〔AR〕その24 セクション1

東方プロジェクト二次創作SSのtwitter連載分をまとめたログです。 リアルタイム連載後に随時追加されていきます。 著者:蝙蝠外套(batcloak) 前:その23(http://togetter.com/li/403503) 続きを読む
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BIONET @BIONET_

静かな寝息をたてる姉からの緩やかな拘束を優しく外し、こいしはパジャマ姿のまま自分の部屋を抜け出した。 さとりの部屋の片づけは済んだが、やはりさとりは自室に戻ろうとはしなかった。こいしが四六時中居なければならないだけでなく、自分が部屋で何をしたかを思い返してしまうからだろう。

2012-11-09 23:06:35
BIONET @BIONET_

今の時刻は普段ならこいしも寝る時間だが、今夜はさとりと離れて、やらねばならないことがある。なるべくなら、姉が起きる前に済ませたいと考えていた。 部屋を出て向かったのは、談話室。日常的に古明地姉妹やそのペットが茶菓子を楽しむ場所だが、今は一週間以上満足に使われていない。

2012-11-09 23:08:01
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談話室のドアを開けると、そこにはお燐、空、そして他数匹の、人語を解する賢いペットが集まっていた。それらは、一斉に入室したこいしを出迎えた。 「おまたせ。みんな、集まってくれてありがとう」 「こいし様、一体どうしたんです?」 「悪いね、すぐに済ませるから」

2012-11-09 23:08:32
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こいしは一同を再度テーブルの周囲に座らせ、自分は空いているソファに腰掛けた。そして、口を開く。 「みんな予想ついてることだろうけど、お姉ちゃんのことで相談があるんだ」 こいしのさとりに対する言及に、ペット達は揃って困り顔を浮かべた。 「さとり様、一体どうしちゃったんです?」

2012-11-09 23:08:56
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「さとり様、一体どうしちゃったんです?」 お燐が一同を代表してこいしに質問する。 「……ほんとに、よくわからないの」 しかし、こいしは明確には答えられなかった。なにせ、こいし自身もさとりからはっきりとしたことは聞けずしまいだからだ。未だ、さとりは詳しい事情を聞ける状態ではない。

2012-11-09 23:09:18
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とはいえ、こいしには、何が起こったかはある程度推測が付いている。 あの日、さとりは秋祭りの行われていた人里に赴き、そこで何か酷い精神的ショックを被ったのだ。 それに、人里の人間である稗田阿求が、何か関わっているのではないかと、こいしは考えている。

2012-11-09 23:09:43
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祭り当日、稗田阿求とこいしは遭遇していないが、祭りの数日前の彼女と、そして姉とのやりとりは覚えている。故に、こいしは阿求とさとりの間に何かあったと見ている。 「うにゅ……もし、さとり様を誰かがいぢめたのなら……私が行ってすぐさまやっつけてやる……消し炭にしてやるんだ」

2012-11-09 23:10:01
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半ばテーブルに突っ伏し、眠気をこらえたぼんやりとした口調ではあるが、空の発言はこいしにとって危惧すべきものだった。 例えば、ここでこいしが口を滑らせて、阿求のことを話したとしよう。その瞬間、この場にいるペット全員が、人里を襲撃するかもしれない。

2012-11-09 23:10:22
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さとりの痛ましい姿を見ている手前、今のペット達は一触即発のものを心に抱えている。こいしが迂闊な情報を与えれば、暴走する危険性があるということだ。 正直なところ、こいし自身も、阿求に対して疑わしい感情がある。

2012-11-09 23:10:54
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本当に阿求のせいでさとりが傷ついたのであれば、流石にこいしも黙ってはいられない。 だが、それは全て因果関係がはっきりしてからの話だ。表向き封じられているはずの地底の住人が、また地上で暴れ出したとあれば、さらなる騒動が引き寄せられるかもしれない。それは誰も望むところではないはずだ。

