〔AR〕その24 セクション3

東方プロジェクト二次創作SSのtwitter連載分をまとめたログです。 リアルタイム連載後に随時追加されていきます。 著者:蝙蝠外套(batcloak) 前:セクション2(http://togetter.com/li/408208)
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BIONET @BIONET_

幻影達は、姉妹達を全く見ていない。それぞれが、ただ右往左往しているだけだ。今のところ、姉妹達に向かってくるどころか、存在を認知さえしている様子はない。 さとりは再度、キネマのフィルムのことを思い出す。今自分達が見ている光景は、まるで過去に撮影された情景を眺めているかのようだ。

2012-11-22 21:01:59
BIONET @BIONET_

さらに、さとりは、二ヶ月近く前に見た、アルフレッドの幻影を想起する。あれは、今見える幻影に比べるとよりおぼろげで、色も違っていたが、近い雰囲気を感じさせる。あれと、今見えているものは、同質のものなのか?

2012-11-22 21:02:20
BIONET @BIONET_

「こいし、逃げようっていってもどこへ!?」 「あ、案内人さんのところだよ! えっと、えっと……」 こいしがばさばさと地図を開きなおそうとした、その時だ。 「あうち!」 「きゃ!?」

2012-11-22 21:02:38
BIONET @BIONET_

慌てていたために、こいしは足下に転がっていた大きな石に気づかず、見事に足を取られた。さとりは、こいしの手に急激に引っ張られるのを反射的に回避し、結果、繋がっていた二人の手は離れてしまう。

2012-11-22 21:02:55
BIONET @BIONET_

こいしは石につまづいたことでうつ伏せに倒れ、さとりは手が離れた反動で尻餅をついた。さとりは後ろ手を突いた姿勢になったためにほとんど痛手を受けなかったが、こいしはほとんど顔面から大の字に地面に突っ伏したため、衝撃のあまり身動きが取れなくなった。

2012-11-22 21:04:25
BIONET @BIONET_

「うぐぐ……」 「あたた……こいし、だいじょ……」 さとりが立ち上がるよりも先に、姉妹の間をおぞましい風のような気配が駆け抜けた。 さとりは目を疑う。地面から、フィルムの早回しもかくやな速度で、タケノコが芽を出し、身を踊らせ、竹へと成長したかと思えば、花を咲かせていく。

2012-11-22 21:07:04
BIONET @BIONET_

異様な成長速度に、これも幻影であると見破るのはたやすかったが、あまりにも急激に飛び出してきたために、視界が一気に遮られる。ほんの一メートルの距離にいるはずのこいしの姿さえ見えなくなった。幻の竹の生育にあわせ、さらに周囲は幻影達が姿を現していく。

2012-11-22 21:08:32
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「お、お姉ちゃん!」 「こいし!」 こいしの声が聞こえるが、やはり姿は見えない。さとりは後ろ手に突いた腕に力を込めて、バネのように体を起こし、前方へ移動する。 それと共に、花まで咲かせた竹は、さらなる速度で枯れ、朽ち果てていく。地面が再度露わになる。

2012-11-22 21:09:57
BIONET @BIONET_

だが、先ほどこいしが転倒していたはずの場所に、彼女の姿はない。 「こいし! どこなの!?」 「おねーちゃーん!」 こいしの声は聞こえる。しかし姿が見えない。それどころか、さとりはこの数秒、幻影の竹の出現によって、方向感覚を喪失してしまった。進むべき道も、元来た道もわからない。

2012-11-22 21:10:14
BIONET @BIONET_

「こいし!」 「おねーちゃー――ん」 竹は、枯れた後も再度タケノコの芽を出して、節を延ばし、花を咲かせ、また枯れる。本来なら六十年はかかる一生のサイクルを、幻影はほんの数秒で上映しているのだ。それと共に、人や獣、妖の姿をした影法師もまた、現れては消えていく。

2012-11-22 21:14:04
BIONET @BIONET_

「こいしー!」 「おねーちゃー――……」 こいしからの声が、どんどんと離れていく。さっきまであれほど近くにいたはずなのに。 「こいしぃー!!」 さとりは、腹の底から妹の名を叫んだ。 しかし、とうとう、こいしの声は返ってこなかった。

