〔AR〕その24 セクション3

東方プロジェクト二次創作SSのtwitter連載分をまとめたログです。 リアルタイム連載後に随時追加されていきます。 著者:蝙蝠外套(batcloak) 前:セクション2(http://togetter.com/li/408208)
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BIONET @BIONET_

その方角になにがあるのか? 異変の正体か? それとも――。 今の阿求は、とてつもなく危ない橋を渡っている自覚があった。アリスに任せるか、慧音を頼るといった行動もとれたはずなのに。

2012-11-22 20:45:57
BIONET @BIONET_

しかし、今この瞬間、あの犬の行く先を確かめなければいけない。自らの足でそうしなければならない。理由のない確信につき動かされ、阿求は上海人形を頼りに、暗黒の世界を突き進むのだった。

2012-11-22 20:46:28
BIONET @BIONET_

かろうじて、入り口と思われる竹藪の空白と、入り口であることを示す看板を見つけたのが、完全に日が落ちた刻限であった。

2012-11-22 20:48:08
BIONET @BIONET_

迷いの竹林は、まるでそこだけ、いずこから空間を切り取り、持ってきたかのように存在していた。それまで平坦かつ視界の開けた道を歩いてきたところに、突如として現れたように、古明地姉妹には見えた。

2012-11-22 20:48:12
BIONET @BIONET_

そして、そのぽっかりと空いた入り口らしきところは、夜の闇よりもさらに暗い。 「――こわい」 さとりは表情をひきつらせて、こいしの右腕にしがみついた。恐怖に震える姉の鼓動が、こいしの全身に伝搬する。

2012-11-22 20:48:39
BIONET @BIONET_

そのせいなのか、さしもの怖い者知らずのこいしも、不気味な感覚を禁じえない。妖怪が闇を恐れるのも滑稽な話だが、地底から来た二人にとって、この竹林は間違いなく異界なのだ。 「だ、大丈夫。道案内の人を見つければ、もう怖くないって」

2012-11-22 20:48:56
BIONET @BIONET_

姉をどうにか元気づけつつ、こいしは一応ということで、ウィスプめいた妖弾の光源を左手に生み出した。夜目が利くとしても、流石に竹林の中では、視界を確保した方がよさそうだった。 ただ明かりを灯すということは、妖怪や獣を引き寄せる危険性も伴う。痛し痒しといったところだ。

2012-11-22 20:49:15
BIONET @BIONET_

(変なのが寄りついてきませんように――) 「じゃ、行こう!」 「う……」 腕にしがみついたまま、棒立ちで動こうとしないさとりを、半ば引きずるようにこいしは歩き始めた。

2012-11-22 20:49:28
BIONET @BIONET_

鬱蒼とした竹林のトンネルを、姉妹は慎重に歩く。地面は土がむき出しだが、ある程度均されているようで、歩くのは苦にならない。しかしいかんせん、視界が悪すぎる。 こいしは左手を光源から離し、命蓮寺で貰った道案内の地図を広げる。

2012-11-22 20:49:54
BIONET @BIONET_

地図とはいっても、竹林までの道筋の後は、竹林の案内人とどのように会えばいいかという手はずまでだった。竹林内部は絶えず変化するため、マッピングできるものではないからだ。 「入ったらまず直進。何分か歩けば、案内人が住んでるところの看板が見えてくるそうだけど……」

2012-11-22 20:50:13
BIONET @BIONET_

光源の明かりだけでは、先はほとんど見通せない。そして竹は目印にはならないので、ひとまず、目線から下の範囲をこいしは注意深く観察していった。 こいしが探索に集中する間、さとりはこいしの肩に顔面を埋めた上で、堅く目を閉じた。

2012-11-22 20:50:45
BIONET @BIONET_

周囲には竹林以外には何もないのだが、さとりには、その竹そのものが恐怖の対象であった。密に折り重なって、暗闇で薄明かりに照らされる竹は、彼女に精神的圧迫感をもたらした。

