〔AR〕その24 セクション3

東方プロジェクト二次創作SSのtwitter連載分をまとめたログです。 リアルタイム連載後に随時追加されていきます。 著者:蝙蝠外套(batcloak) 前:セクション2(http://togetter.com/li/408208)
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BIONET @BIONET_

「うわ! 来た! なんかきた!」 紅魔館大図書館、バイオネットサーバルームに、はたての悲鳴がこだまする。

2012-11-22 20:10:43
BIONET @BIONET_

サーバと直結し、その情報を逐一文字表示させる専用投影板――いわゆるモニタだ――から、穏やかではないアラートが迸っていた。サーバルームに常駐していたパチュリーとはたては、このサインを警戒していたのだ。

2012-11-22 20:11:25
BIONET @BIONET_

「来てしまったか……ほら、喚いている暇があったら手はず通りにやる」 「あーもう、あー、もう! わかったわよ!」  はたては投影板の目の前に置かれた、文字の書かれた楽器の鍵盤めいた機材をたぐり寄せる。キーボードと呼ばれる、外の世界における式神を操作するための機械だ。

2012-11-22 20:11:37
BIONET @BIONET_

バイオネットの管理者機能の操作は、基本的にパチュリーの持つ百科事典型端末を使えば問題ない。しかし、特定のトラブルシューティングに際しては、指先による文字操作や音声入力では対応しきれない、複雑かつ速度を求められる手順を行わなければならず、それのためにキーボードが備え付けられている。

2012-11-22 20:12:57
BIONET @BIONET_

しかし、実はパチュリーは、どうにもこのキーボードによる操作がなじまなかった。この五ヶ月間、暇を見ては練習していたが上達せず、そもそも今までトラブルらしいトラブルもなかったため、使うこともなかった。

2012-11-22 20:13:05
BIONET @BIONET_

取材に来たはたてを引きづりこんだのは、機械に強そうだからという理由が大きい。そして実際、はたてはパチュリーからの簡単なレクチャーと説明書を読んだだけで、一晩もかからずにキーボードのタイピング技術を習得した。

2012-11-22 20:13:52
BIONET @BIONET_

よって、今まさに起こり始めた、バイオネットの異変とそれへの対応は、パチュリーが指示を下し、はたてが手順を遂行するという体制で望むこととなった。 「じゃあ、頼むわよ」 「やったろうじゃん!」

2012-11-22 20:14:01
BIONET @BIONET_

体制を整えるのに夜通しかかったせいで、パチュリーもはたても満足に睡眠をとっていない。パチュリーは元々がダウナーなためあまり外見には変化がないが、はたてのほうはいわゆる深夜明けのテンションで妙にパワフルだ。

2012-11-22 20:15:38
BIONET @BIONET_

はたては、パチュリーの指示と、手元に置いた手順書を元に、作業を開始する。カカカカッ、と、小気味よい音の連鎖が奏でられる。乳白色のキーの数々が、はたてのものすごい指裁きでめまぐるしくピストン運動しているのだ。

2012-11-22 20:15:52
BIONET @BIONET_

その卓抜したスピードに、パチュリーは内心で舌を巻いていた。口やかましく態度もだらしないと思っていたが、実はこの天狗、それなりに優秀なのではないか? (こういう事態を見越して引き入れた――わけではないにしろ、渡りを付けるというのは、こういうことで役立つってことかしら)

2012-11-22 20:16:06
BIONET @BIONET_

実に癪にさわる展開だ。しかし、今は使えるものはなんでも使わなければならない。 「そう、本当の異変に発展する前に!」 「だっしゃー!」

2012-11-22 20:20:19
BIONET @BIONET_

違和感の増加に比例するように、アリスの目に映る往来は、人で溢れかえっていく。それはさながら、あの秋祭りの日のようで――いや、それすら超えているかもしれない。 目の前の異常が露わになっていくにつれ、阿求の姿も遠く離れていく。 「上海!」

2012-11-22 20:38:50
BIONET @BIONET_

アリスはトランクを解放し、人形を呼び出す。そのうちの一体の上海人形に、アリスは電撃的に指示を与える。 「阿求を追いかけ、護衛しなさい!」 「ワカッタヨー」 指令を受けた上海人形は、地上数メートルの高さに上昇してから、ハイスピードで阿求の追跡に向かった。

2012-11-22 20:39:02
BIONET @BIONET_

アリスは引き続き人形を周囲に展開していき、警戒する。彼女自身の感覚にも、索適タイプの人形にも、魔力や霊力といった反応が全くない。翻ってそれこそが、異変のサインだった。 そして、ただ一つ、目の前の光景を異変と判断する知覚野があった。アリスは、感覚からの要請に応え、そこに力を込める。

2012-11-22 20:41:05
BIONET @BIONET_

アリスの瞳が、金を下地にした虹色の光彩を放つ。それとともに、アリスはその場から跳躍、二階建ての建物よりも上空に飛翔し、往来を、そして人里全体を見渡した。 「こんな、ことって――」

2012-11-22 20:41:14
BIONET @BIONET_

アリスの幻視力が、真実を露わにしていく。 道という道に溢れかえる人々の姿の半分以上が、実体ではない、実体そのものの幻であった。

2012-11-22 20:41:33
BIONET @BIONET_

一方の阿求は、いつにない勢いで往来を走る。 阿求もまた、アリスと同様に異変に気づいていた。瞬きをする前と後で、街道に存在する人の量がどんどん変化していく。時に人間以外の存在も増えている。

2012-11-22 20:41:58
BIONET @BIONET_

これこそが噂の幻、異変の姿か。阿求はもはや疑う余地もなかった。 そして、今阿求が追いかけているラブラドールレトリーバーもまた、実体そっくりの幻影のようだった。 犬は、阿求がぎりぎり追いつけるほどの速さで駆け、時折首のみ阿求を振り返る。その仕草は、誘っているようにしか見えない。

2012-11-22 20:42:22
BIONET @BIONET_

これは一体なにを意味しているのか? わからない。わからないが――。 (私を呼んでいる?) 「マチナヨー」 その時だ、頭上から非人間的な抑揚のない声が届く。 「貴方は――アリスさんの人形」 現れた上海人形は、走る阿求の肩に飛びついてきた。

2012-11-22 20:42:40
BIONET @BIONET_

「アリスさんが遣わせてくれたんですね」 「ソージャネーノ」 上海人形を加えてなおも走る阿求であったが、追いかけている犬の先方を見て、表情をこわばらせた。今まさに、犬は人里の外と中を分ける櫓門をくぐり抜けていく。

2012-11-22 20:42:57
BIONET @BIONET_

時刻的に、そろそろ門を閉じる頃合いだ。つまり、人間にとっては危険である夜の幻想郷に飛び出していくということである。阿求は走りながら躊躇する。躊躇するが――。 「上海さん、明かりとか持ってないですか?」 「デキルー」

2012-11-22 20:43:38
BIONET @BIONET_

阿求の声に応え、上海人形は胸元のブローチを輝かせた。行灯の炎の明かりとは違う、弾幕の輝きを思わせる光が迸る。目が眩むほどの光量だが、これならば夜道での十分な明かりとなるだろう。 「行きます!」

2012-11-22 20:43:52
BIONET @BIONET_

門番が門を閉じる前に、制止されることもなく、阿求は門をくぐり抜けた。 「この出口の先は、竹林ですね」 門の名前や看板を確認するまでもなく、阿求は記憶を照合して判断する。この門を出て道なりに行けば、迷いの竹林に辿り着く。

2012-11-22 20:44:19
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