あざらしさん( @azarashidayou )による叙述トリック犯罪学教程

中のひとがあの方だといううわさのある、あざらしさん( @azarashidayou )による叙述トリック犯罪学教程をまとめました。「初級編」、「中級編」、「おまけコラム1-2」、「上級編」、「おまけコラム3-4」、「超上級編」、「おまけコラム5-6」、「異端編」、「総括」の構成になっています。
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アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

上級例題1-2:「和也はソッチの人だったんだねー」「しかもその大男、妙になよなよしててさ。アレは大男の方が女役だと見たね」

2013-01-04 23:04:17
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

上級例題1-3:和也は正美と手を繋ぎ歩いている。道の脇の公園に入り、ベンチの前で立ち止まって「話って?」と和也。和也より頭一つほど背の高い正美は、不安そうにこちらを見下ろしながら「あのね、和也君は、あたしのどこが好きなの?」と言った後で目を逸らした。

2013-01-04 23:05:08
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

上級例題1-4:「どこって…」なぜそんなことを今さら聞くのだろう。和也は戸惑い、沈黙することで話の先を促した。「あたし背が高いでしょ…筋肉質でしょ…」「だから可愛くないでしょ、って言うつもり?」なるほど。

2013-01-04 23:06:31
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

上級例題1-5:和也は自分がここで何か言うべきだということも、何を言うべきかということも、瞬時に理解した。「顔とスタイルと性格が好みなんだ。可愛いとか可愛くないとかは考えたこともなかったし、考えても俺が正美を好きだってことは変わらないと思う」と和也は即答する。

2013-01-04 23:06:48
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

上級例題1-6:しかしこういう時に口で答えるだけでは不十分だということは経験から知っていた。空いている方の手でベンチを指し「座ろう」と言うと、正美はまだ不安そうな顔をしながらも大人しく座った。

2013-01-04 23:07:31
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

上級例題1-7:遅れて和也も座り、繋いでいた手を離し、正美の顔を引きよせ、キスをした。立ったまましたのでは自分が背伸びすることになる。それでは身長差が際立って逆効果だという計算だった。

2013-01-04 23:08:22
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

上級例題1-8:「あのさあチエ、こないだマリカが、和也君はゲイだって言いふらしてたよね」「うん」「あれって嘘なんだよ。あの子、和也君にふられた腹いせにあんなこと言ったの。信じられる?」「ええっ、サイテー…でもホントに和也君ゲイじゃないの?」

2013-01-04 23:09:29
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

上級例題1-9:「ゲイだったら美少女とラブラブで歩かないでしょ」「美少女って?」「和也君よりかなり背ぇ高くて、それも足がすらーって長いの。すらーっって。顔もキレイでね、お人形見たい」「女装じゃないの?」「私の目は節穴か~? さすがにアレは誰がどこから見ても女だって分かるわ」

2013-01-04 23:10:15
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

これは「言い含め」と言うべきトリックです。「地の文で嘘をついてはいけない」というルールを逆手にとり、地の文以外の、会話文や心情描写でどんどん嘘をついていって、読者の頭の中に構築される世界を歪ませてしまおう、という考え方ですね。

2013-01-04 23:11:10
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

読者というものはその本を初めて読む時、世界のどこかの見知らぬ街に、地図も持たずに飛ばされるのと同じ経験をします。そこでは目や耳といった五感のすべてが役に立たたない代わりに、地の文や会話文から色々と情報を吸収することで、自分なりの世界像を構築することができるわけです。

2013-01-04 23:12:13
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

そのため読者は積極的に情報を吸収し、意味が取り辛い文章も、既に取得している情報から類推して意味を取ろうとします。

2013-01-04 23:13:03
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

そこで例えば「エアコンのスイッチを入れた」という言葉が、もし誰かに「今は夏で暑い」と言い含められた後では「冷房をつけた」の意味だと思え、逆に「今は冬で寒い」と言い含められた後では「暖房をつけた」の意味と思える、という現象が起こります。

