「レイジ・アゲインスト・トーフ」#4「ウシミツ・アワー・ライオット」・再放送Ver(実況なし)

ツイッター連載小説"ニンジャスレイヤー 第1部 「ネオサイタマ炎上/Neo-Saitama in Flames」"より @njslyr_rによる再放送「レイジ・アゲインスト・トーフ」#4「ウシミツ・アワー・ライオット」のまとめ(実況なし) #2&#1 http://togetter.com/li/416446 #3 http://togetter.com/li/416450 #4 (今ここ) 続きを読む
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NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

支給が始まった。クローンヤクザの一人が配給役になり、1人に3本、良く冷えたバリキドリンクを手渡す。その横では、別のクローンヤクザがメモ帳に同じ漢字を繰り返し記入しながら、参加人数を数えていた。参加者たちはバリキドリンクの山に目が釘付けになり、そこにしか注意を払っていない。 15

2012-03-23 22:38:02
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だがバリキ中毒者ではないシガキは、冷静にこの地下駐車場内で起こっていることを観察していた。どうやらここに集められているのは、肉体労働者、マケグミ・サラリマン、無軌道学生、ヒョットコ、パンクス、リアルヤクザ、ユーレイ・ゴスなど、実に様々な人種のようだ。 16

2012-03-23 22:39:07
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シガキらの前には、パンチパーマが特徴的な4人のブディズム・パンクスが列に並び、互いの胸を押し合いながらスカム禅問答に興じている。一方でシガキたちの後ろには、ブラックメタルバンド「カナガワ」のブッダ解剖Tシャツを着た8人のアンタイ・ブディストが並んだ。まさに一触即発の状態だ。 17

2012-03-23 22:42:16
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列の外では「やっぱり帰りたい」と言い出した気弱そうなモヒカン学生がクローンヤクザ2人に両脇を抱えられて暗がりに連れて行かれ、直後にくぐもった悲鳴と打擲音が聞こえてくる。エレベーターが到着し、モヒカン学生の断末魔を代弁しているかのように「限界です」と間違った電子音声が鳴った。 18

2012-03-23 22:45:20
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バリキを受け取った参加者たちは、中央に設営された集会場めいた場所へと誘導され、ブラックジャック棒をしごく黒服たちに規律正しい整列を促された。ブディズム・パンクスとアンタイ・ブディストたちは、案の定流血沙汰の喧嘩を始め、サスマタを持ったクローンヤクザらの手で引き離されている。 19

2012-03-23 22:48:31
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コケシたちは早速、胸元に忍ばせた真鍮フラスコに飲料を注ぎ、少しだけ残っていたバンザイ・テキーラと混ぜ合わせて呷った。ヨロシサン製薬の主力製品バリキドリンクは、一般流通こそしているものの、僅かに麻薬的有効成分が含まれており、用法用量を守らず摂取すると非常にハイな気分になれる。 20

2012-03-23 22:51:37
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「オットットット!たまりません!シガキ=サンも一杯やりませんか?」「あなたはどこの工場で働いてるんです?私たちはコタツの本体に脚用コケシを四本ねじこむ、くだらない仕事をやっています」 シガキはコケシたちを無視しながらドリンクを適量飲み、この異様な場所から逃げ出す隙を窺った。 21

2012-03-23 22:54:57
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不意に、紫色のトレーラーが集会場に横付けされた。派手なスモークを伴って荷台が側面から開き、畳敷きの特設ステージが出現する。ドンコドンコドンコドンドン。勇ましい出陣太鼓の音。ステージの両脇に大太鼓があり、レザーボンテージに身を包んだスモトリたちがこれを叩き始めたのだ。 22

2012-03-23 22:57:01
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参加者たちが呆気に取られていると、ステージ上のボンボリが灯り、車椅子の男が浮かび上がった。男の表情はサイバーサングラスで隠されているが、黒服のようなヒゲはない。頭にはフードか頭巾を被っているようだ。背後の壁には「怒り」「激しい」「怒り」と書かれたショドーが3枚貼ってある。 23

2012-03-23 23:09:49
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「ドーモ」車椅子の男は、最新式ワウノイズエフェクトが乗ったサイバー拡声器で礼儀正しくアイサツする。「初めまして、私の名前はビホルダーです。今回皆さんに集まっていただいたのは、あの憎い憎いサカイエサン・トーフ社に復讐を果たすためです。私の哀れな身の上をお話しさせてください」 24

2012-03-23 23:09:50
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「私は数年前までトーフ工場で働いていました。老朽化した設備のせいで、私はジェネレーター内に転落して生死の境を彷徨い、半身不随の重症を負ったのです。わずか数万円の退職金と見舞金を渡され、私は強制解雇させられました。私と同じような境遇の元トーフ労働者が、何千人もいると聞きます」 25

2012-03-23 23:09:50
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「しかし私は幸運でした。その数万円でトミクジを買い、当選し……運よく、本当に運よく、カチグミになれたのです。今回皆さんに配ったバリキドリンクも、ポケットマネーから出したものです」拡声器のエフェクトはギュオーンというスペイシーな音に変わり、その扇情効果は十倍にも跳ね上がった。 26