2012-11-09 23:11:57
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こいし自身、精神的な綱渡りをしている感覚がある。そこで、理性という平行棒でもって均衡を保っていられるのは、ひとえに命蓮寺での修行の成果か……まぁ、ぬえとつるんで手を抜いたことは多々あったが。 とまれ、今夜ペット達に集まってもらったのは、さとりを傷つけた犯人探しをするためではない。

2012-11-09 23:13:28
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「お姉ちゃんの怪我、まだ治らないんだ」 さとりの顔からは未だにガーゼがとれない。毎日取り替えているのだが、その度にこいしは姉の外傷が癒えないことに不安を感じていた。 通常、妖怪は肉体が傷ついても、大概すぐに治る。それこそ、体をバラバラにされても生き延びるものだっている。

2012-11-09 23:13:54
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覚り妖怪は特別肉体が頑丈というわけでもないが、それでも浅い傷ならすぐ治ってしまう。 外見の痛ましさはともかく、さとりの傷はそこまで深いものではない。しかし、未だ傷口は癒着せず、ところどころ血がにじんでいる。さとりが度々傷口をさする仕草を見るに、痛痒も引いていないようだった。

2012-11-09 23:14:48
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「薬は? 医者に見せたりは?」 ペットの一匹が疑問を呈するが、そこでお燐がこいしのかわりに頭を振った。 「塗り薬はつけてるけど効果なし。そして地底の住人は妖怪しかいないから、体の傷や病気なんてのもすぐ治っちまうんで、旧都には藪医者しかいないんだ。診せるだけ無駄」

2012-11-09 23:15:13
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お燐には、動けないこいし変わって様々な手だてを探ってもらったが、地底の中でできる範囲では打つ手はなかった。 「それで、私、考えたの」 こいしの言葉が重く響く。その雰囲気を察知したペット達は、全員が居住まいを正した。

2012-11-09 23:15:41
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「昔、命蓮寺の人に聞いたんだけど、地上には、どんな怪我も病気も治せるお医者さんがいるんだって。明日、そこにお姉ちゃんを連れていこうと思うの」 ペット達が一様にざわめくが、こいしはそのまま続ける。

2012-11-09 23:16:04
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「それでね、もしかしたら、治療にしばらくかかるかもしれない。その間、私達は地霊殿を留守にする。みんなには、ここをしっかりと守っていてほしいの」 「しばらくって……どれくらいかかるんですか?」

2012-11-09 23:16:21
BIONET @BIONET_

聡いペット達は、治癒にしばらく時間がかかる、という発言が、おそらく肉体的なものにとどまらないだろうことを感じ取っていた。その上で、こいしに問うが。 「それはわからない。でも、なるべく、すぐには帰ってくるつもり」 「こいし様も行っちゃうの?」

2012-11-09 23:16:42
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「付き添ってないとだめだと思う。正直、地上に連れ出すのもちょっと難しいかもね」 でも、とこいしは決然とした眼差しを見せた。

2012-11-09 23:18:07
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「今のままじゃ、どんなに時間をかけても、お姉ちゃんは立ち直ってくれない。私達には、残念だけど有効な手だてはない。だから、少し無理をしてでも、地上に助けを借りに行ってくる」

2012-11-09 23:18:16
BIONET @BIONET_

「でも……」 空は不安そうなまなざしを隠せない。ほかの面々も、皆困惑している。 そんなペット達を勇気づけるように、こいしは笑って見せた。 「大丈夫。必ず、お姉ちゃんと一緒に、にこにこしながら帰ってくるから。だからみんなは、地霊殿をよろしくね」

2012-11-09 23:18:42
BIONET @BIONET_

数秒、談話室に沈黙が訪れた。ペット達は全員、笑顔なこいしをじっと見つめている。 (あ、あれ?) 何か滑ったか? とこいしは一瞬不安に思ったが。

2012-11-09 23:18:57