〔AR〕その22

東方プロジェクト二次創作SSのtwitter連載分をまとめたログです。 リアルタイム連載後に随時追加されていきます。 著者:蝙蝠外套(batcloak) 前:その21前半(http://togetter.com/li/395383) 続きを読む
0
前へ 1 2 ・・ 7 次へ
BIONET @BIONET_

(なんか、お姉ちゃんみたいな考え方だなぁ) より相手の精神的ダメージを増やすような立ち振る舞いは、さとりが好んで行うことだ。こいしは微妙な心地になった。姉は基本的に優しいが怒ると怖いし意地も悪くなる。自分は、無意識のうちに姉と似たようなことをしようとしているのだろうか。

2012-10-30 20:46:27
BIONET @BIONET_

こいしはさとりのことが気にかかった。数日前に家に帰って以降、姉とは連絡さえ取っていない。バイオネット経由での手紙もなかったため、特段言伝もないようだった。 さとりは今日も地霊殿にいる。お燐や空はもしかしたらひょっこり顔を出すかもしれないが、姉が出てくることだけは想像がつかない。

2012-10-30 20:47:45
BIONET @BIONET_

誘ったとしても、旧都にさえ滅多に赴かない姉は、頑なに地上に出ることを拒むだろう。 だがそれも仕方のないことだと、こいしにはわかっている。これだけの人手だ。さとりにかかる負荷は相当なことになるだろう。今や心を読む力は失われたが、こいしも似たような経験をしたことを、朧気に覚えている。

2012-10-30 20:48:54
BIONET @BIONET_

以前、命蓮寺になら姉も遊びに行けるのでは、と冗談めかして言ったことがあるが、よく考えればそれさえ厳しいかもしれない。命蓮寺は大所帯であり、人里の参拝者が度々訪れる場所だ。 決して、強要することなどできない。 ならばせめて、おみやげを持てる限り持ち帰ろうと、こいしは心に決めていた。

2012-10-30 20:49:37
BIONET @BIONET_

「それでしたらうちの桃など如何でしょう?」 「!」 こいしは弾かれたように振り返る。 スペースを仕切るテーブル越しに立っているのは、豪族仙人達の長ともいうべき、豊聡耳神子だった。

2012-10-30 20:50:04
BIONET @BIONET_

しかし、奇妙だった。豪族達のスペースを伺うと、誂えられた雛壇の上には、紛れもなく神子がメガホンで演説めいた呼び子に専念していた。なのに、なぜこいしの目の前にも神子がいるのか? 「あれは残像です」 「!?」 まるでこいしの疑問を先読みしたような言葉。こいしは、珍しくぎょっとした。

2012-10-30 20:50:56
BIONET @BIONET_

「というのは冗談であると共にわりと真実です。あれは尸解仙の術のちょっとした応用、虚と実をすり替えてみせる式神。登録された声のパターンをランダムに発するだけのシンプルなものです」 なにがどうシンプルなのか、こいしには判断が付かなかったが、とりあえず壇上の神子が偽物なのはわかった。

2012-10-30 20:52:50
BIONET @BIONET_

「その通り。古今東西慎重を期した権力者は代理や影武者を立てるのが常とですが、私の場合こういう身なりでしたので、代理を立てないと面倒なことが多々あったものです。まぁ、その影響なのか、『伝聖徳太子像』などと伝わっている絵が、代理人を写していたのは私にとっては複雑なところですね」

2012-10-30 20:53:55
BIONET @BIONET_

(だからなによ) なんだこの仙人は。仙人には変人が多いという俗説はこいしも耳にしたことがあるが、こいつはその中でも特上級だろう。本当にこんな奴の手で日本の歴史は始まったのだろうか?

2012-10-30 20:54:29
BIONET @BIONET_

「ううむ、君は欲が薄いので『聞き取る』のが中々に難儀ですが、ひょっとして君は私のことを馬鹿にしていますね?」 「ちょっと……!?」 「こいし、どうしたのー……って、あー! なにしにきやがったのよこの変態太子!」 こいしのただならぬ声に反応したぬえは、神子を見て血相を変えた。

2012-10-30 20:55:10
BIONET @BIONET_

変態太子とは聞き捨てならないですね。あ、人間から仙人に変態はしましたけど、君の言う変態とは意味が違いますよ」 「やかましい! この前街中で白蓮と一緒にすれ違ったときの、卑猥な流し目を忘れたとはいわせんわ!」

2012-10-30 20:55:40
BIONET @BIONET_

ぬえはこいしを押し退けて、神子の前に立ちふさがった。あたかも神子からこいしをガードするようでもある。 「失敬な。私はちょっとばかし、悟りを開くよりもいっそ仙人の道を志しませんかとお誘いしただけのこと。その方が彼女も楽になれると思いませんか?」

