バトルクエスト・クレンチ・ユア・フィスト #2

翻訳チームによるサイバーパンクニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) 日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

前方に急な崖が現れ、行く手を阻む。こうした高低差が島を複雑な要害めかしている。「廃墟群にはお近づきにならないで」アナスタシアが言った。「いつ崩れてもおかしくないですから」「わかったな?アコライト=サン」ジバヌチが言った。「必要も無かろうが」一同は崖沿いに歩き、階段を上がる。 23

2012-12-28 15:32:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

助手席にライフル兵を同乗させた車両に一同は乗り込む。廃墟を左右に見ながら砂利道を進むこと数分。やがてガンダルヴァの宮殿が姿を現す。アコライトは目を細めた。成る程、資料画像通りの、瓦屋根付きギリシア建築である。蔦の絡まる門の前にはカドマツが飾られ、武装門番が車両を照会する。 24

2012-12-28 15:45:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

島の廃墟は手つかずであるが、肝心の宮殿周囲には本格的な防衛システムが構築されているというわけだ。「既に到着しておるのは……」来客フラッグのタペストリーをジバヌチは見やり、「キバイ=サンとジョンソン=サン、それからファジムタ=サンか?これは珍しい」「ご子息です」とアナスタシア。25

2012-12-28 16:17:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハ!ハ!あの小僧がか!ワシらのサロンにか……息巻いておろうのう」ジバヌチはアコライトを見た。「時に、何故ワシが胡乱なお前を雇い入れたか解るか」「……」「タイガーだ、お前は。タイガーが来たと一目でわかった。役立たずのシーホーク=サンと手合わせするを待たず。……ワシにはわかる」26

2012-12-28 16:22:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「タイガーですか」アコライトは困ったような笑みを返した。老人はアコライトの眉間に指を突きつけた。「そうだ。ひとたび檻から放たれれば、敵を蹴散らし、はらわたを引き裂く。目でわかる!片腕だろうが何の問題も無し。ワシの天啓よ。笑わば笑え。老いれば迷信や啓示の類いに縋るものだ」 27

2012-12-28 16:53:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

眉間に指を突きつけられたまま、アコライトは血走ったジバヌチの目を見据え、静かに答えた。「ならば、私はその檻を壊してはなりますまい」 28

2012-12-28 17:07:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハァーッ……ハァーッ……」アコライトの鍛え上げられた背中は紅潮し、玉の汗で覆われている。眉間に皺を寄せ、息を吸い、吐き、繰り返すたび、床は軋み、窓ガラスは曇ってゆく。 30

2012-12-28 18:31:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハァーッ……ハァーッ!」苦痛に歪んだアコライトの顔が床スレスレに近づき、また遠ざかる。彼は逆さになった己の身体を片腕で垂直に支え、そのバランスを保ったまま、肘を曲げては戻している。ゴウランガ……なんたるニンジャ膂力が可能にする脅威的トレーニング光景か! 31

2012-12-28 18:35:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハァーッ……ハァーッ!」左腕をもぎ取られ、その顔を引き裂かれ、生死の淵を彷徨って以来、彼は己に今まで以上のトレーニングを課すようになった。低下した筋力を取り戻し、崩れた身体の重心バランスを把握し直す為だ。峠を越した後の傷の治癒速度は彼自身驚く程であったが、問題はカラテだ。32

2012-12-28 18:43:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

この傷は、デスドレインの魂の質を、その間合いを測りかねた己のウカツ、未熟に他ならない。デスドレインは苦痛に絶叫するアコライトを恍惚じみた目で見つめ、その甘い判断を、希望を嘲笑い、呪い、愚弄した。アコライトは命を賭して闘い、再び彼を神秘の鎖に繋いだ。 33

2012-12-28 19:07:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼に怒りはあったか?恐怖は?当然だ。彼は身を焼くような激情に耐えた。彼は若い。そしてニンジャである。ニンジャとなり、破戒した兄弟子を倒したのち、彼は己の獣性に直面せざるを得なかった。そのとき自らに課した苦行を、彼は強く意識した。瞬間的な激情を乗り越え、意味を見出そうとした。34

2012-12-28 19:23:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

読者の皆さんの中にご存じの方はおられようか?キョート城において、デスドレインはその力の大半を切り離した。アコライトはその直後に彼と対し、打ち破った。以来、デスドレインは神秘の鎖に繋がれ、人の死骸という糧を新たに得る事も無かった。それでもなお、いまだ危険であったのだ。 35

2012-12-28 20:03:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アコライトは反省し、自らの怒りと闘い、大きな代償とともにこのインシデントを乗り越えた。だが、なぜそうまでするのか?なぜ殺さぬのか?下手をすればテンプルの弟子達に、さらには近くの村に、さらにはキョートに塁が及んだところではなかったか? 36

2012-12-28 20:08:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

いわばそれは彼の身勝手であり、独善の誹りは免れない。しかし彼がデスドレインを知るほどに、尚更、処刑じみてこの悪鬼の命を断つ行為に躊躇いを覚えてしまうのだ。慈悲ではない。デスドレインが殺めた罪なき者たちの怨みは処刑で晴れるだろうか?それは却ってデスドレインを利するのではないか?37

2012-12-28 20:15:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハァーッ!ハァーッ!」だがそもそも、その是非自体、アコライトごときが決めるべきものなのか?思い上がりでは無いか?(ブッダのつもりか?ボンズ様よォ)答えは出ない……答えは出ない!(お前、なかなかイイよ……滅茶苦茶だよ……段々面白くなってきたぜ……素質あるよ、お前)「黙れ!」38

2012-12-28 20:23:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

それはハンセイボウの日々の対峙、耳から毒を注ぎ込むがごときデスドレインの言葉の断片……鎖に繋がれ、力を失ってなお、デスドレインは他者を蝕み、害する事ができた。闘いは続いていた。 39

2012-12-28 20:31:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「セイヤッサーボンジャン!」アコライトは片手逆立ちから腕の力だけでバネ仕掛けじみた回転ジャンプを行い、鏡に向かって正拳を繰り出した。「ボンジャンハイッ!」拳は鏡を砕くスレスレで止まった。彼は拳を突き出した姿勢のままで静止した。……誰かがドアをノックした。 40

2012-12-28 20:38:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」再びドアがノックされた。アコライトは目を閉じ、深呼吸し、目を開いた。「ドーゾ」ドアが開き、アナスタシアがしめやかに入室した。 41

2012-12-28 20:42:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(「バトルクエスト・クレンチ・ユア・フィスト」#2 終わり。#3 へ続く)42

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