2012-11-22 20:51:16
BIONET @BIONET_

だが、いくらなんでも、ずっと目を閉じ続けたまま、こいしに追随して歩くのは難しい。そのため、さとりは本能的に、転倒を避けるべく、時々薄目で足下や周囲を垣間見た。

2012-11-22 20:51:24
BIONET @BIONET_

まるで、ホラーキネマの煽りシーンのよう……昔、たまたま年代物の映写機とフィルムが手に入り、地霊殿で上映会を行ったことをさとりは思い出す。その時の作品がホラーものだったのだが、姉妹達にとっては、鼻で笑ってしまうほどチープな出来だったのを覚えている。

2012-11-22 20:51:52
BIONET @BIONET_

今のさとりには、笑うどころの話ではない。あんなチープな出来でも、見る時の気分や状況次第では、視聴者を恐れさせることもできるのではないか。さとりは、思考することで必死に恐怖と戦っていた。 昔のことを思い出した影響で、瞼の隙間から断続的に見える景色は、コマ落ちのように感じられた。

2012-11-22 20:54:28
BIONET @BIONET_

「――?」 さとりは包帯だらけの手で眦を擦る。視界が何か変だった。こいしの服の糸くずでも目に入ったかと思い、何度か目の周りを指でなぞってみるが、特段異常はない。 奇妙に思い、さとりはおそるおそる、竹林に入ってからはじめて、まともに目を開いた。

2012-11-22 20:54:58
BIONET @BIONET_

周囲は変わらず暗い。こいしの作った光源で見渡せる範囲は半径五メートルもないだろうか。 「あれ?」 「お姉ちゃん、どうしたの?」 いや、違う。さとりは疑問の声を漏らして、それにこいしが反応する。 「こいし……」 「ん――ん?」

2012-11-22 20:57:39
BIONET @BIONET_

こいしは地図から視線を持ち上げて、さとりと同じように周囲を見渡し……異変に気づいた。 こいしの光源は、姉妹の周囲半径五メートル未満しか照らしていないはずだった。

2012-11-22 20:57:56
BIONET @BIONET_

にも関わらず、竹林の暗闇が薄らいでいく。明るいと言えるほどではないが、何か燐光のようなものが、空間に満ちている。これにより、まるで別世界に訪れたかのように、視界が開けていく。 そして、さらなる異変が二人の目に映りだした。

2012-11-22 20:58:12
BIONET @BIONET_

「な……!?」 こいしは危うく地図を取り落としかけた。同時に、維持していた光源が消えてしまう。  うすぼんやりとした明るさの中で。 空間のおぼろげな揺らぎから、人間の形をした影法師が続々と起立しだしたのだ!

2012-11-22 20:58:53
BIONET @BIONET_

いや、人間だけではない。人間以外の動物、植物、無機物、はては異形の妖怪達までが、竹林のわずかな隙間を埋めるように、現出していく。 その様子から、当然それらは本物の生き物などではないだろう。しかし、その姿形、質感は、本物と遜色ない。

2012-11-22 20:59:32
BIONET @BIONET_

空間に拡散する鱗粉めいたきらめきがなければ、二人ともそれらが幻影であるとは気づかなかったかもしれない。 「なに、なにこれ!?」 「あ、あああ……」 姉妹は共に気が動転した。このあまりにも異様な光景を見て、平静を保つなど、二人にはとてもできなかった。

2012-11-22 20:59:58
BIONET @BIONET_

「に、逃げよう!」 「え、ちょ、こいしっ」 皮肉なことに、精神の動揺がもたらす衝動は、こいしの方が大きかった。こいしはさとりの手を強く握り、その場を駆けだした。さとりはもつれそうになりながらもそれに従う。

2012-11-22 21:00:40
BIONET @BIONET_

さらなる恐怖におびえながら、さとりはどこか冷静に現状分析を行う自分に気づく。こいしはわき目もふらず前へ前へ走ろうとして、周囲が見えていない。 さとりは、本物そっくりでありながら現実感に乏しい幻影達の様子を観察する。

2012-11-22 21:01:26