友野詳氏の「シャハルサーガ 第3部」　ストーリー版

シャハルサーガ／アローディア @syahalsaga

　 　 　 　　　　　　　どくん。 　　　　　　　　　　　　　　　 #シャハル３　１７９

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あふれ出た絶望が、アリクの視界を闇に染めた、その瞬間。同時に、ユーディア＝シーニア＝マガナックが、かっと目を見開いていた。交差した腕で、巨漢船長の足を受け止める。腕だけでは、衝撃を支えられなかったろう。だが、その腕には、青銅色と鉄色の髪が巻きついていた。 #シャハル３　１８０

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「うおおおっ？」 モッガン船長の巨体が、驚愕の声とともに宙に舞った。彼の足首に、二条の髪束が巻きついている。少女の、白銀の髪にまじっている、たったふたすじ。青銅色と鉄色の髪束が、驚くべき怪力を発揮したのだ。魔術的な力に相違ない。 #シャハル３　１８１

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「があああああああっ！」 そこへ、アリクが、吠えながら突っこんできた。その姿は、もはや人の面影をとどめていない。彼の心臓の代わりとなっている、〈悪魔〉の力がこもった宝玉が、負の感情を吸い上げ、肉体にフィードバックさせたのだ。 #シャハル３　１８２

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本来であれば、アリクは、モッガン船長をずたずたに食いちぎっていたはずである。ユーディアが死ぬ、という絶望が彼を変貌させ、守りたいという意志が暴走しているのだから、彼女を襲った敵を排除するのが道理だ。 #シャハル３　１８３

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けれど、そのモッガンは、融合した少女によって、放り投げられている。飛びかかった勢いは、いまさら止まらない。変貌したアリクに理性はない。怪物化した少年は、守ろうとした少女に飛びかかることになった。無差別に迎撃しようとした鉄色の髪に、青銅色の髪が巻きつく。 #シャハル３　１８４

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「ちが……っ。あれ……アリク」 「敵は倒すものなの！　あれってもう怪物なの！」 「まがなっく、ゆーでぃあ守ル。ソレ約束。ありくトあれ、匂イ、違ウ」 #シャハル３　１８５

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緑の羽が広がり、融合した少女が空に舞いあがった。そのまま逃げさることは可能だったはずだが、距離をとったまま、怪物と化したアリクのまわりをめぐっている。少女の表情はめまぐるしく変わっていた。 #シャハル３　１８６

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頭上をあおいで、怪物となったアリクが吠える。いま、彼の姿は、漆黒の翼を持った、直立する狼といった姿だ。あちこちから水晶の角みたいものが生えている。さらに加えて、背に、こうもりのような翼が生えた。胸に埋めこまれた魔法の宝玉が、彼を完全に支配しつつあるのだ。 #シャハル３　１８７

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「……ぶるる。こら、えらいことになってきた。かかわってる場合じゃねえ」 モッガン船長は、意識を取り戻した。こそこそと起き上がり、アリクと融合少女をその場に残して、外への通路に向かう。すると、その通路の奥にかすかな光が見えた。 #シャハル３　１８８

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少女だ。少女が近づいてきている。魔法でもかけてあるのか、額から、前方を照らす光が伸びていた。その光が、モッガン船長の顔を照らし出した。 #シャハル３　１８９

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「あたくし、間に合いましたか!?」 　そう、少女が叫んだ。 　船長には、彼女の言葉の意味も理解できず、答えようもない。 　その背後で、変異した二人は……。 #シャハル３　１９０　第三部　ここにて終了　第四部に続く

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時は、数巡り前にさかのぼる。黄昏の大陸マーディールの一角で、ひとりの美しい少女が、大恩ある人物からの手紙を受け取っていた。相棒をかたわらにたたずむ、その少女の額は、ゆかりある女性と同じく、つやつやと輝いている。#シャハル４　マイナス１

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「……わかりました、おばさま。氏族の壁を越えて、あたくしを育んでくださった、ラナークお養父（とう）さまの親切に報いるためにも……おまかせください。行きますわよ、アード・サイレントウルフ！」 幼い狼を従え、キノコ帽のエルファ娘が旅に出る。 　#SSG選択 #シャハル４　０‐Ｂ