2012-10-30 20:56:10
BIONET @BIONET_

「いーや、あれは白蓮にやらしいことする魂胆がまるみえだったね!」 「ほー、いやらしいこと……ふむ、君はもう『淫獣ぬえ』と改名し、野に下った方が良いのでは?」 「……おう、スペルカードだせや。今日はハレの日だ、弾幕勝負に応じてやる」

2012-10-30 20:56:57
BIONET @BIONET_

ぬえから剣呑な妖気が迸る様に、こいしは危惧を抱き、彼女を羽交い締めにして押さえた。 「やめなってば、ここで暴れたら命蓮寺のスペースが台無しになっちゃうよ」 「そうそう、そもそも私はそちらのお嬢さんと話をしていたのですよ」 「がるるる……」

2012-10-30 20:57:49
BIONET @BIONET_

ぬえは唸りながらも引き下がり、後ろを向いた。 「ところで、私に何か用なの?」 「特別何かあるわけではありません。まぁサボリの口実程度と考えてください」 「私はさぼってるつもりなんてないんだけど」 先ほどはぬえを抑えたこいしだが、彼女自身も神子にはいけすかない感情が先行している。

2012-10-30 20:58:40
BIONET @BIONET_

理屈は不明だが、どうやらこいつは、姉のさとりですら読めないはずの、閉ざされた自分の心を読んでいるように思える。 「覚り妖怪ほど、私の力は不躾ではありませんよ。その気になればシャットアウトできる分調節も利きますしね」 「皮肉が言いたいのならよそにいってくれない?」

2012-10-30 20:59:02
BIONET @BIONET_

「君は興味深い。心を閉ざし空に近づいているという触れ込みを聞いていたのだけど、それだけではないようだ」 こいしは、久々に苛立った。皮膚がささくれ立ち、腹の奥底が焼けるような錯覚を覚える。 一つ言えるのは、この仙人は自分達覚り妖怪よりも、精神的に厄介なのではないかということだ。

2012-10-30 20:59:35
BIONET @BIONET_

「ところで、君に質問をしたい」 「なによ」 「ここ最近、命蓮寺で……人里で……あるいは、君のご実家だ。そこで、何か奇妙なものを見たことはなかったかな?」 「!」 瞬間、こいしは電流のようなショックと共に、数日前自分の部屋で見たアルフレッドの幻影を想起した。

2012-10-30 21:00:16
BIONET @BIONET_

あれは、間違いなく奇妙なものだった。故に、未だに自分の目が信じられない。 「み、見てな……」 「ふむ、まぁいいでしょう」 反射的に嘘を言おうとしたこいしに、神子はやんわり遮るように言った。 あるいは、それは神子による超常的な誘導尋問だったのだろうか。

2012-10-30 21:00:53
BIONET @BIONET_

「参考になりました。さて、これで後は何事も起こらないといいのですが」 「何事って、なによ」 「いやなに、せっかくのお祭りが台無しになるようなことが起きなければよい、そう思ったのですよ」 「ならとっとと帰れコノハズク」 会話を聞いていたらしいぬえは、神子を見ることもせず毒づいた。

2012-10-30 21:02:04
BIONET @BIONET_

「そうそう、コノハズクといえば……」 しかし神子はかまわず、またどうでもいいことを語り始め――。

2012-10-30 21:02:35
BIONET @BIONET_

「!」 こいしははっとした。頭の中を突き抜ける叫び声。 (だれ……お姉ちゃん?) 自分でも何故かわからないが、こいしは姉の顔が思い浮かんだ。 「……なにやら、竹の広場の近くから聞こえましたね」 「あ? なにが?」

2012-10-30 21:03:12
BIONET @BIONET_

神子が、竹の広場の方角へ視線を巡らす。ぬえは不審そうにその姿を見る。 「竹の広場の声なんて聞こえるわけないじゃん。あんたどんだけ地獄耳……」 「ぬえ、ちょっとごめん!」 「へ、あ、ちょ!?」 突如、こいしはテーブルを飛び越え、命蓮寺のスペースから離れていった。

2012-10-30 21:03:40
BIONET @BIONET_

ぬえはこいしの袖をつかむことさえできなかった。遠ざかるこいしの背中に、ぬえは叫ぶ。 「待ちなよ! まだ代理も立ててないのに……」 「ぬえ~! 箱一つこっちに持ってきて~!」 「……あー、ちくしょう!」 販売窓口から水蜜の声が届いた。ぬえは忙しなく在庫の箱を持ち上げる。

2012-10-30 21:04:27
前へ 1 2 ・・ 7 次へ