2012-11-22 21:14:18
BIONET @BIONET_

阿求は、おぼつかない足取りで夜の街道を歩いていた。 息が切れている。人里を飛び出して数秒で、阿求の体力はすぐ限界に達した。もとより、人間が全力疾走できる距離はたかがしれている。ましてや、少女の肉体であればなおさらだ。

2012-11-22 21:17:15
BIONET @BIONET_

阿求が立ち止まって息を整えている間、犬の幻影はやや進んだところをぐるぐる回ったり、時折座るなどして、距離を保ちつつ阿求のペースにあわせているような行動を見せた。おかげで、見失うおそれはなさそうだった。 「しかし、このままだと竹林に行くわけで……そこに一体何が」 「シラネーヨ」

2012-11-22 21:18:02
BIONET @BIONET_

上海人形が相づちを打つ。半自立稼働している上海人形には簡易的な応答機能がついているようだが、その返答はやけにぞんざいだ。 「まあ、貴方が答えを知っていたらそれはそれで驚きですけど」 「ダヨネー」

2012-11-22 21:18:13
BIONET @BIONET_

阿求はそのぞんざいさを見越した上で、上海人形に話しかけつつ歩みを進めた。急ぎたいところだが、人里を飛び出してきたように再度走るのはもはや無理だし、服装の関係であまり大股にも歩けない。

2012-11-22 21:18:54
BIONET @BIONET_

はやる気持ちを抑え、阿求は状況を整理する。わかっていることはほとんどないが、異変は今まさに起こっているのは間違いない。それがどの範囲まで及んでいるのかは定かではないが、少なくとも、人里は今ただならぬ状況のはずだ。家族や人里の住人、残してきてしまったアリスのことが心配だ。

2012-11-22 21:19:53
BIONET @BIONET_

しかし、阿求は、自らを誘う犬のことも無視できない。今更疑いようもなく、あのレトリーバーは阿求をいずこかへ導こうとしている。何か、今の状況に関係のあるところへだ。 そして、もう一つひっかかることがある。

2012-11-22 21:23:47
BIONET @BIONET_

なぜそんなことを連想したのかは、阿求自身もわからないが。今阿求を先導する犬の容姿は、まるで『頼れるアルフレッド』の主人公である犬のアルフレッドを思わせる。ただでさえ、人里ではラブラドールレトリーバーのような海外の犬種を見ることはない故に、よけいにだ。

2012-11-22 21:24:44
BIONET @BIONET_

「貴方は、何を知っているの?」 犬に……便宜上アルフレッドと呼んでも差し支えないかもしれない。それに阿求は声をかける。しかし、反応はない。ただ、阿求と一定の距離をとって、ひたすら数メートル先行するだけだ。 そうこうしているうちに、阿求達の目の前に、異様な光景が姿を現した。

2012-11-22 21:25:12
BIONET @BIONET_

「――え?」 阿求の視界の端に見える立て看板から、一行が竹林に到達したことがわかる。 しかし、本来であれば、夜ということで黒い針の山を思わせるだろう竹林が、いまや、青白い鱗粉めいた明かりを放っていたのだ。

2012-11-22 21:26:14
BIONET @BIONET_

「これは――まずい」  理屈抜きに、本能で、阿求は竹林の異常さを恐怖した。ここに立ち入ってはいけない。誰が見てもそう思うだろう雰囲気を、夜の闇に放っているのが、今の竹林なのだ。 「ヤバインジャネーノ?」 上海人形も、警戒を示しているのか、心持ち強い音量で言葉を発した。

2012-11-22 21:27:43
BIONET @BIONET_

一方、アルフレッドは、上半身をやや伏せて、吠えるような仕草を見せる。そして阿求達と竹林を何度か見比べると……バネのように下半身を収縮させて、一気に竹林の入り口へと突入していった。 「ええ!?」

2012-11-22 21:27:53
BIONET @BIONET_

いきなりの行動に面食らう阿求。竹林の入り口は洞穴のようで、その内部はまっくらだ。アルフレッドの姿は一瞬で闇に飲まれた。 流石に、その後をすぐ追随する勇気は阿求にはない。むしろ、今すぐこの場を離れて、人里に引き返すほうが賢明であろう。そう思わせるほどに、この光景は悪夢のようだった。

2012-11-22 21:28:48
BIONET @BIONET_

「……だけど」 ならば、なぜここまできたのか? 阿求は自問する。危険を避けるのであれば、それこそ最初からアルフレッドについていく必要などなかった。

2012-11-22 21:29:02