時間線上の相対人
【1】「対『風』専用弾――『風薬』用意。目標、前方1000、市街地中央部、『渦巻く竜』、第1小隊、撃ち方用意」
2010-09-06 20:41:56【2】無線機越しの中隊長の声を、俺は小隊員への命令として復唱する。「我が小隊は、これより射撃を開始する。弾薬手、弾込めぇー!」
2010-09-06 20:44:19【3】「弾ぁ込めぇー!…って、あれ?」弾薬手の最後の疑問詞が少しだけ気になったが、それどころではない。俺は目の前を見据えながら、続けて命令を発する。「続いて砲手、目標、距離1000、ビル街に見える『渦巻く竜』、射撃用意ーっ!」
2010-09-06 20:46:57【4】「安全装置よぉし、弾込め、射撃用意ーって、あれ?」これまた砲手の疑問詞が、俺の意識をそちらに向けさせる。「オマエらなぁ、どうしたんだ、こういう場ではキチっとだなぁ…」ボヤきながら皆の様子を確認すれば。「…は?」思わず、そんな声が漏れていた。
2010-09-06 20:49:25【5】「どうした!?くれない!?」非常事態を察したのか、中隊長が名前で呼び掛けてきた。だが、くれないはそれをほとんど聞き流していた。何故なら、いつの間にか小隊の砲陣地内に、見慣れない黄色い物体が乱入していたからだった。
2010-09-06 20:54:17【6】「あ、ども。ばんちょっす」その黄色は、ヒヨコだった。可愛い可愛いヒヨコだった。手を伸ばせば、ふわりと掴めてしまいそうな、そんなふわふわした小さな身体。だが、その場の誰もが動くことが出来なかった。そのヒヨコの手に、軍の重要機密にして今回の作戦の要である『風薬』が握られていても
2010-09-06 20:57:42【7】そしてヒヨコは、逃走を開始した。小隊員の足元を駆け、そして予め開けてあったのであろう下水道のマンホールへと、落ちていった。その間、わずか数秒。そして、「うわあああああ、盗まれたってか逃げられたってか、何だありゃあああああ」くれないの叫び声が、街中に響き渡った。
2010-09-06 21:01:24【8】「おいどうした!?状況を説明しろ小隊長!?」中隊長が無線機越し、矢継ぎ早に声を掛けてくる。だが、くれないはどうして良いか分からなかった。落ち着け、――状況判断だ。ここは、――。
2010-09-06 21:03:44【9】1.深呼吸して、それから中隊長にありのままを報告して指示を仰ぐ。 2.とりあえずマンホールに飛び込む。 ――さぁ、どっちだ?
2010-09-06 21:05:10【10】くれないは、一も二も無くマンホールに飛び込んだ。『おい!?くれない!?どうし――』しばらくして、無線は沈黙した。中隊長の指示を仰ぐこともせずにこんな行動を取ったとなれば、命令違反に問われ、最悪軍法会議モノかもしれなかった。
2010-09-06 21:19:01【11】だがそれでも、行かなければならない、と思った。今追いかけねば、見失ってしまえば、『風薬』は二度と戻ってはこないかもしれない。そうなれば、任務は失敗だ。それだけは、避けたかった。くれないとて、この街を愛する人の一人であったから。
2010-09-06 21:20:53【12】マンホールの底は、それほど深いものでもなく、落下は僅か1秒にも満たず、くれないは下水道に着地した。軍用ブーツが汚水を弾く。すぐ目の前の角を、黄色が曲がったのが視界に移った。「待てぇい!」叫び気合を入れ、駆け出した。
2010-09-06 21:23:49【13】ばんちょ、と名乗ったヒヨコは下水道を慣れた足で駆けて行く。その逃走に迷いはない。「おーい『かぜぐするー?』だいじょぶかー?」ヒヨコは、手の中の『風薬』に、昔の、親友であった頃の名でソレを呼んだ。だが返事はない。「ちぃっ!あぁ、めんどくせーなぁ、全く」言葉と裏腹の、笑み。
2010-09-06 21:28:29【13】ちなみにヒヨコは、相手と自分との歩幅の差を、機動力の差を痛い程に理解していた。だから、すぐに追いつかれるであろうことも。だから、逃走経路を既に選定していた。角を右へ左へと折れ、そして予め打ち合わせた仲間の姿を見つけた。「頼むよゲルたん…!あのストーカー、何とかして!」
2010-09-06 21:31:51【14】「え、ストーカー?」その言葉に、ゲルは一瞬固まりかけたが、しかしその身体の組成からしてそれは不可能な話で、ぐにゃりとその身体が揺れただけだった。「というかここで待ってろって言われたけどさ、具体的に何すればいいのん?」ゲルは、軍服に身を包んだ兵士の前に立った。
2010-09-06 21:34:48【16】くれないは、目の前に妙なふにゃふにゃとした物体が現れたのを見た。清涼感と嫌悪感とが両立した不思議な物体を認識し、とりあえず手持ちの武装を確認した。「あぁ、これが良いか」右手にライター。左手に虫除けスプレー。導き出される答えは。
2010-09-06 21:42:19【17】「うわっちゃああああああ!」簡易火炎放射器で表面を焼かれ、ゲルは下水へと転がり落ちた。酷い臭いが辺りに充満した。ヒヨコはその様を振り返り一瞥し、「使えねえ。使えねえよゲル…」そして、次の仲間の元へと急ぐのだった
2010-09-06 21:44:54【18】続いてくれないの目の前に現れたのは茶色い小動物であった。ヒヨコと言葉を交わすこともせず、くれないの前に立ちふさがった。その小動物は、狸であった。
2010-09-06 21:47:21【19】さて、狸の手持ちの武装らしきものを確認してみよう。もふもふしっぽ、さとーさんへの愛、自ら腹を出して降伏、あたりがあるだろうか。さて、狸はどうする? 配点:(自由回答・制限時間5分。狸さんっぽい行動であれば誰でも回答可)
2010-09-06 21:49:20【20】ゲルは、下水に浸かって一瞬で鎮火。下水を吸収して焼かれた肌を自己修復した。そして、姐御の後を追い始めた。酷い臭いの塊が蠢き始めたのだった。
2010-09-06 21:51:56