ヨウカイスレイヤー「スプリング・スプリングス・ユーレイ・アンド・ロスト・ソウルズ」#1

0
YOUKAISLAYER @YKSLYR

「スプリング・スプリングス・ユーレイ・アンド・ロスト・ソウルズ」

2013-03-17 19:26:05
YOUKAISLAYER @YKSLYR

電子ネットワーク技術が発展し、コンクリート製のメガロシティが日本全土を覆い尽くすようになった現代。ネオサイタマ的アトモスフィアが蔓延する中唯一、江戸時代からの素朴な生活を続ける者達が集う場所がある。その名はゲンソウキョウ。山奥にある、結界により隔離された日本最後の楽園だ。1

2013-03-17 19:28:20
YOUKAISLAYER @YKSLYR

ゲンソウキョウはトーキョー、キョート、岡山県のどこからも遠く、空気は澄みただの酸性雨さえ降ることはない。心を汚染するIRCは存在せず人は安定した自我を保ち生活している。バイオ技術やサイバネ技術は独自に発展し、凶暴なバイオ動植物ならびに危険なモーターマシーンは名前すら見られない。2

2013-03-17 19:31:24
YOUKAISLAYER @YKSLYR

江戸時代の終わりごろから外の世界では科学文明技術が発達し、迫害され存在の危機に立たされたヨウカイ達は次々にこの地へ来ることになった。険悪になりがちだったヨウカイと人間との関係も、スペルカード・ルールの制定により軋轢は実際解消された。3

2013-03-17 19:36:31
YOUKAISLAYER @YKSLYR

山は白く色づき、地面を覆うものは落ち葉から雪に変化していた。ハクレイ・シュラインにはいつものように参拝客は来ず、ミコー・プリエステスであるハクレイ・レイムもまたいつものようにコタツに入っていた。シュラインは新築めいており、庭には最近建てられたような鳥小屋めいた物が鎮座している。4

2013-03-17 19:38:19
YOUKAISLAYER @YKSLYR

いつもと変わらないハクレイ・シュライン。しかし今日シュラインから見える景色は、普段通りののどかな風景にもう一つ、白く立ち上る柱。間欠泉である。それと同時に湧きだす地霊たちの姿。そしてレイム以外に丸コタツを囲む者。5

2013-03-17 19:43:00
YOUKAISLAYER @YKSLYR

「……で?本当に放っておいてもいいのかよ」コタツの中心に盛られた八つのミカンの一つに手を伸ばすマリサが言った。「温泉はビジネスチャンスだ」レイムもミカンの皮をむき、一房を口に運んだ。「それに地霊など所詮ユーレイにすぎぬ。何かあれば冥界の亡霊でも呼んでソクシさせてやればよい」6

2013-03-17 19:47:53
YOUKAISLAYER @YKSLYR

「暴論ね」マリサの反対側に座る金髪の少女が口をはさんだ。隣に浮遊する人形が器用にミカンを剥いている。「今は害が無いとはいえ悪霊よ?」「それに地底にはー、一癖二癖ある奴が、いるからグワーッ!」レイムは続けて話そうとした少女の頭に生えているツノを掴み投げ飛ばした。「酔言を垂れるな」7

2013-03-17 19:56:28
YOUKAISLAYER @YKSLYR

「グワーッ!」「アイエエエ!」外で悲鳴が上がるが誰も気にしない。人形の剥いたミカンを口に運ぶ少女、アリス・マーガトロイドは続けて言う「どちらにせよ調査は必要だと思うわ。それに地底にも変なヨウカイがいるらしいし、異変を起こされる前に調べる必要があるわ」「そのことなんだけど」8

2013-03-17 20:02:45
YOUKAISLAYER @YKSLYR

コタツを囲む全員が顔を上げる。超常のスキマから逆さ状態で顔を出す一人のヨウカイがミカンを二つ掴み、一つをスキマの中に投げ入れた。「どうやら地下深くには間欠泉を生み出した温泉の源泉があるらしいのよ。おそらく間欠泉だけでは参拝客は増えないと思うわ」「了解した」「は?」9

2013-03-17 20:04:51
YOUKAISLAYER @YKSLYR

「地底を調べる気になったと言っているのだ」レイムの目に生気の炎が灯った!「……まったく、金になると聞けばすぐ行動かよ。アンタらしいっちゃらしいんだが」マリサは魔女めいた帽子を脱ぎ頭を掻いた。「私も行くぜ。レイム=サンだけに温泉を独り占めさせるわけにはいかねぇからな」10