2012-03-23 23:09:50
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シガキは感銘を受けた。心臓がハレツしそうなほど速く拍動する。実存の意味を失いかけていた自分という点が、不意に無数の点と繋がりマンダラとなるような高揚感。だが、おお、ナムサン!彼は気付いていないが、その衝動の大半はドリンクに混入されたズバリ・アドレナリンによる化学反応なのだ。 27

2012-03-23 23:12:06
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「カチグミになれて羨ましいと思っていますか?そんなことはない!……いくら金が手に入っても、私の胸は空虚なのです。憎い!サカイエサン・トーフ社が憎い!!」サイバーサングラスの液晶面に「怒り」「激しい」「怒り」という赤い電子ドットが点滅し、激しいサブリミナル効果をかもし出した。 28

2012-03-23 23:14:15
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

ドンコドンコドンコドンドン「イヨーッ!」スモトリが合いの手を入れると、大太鼓のビートはさらに速度を増す。急性ズバリ中毒者たちの拍動と破壊衝動も、それに合わせてヒートアップする。激しく踊りだす者や、その場に倒れ、浜に打ち上げられたマグロめいて口をぱくぱくさせる者さえ出てきた。 29

2012-03-23 23:17:31
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

「サカイエサン・トーフ社は暗黒メガコーポです。彼らの激安トーフには、発癌性物質と脳縮小物質が含まれています。皆さん、何個食べましたか?百個?あなたは千個!ナムアミダブツ!もうオシマイだ!」 これを聞いた参加者たちの脳内化学反応は頂点に達し、天を仰いで泣き叫ぶ者すら現れた。 30

2012-03-23 23:20:40
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ドンコドンコドンドンドンコドンコドンドン…。トレーラーの側面がゆっくりと閉じ、太鼓の音がフェイドアウトしていく。急性ズバリ中毒者たちは理性なき猛獣と化して吠え猛り、クローンヤクザのサスマタやヤリやショックヌンチャクで追い立てられながら、黒いトレーラーに分乗し始めた。 31

2012-03-23 23:23:45
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各トレーラーの荷台部分は三層構造になっており、1台で百人近い人員を収容できた。酷い悪臭だ。もとは水牛運搬用のハイウェイ・トレーラーだったのだろう。錆びたタラップが軋む。チョッコビン・エクスプレス社の水牛戦車ロゴマークが、ずさんに黒スプレーされた荷台側面に微かに透けて見えた。 32

2012-03-23 23:23:46
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ドリンクをまだ1本しか飲んでいないシガキは、急性中毒手前で踏み止まっていた。だがもはや、無人スシ・バーにいた頃の枯れた静けさは微塵も漂わせてはいない。彼は四つん這いの姿勢でトレーラーの荷台に押し込められながら、敗北感に打ちひしがれていた。…それは、自らの墨絵の敗北であった。 33

2012-03-23 23:26:55
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

彼の脳内では、これまで描いてきたブッダや竹林やスケロクのモチーフが、炎によって焼き払われていた。その代わり、マッポをカマユデにするストリートギャングや、ジンジャ・カテドラルを爆破するアンタイ・ブディストといった禍々しくもリアルで躍動的な墨絵が、鮮明に浮かび上がってきたのだ。 34

2012-03-23 23:31:04
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

「……俺の墨絵は、無価値なボッコセイ・ハイプだったのだ!」彼は心の中で苦々しく独りごちる。だが敗北感と同時に、ズバリの化学反応による新たな勝利の希望が沸きあがっても来た。「……この衝動と義手だけは真実だ。俺はこのトーフヤ襲撃で鬼になろう。俺のテッコで全てを叩き壊してやる!」 35

2012-03-23 23:33:12
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2012-03-23 23:34:13
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一方その頃、ピラミッドの如く聳え立つカスミガセキ・ジグラットの談合ルーム内では、ラオモトが独り、ボンボリモニタの灯りの下で古文書を読んでいた。「五十歩百歩、虻蜂取らず…」彼が崇拝する平安時代の剣豪にして哲学者、ミヤモト・マサシの兵法書だ。コトワザの大半はミヤモトが作った。 37

2012-03-23 23:36:18
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このマッポーの世に古文書を読める人間は少ない。それは即ち、ラオモト・カンの高いインテリジェンスを示唆しているのだ。ソウカイ・シックスゲイツの恐怖の頭領は、セピア色の古文書をふと閉じ、がらんとしたホール内の暗闇に向かって言い放った。 「ダークニンジャよ、首尾はどうだ」 38

2012-03-23 23:39:28
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誰もいないと思われていた談合ルームの植え込み竹の影から、生きている影のようにダークニンジャが姿を現し、立て膝の姿勢をとってこう報告する。「…ビホルダー=サンに襲撃決行を報せる密書を届けました。見事な扇動能力により、二千人近い暴徒がサカイエサン・トーフ工場へ向かっております」 39

2012-03-23 23:42:37