2013-01-04 23:14:11
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

同じように「和也はゲイで、大男と付き合っている」と言い含められた直後に和也のデートシーンを読んでしまうと、そういう設定の世界なのだなあと簡単に信じ込んでしまい、本当は美少女とのデートなのに、大男とのデートに見えてしまうのです。

2013-01-04 23:15:02
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

「これは単に嘘をついているだけではないか? 叙述トリックではないのではないか?」という疑問をお持ちの方は、上級例題1-1の次に1-6、1-7を読んでみてください。

2013-01-04 23:15:49
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

それが単なる嘘だった場合です。1-1で頭の中のメモに「和也 ゲイ 大男とラブラブ」と書かれ、それが1-6、1-7で「和也 ゲイではない 美少女とラブラブ」に書き換えられるだけではないでしょうか。

2013-01-04 23:16:35
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

つまり情報が誤ったものから正しいものに書き換えられるだけで、歪んで形作られていた世界が反転するわけではない。

2013-01-04 23:17:13
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

それが1-1の直後に和也のデートシーンを挟むことで「和也はゲイであり大男と公園でデートしていたという情報が開示される→公園のデートシーンに変わる」というある程度自然なシーンの繋がりになるため、「ゲイ同士のデートなんだな」と錯覚してしまう。つまり歪んだ世界を見てしまうのです。

2013-01-04 23:18:08
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

そして和也がゲイというのは嘘、と判明した途端にデートシーンの意味が反転しますから、これはやはり、単に嘘をついているというのとは、一線を画しているのではないか。嘘の、叙述トリックとしての使い方です。

2013-01-04 23:19:16
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

さて上級編にはもう一つのトリックがあります。

2013-01-04 23:20:14
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

上級例題2-1:レッドブル館で殺人事件が発生したとの通報が。被害者は金満家のゴツアーン。速やかに現場に向かった超絶名探偵モーフ警部は、大広間にいる関係者の顔を一つ一つ眺めていった。誰もかれもがモーフに視線を返してくる。すぐに目を逸らすものもいれば、睨んでくるものも。

2013-01-04 23:21:04
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

上級例題2-2:と、ゴツアーン夫人(もはや未亡人だが)であるオッターマンは視線を合わせてすぐ目を逸らし、また視線を合わせてはすぐ逸らしてを二、三度繰り返した後、ついには顔をうつむけ、しばらくすると小走りに広間を出て行ってしまった。

2013-01-04 23:21:59
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

上級例題2-3:モーフ警部は思考する、「彼女、少し震えていた? もしかして夫人はゴツアーンを…」ここで若い刑事の声がし、モーフの思考は途切れた。「警部殿、こちらで凶器が発見されました!」「うん? ああ、わかったすぐに行く」

2013-01-04 23:23:03
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

上級例題2-4:大広間にいたスミースは、オッターマンが出ていった扉を睨みながらつぶやいた。「それにしても、あのオッターマンさんがあんなことをするとはねぇ。ご婦人っていうのは何をしでかすかわからないもんだ。さて、じゃあ早い内にもう一度、夫人と話し合わないとな」

2013-01-04 23:24:07
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

早速解説を。モーフ警部が事件直後に関係者の顔を見回すと、被害者ゴツアーンの妻、オッターマンが挙動不審だった。それを見てモーフは「もしかして夫人はゴツアーンを…」と考えました。これは文脈からすれば「もしかして夫人はゴツアーンを殺したのではないか」と疑っているのではないか。

2013-01-04 23:25:02
アザラシは隠しキャラ @azarashidayou

第一容疑者はオッターマンというわけです。そしてモーフは知る由もないですが、スミースはオッターマンが「あんなこと」をしているのを目撃したことを独白します。これは殺人を目撃した可能性が高い。しかしそれを警察に証言するつもりはなさそうで、しかも夫人と話し合うという。

2013-01-04 23:25:45
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