2013-03-17 20:08:33
YOUKAISLAYER @YKSLYR

「決まりね。では私たちは地上からあなた達をサポートするわ」スキマから出たユカリがミカンを丸呑みして言った。「どうしてついてこないんだ?」「ヨウカイが地底に行くといろいろ問題があるのよ」入り口とは逆方向からエントリーした者がマリサの質問に答える。その手にはミカンが握られていた。11

2013-03-17 20:15:03
YOUKAISLAYER @YKSLYR

「パチュリー=サン!どうしてここに」「スキマよ」パチュリーは空いている席に座りコタツのフートンに潜った。「地底のヨウカイとは不可侵条約が結ばれているの。ウカツに手を出すとこちらが危ない」「条約を破ったのは向こうだ。温泉ついでに殺すのがよかろう」レイムが言い放つ。12

2013-03-17 20:19:09
YOUKAISLAYER @YKSLYR

「……すでにニトリ=サンに依頼して通信装置は作成済み」「なるほどそれで飛んできた鬼にビビってるってワケか」マリサは立ち上がり縁側を一瞥すると、人形を抱えたまま尻餅をついているニトリとうつ伏せに倒れているスイカめがけミカンを投げた。「盟友に対して酷い仕打ちだな」「まったくだよ」13

2013-03-17 20:23:45
YOUKAISLAYER @YKSLYR

ニトリの腕の中で人形は静かな駆動音と共に瑠璃色の目を輝かせた。「地上との通信に加え遠隔操作でダンマクを撃てるようにしたよ」「自爆機能は無いから安心していいわ」アリスが付け加えた。「レイム=サンには同じ機能を持つ陰陽玉を」「要らぬ」「私達は要るの」ユカリが呆れ顔でコメントする。14

2013-03-17 20:28:54
YOUKAISLAYER @YKSLYR

「サポートはこの五人でするわけね」ミカンを黙々と食べていたアリスが言った。先程までミカンを剥いていた人形が「双な方向」モードに切り替わる。この人形はアリスの魔力で動くため、電子的機材や雑多な印象を与えるケーブル類などは排除されており、おまけにとてもカワイイだ。15

2013-03-17 20:36:00
YOUKAISLAYER @YKSLYR

「話は聞かせてもらいました。この私も力になりたく」床下から声!コタツに再度脚を入れようとしていたスイカも思わぬ不意打ちにカラテ警戒!しかし他の者達にとってその声は聞きなれたものである。「ドーモ皆様。アヤ・シャメイマルです」先程までレイムが座っていた位置からアヤの首が現れた。16

2013-03-17 20:41:57
YOUKAISLAYER @YKSLYR

「よく焼き鳥にならなかったものだ。普段であれば首を出した瞬間カイシャクしていたのだが」「タタミの下に隠れていた次第です。あ、最後の一ついただきますね」そう言うやいなや彼女は残っていたミカンを食べ始めた。「私達とサポートメンバーで八人か、八は縁起のいい数字だぜ」17

2013-03-17 20:47:44
YOUKAISLAYER @YKSLYR

「役者は揃ったわ」アヤとアリスの間に滑り込みチャを飲み始めていたユカリが呟いた。「目的を違えないことね、レイム=サン」「間欠泉から地霊が消え温泉を入手すればカネになる。目的は違えど、取るべき手段は同じだ……私のすべきことは邪悪なヨウカイをスレイすること。其れに尽きる」18

2013-03-17 20:52:29
YOUKAISLAYER @YKSLYR

「……」パチュリーがあきれ顔でミカンを頬張った。「レイム=サンを頼んだわよ、マリサ」「オイオイ、待ってくれよアリス。私はお目付け役か何かかよ」「自分から行くと言った口でよく言いますね」すでにミカンを食べ終えたアヤが冷静に突っ込む。19

2013-03-17 20:57:18
YOUKAISLAYER @YKSLYR

「地底にはシュラインの裏山にある洞窟から潜れるはずだよ」スイカがミカンを食べ終えて言った。「知っておる」「では行くか」「待て」レイムが制止する。「何だ?スシ不足か?」「オファリング・ボックスにカネを入れてからだ」「……アイ、アイ」20

2013-03-17 21:06:19
YOUKAISLAYER @YKSLYR

同時刻。地底都市深部。22

2013-03-17 21:09:25
YOUKAISLAYER @YKSLYR

太古の記憶が渦巻き、忌み嫌われる力を持つ動物やヨウカイが辺りを彷徨う。地上と見間違うほどに降る雪が白く光り、中心部に佇む美しき御殿を煌びやかに修飾している。旧ジゴクを治めし者の住まう地霊殿。彼女はそこにいた。23

2013-03-17 21:15:28
YOUKAISLAYER @YKSLYR

「スプリング・スプリングス・ユーレイ・アンド・ロスト・ソウルズ」#1終わり #2に続く

2013-03-17 21:16:40