ、今日はハレの日でしょ、ハレの日! 食って飲まなきゃ損ってもんよ」

2012-10-30 20:41:31
BIONET @BIONET_

命蓮寺の面々は、住職の白蓮を除き、仏門でありながら日常的に飲酒と肉食を行っている。日本の仏教は日常生活の戒律については緩やかな宗派がままあるが、それとは関係なく命蓮寺の戒律では本来禁止されたことである。そして、そのことは三者会談で白蓮にばれたため、戒律の遵守が厳しくなった。

2012-10-30 20:41:58
BIONET @BIONET_

にもかかわらずその習慣が続いているのは、ひとえに命蓮寺の面々が白蓮を慕っているのであって、仏教に帰依しているわけではないという事情がある。そのため、白蓮も言葉では厳しくしつつも、実力行使には踏み切れないところがある。

2012-10-30 20:42:19
BIONET @BIONET_

……こいしは、在家の身ながら、そのような命蓮寺の事情をよく観察していた。ちなみにこいしも寺での合宿時以外はあまり仏教の戒律を守っているとはいえない。

2012-10-30 20:42:37
BIONET @BIONET_

「こいしも、どっかに出かけたいとかってないの? うまいこと一輪とかムラサと入れ替わって、遊びにいきたいもんねぇ」 「うーん……そりゃ確かに見て回りたいけど、言いつけは言いつけだし」

2012-10-30 20:43:04
BIONET @BIONET_

「まっじめー。いつもぼんやりしてるあんたがそんなこというなんてねぇ。あんた、命蓮寺に入信してから少し変わったんじゃない?」 「え? そんなことないけど」 「いや、正直言って、私は今あんたとこういう風に会話してるのが不思議だよ。地底にいた頃は、会話が十秒以上続くことなかったじゃん」

2012-10-30 20:43:49
BIONET @BIONET_

「そ、そうだっけ」 こいしに、ぬえの言うような自覚はない。 「あ、そうだ。行きたいところならあるよ」 「あん? どこよ」 「人形劇。確か竹の広間で正午くらいにやるんだよ」 「子供かあんたは。正午かぁ。今思ったけど、うちは昼食になるようなもの出してるから、正午は一層混むかもね」

2012-10-30 20:44:42
BIONET @BIONET_

「あ、思い出した、二回講演だから夕方前にもやったと思う」 「んじゃ、その辺で抜けられるよう頼むことね。私はこれがさばき終わったら、星でも騙して松の広場にダッシュするわ」 確か持ち込みOKだったよねー、などと言いつつ、ぬえはこっそりと在庫のチーズおかきの袋をくすねる。

2012-10-30 20:45:17
BIONET @BIONET_

このような横領はぬえにとって日常茶飯時であり、見つかると友人で食客の二ッ岩マミゾウにさえ怒られる有様である。近くにいるこいしに対して気を許しているのと同時に、侮っている証拠でもあった。

2012-10-30 20:45:40
BIONET @BIONET_

実際に、こいしもぬえの行いを咎めようとはしなかった。お目付け役を頼まれたわけではないこともあるが、もし発覚した場合、ぬえは自分に泣きついてくる可能性がある。その時に、今の目撃証言をすればぬえは雲山の拳の下敷きになる未来が確定する。その方が良いお灸となるだろう。

2012-10-30 20:46:05
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