牧眞司の文学あれこれ その4

「牧眞司の文学あれこれ その3」の続きです。 http://togetter.com/li/364987
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牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

武田泰淳『富士』、面白く読み進んであとちょっと。ある登場人物の長口舌のなかに、間投詞として「アッハ」「プフィ」が使われていて、笑った。 ちなみにぼくが読んでいるのは初刊の中央公論社版ハードカバーなのだが、コシマキの推薦文を書いているのが、ほかならぬ埴谷雄高。

2013-04-30 21:46:36
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

それはそのとおりですね。 RT@ItohMaki 実はアンナ・カヴァンもけっこうなダメ女かもしれないな、とふと思ったり。孤独や絶望ばかりが前面に出てるから、ついそっちの面が見過ごされがちだけど、他人とまともに関わりを持てないのは立派なダメ人間だと思う。もちろん私自身も。

2013-04-30 22:20:16
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

共同体を前提とする日常では、カヴァン本人もカヴァン作品の主人公もダメ人間ですね。ただし、そのダメさが彼女ひとりの特殊事情としてではなく、人と世界のかかわりにおける普遍的な水準で読めるのが、文学の凄さだと思います。 RT@ItohMaki //実はアンナ・カヴァンも//

2013-04-30 22:26:30
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

というのは、まあカヴァンを読むときの入口であって、その先へどう進んでいくかは読者しだい。ぼくは、対照項としてバラードを、そしてカフカを立てて、いろいろ考えています。まあ、例によって脳内最強文学リーグ戦のマッチメイクなんですが。

2013-04-30 22:30:54
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

武田泰淳『富士』(中央公論社)を読んだ。戦時中、富士山麓の精神病院で繰り広げられる苛烈な愛憎・衝突・哲学的論戦の数々。自殺や殺人も含め怪事件も頻発する。その内容もさることながら、出来事のつらなりが入り組んでいて、読んでいて頭がわんわんする。

2013-05-01 20:08:45
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

さらに、あえて軽薄に言えば、登場人物たちがそれぞれに異常なほどにキャラ立ちしまくり。ぼくがいちばん面白かったのは、冷笑的な狂えるキリスト教徒・庭京子だ。

2013-05-01 20:09:17
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

庭京子は、日本軍はワシントンやニューヨークを占拠したうえで、まず〔アメリカ全土の白人患者の精神病を、ひとり残らず日本式に治療する〕べきであり、それができなければ日本は戦争に負けると主張する。

2013-05-01 20:09:43
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

いやいや、主要都市を占拠できればその時点でほぼ勝ちでしょ。――とツッコミたくなるが、そんな道理は彼女に通用しない。この戦争は精神的・宗教的な意味があるのだから。京子に限らず、精神病院に閉空間はくるりと裏返って全世界・現実一般へと展開する。狂気のトポロジー。

2013-05-01 20:11:18
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

庭京子には強い男根願望があり、ある夜、二本の懐中電灯を鉢巻きで頭につけ、さらに一本を股間に固定して、布団で寝ている主人公(語り手の男性)を襲撃する。光る男根! いったい何がしたいのかよくわかりませんが、そこにも彼女なりのロジックが働いているはずだ。

2013-05-01 20:12:02
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

寝込みを襲われた主人公は必死で撥ねのけるのだが、この時点で犯人が庭京子だとはしらない。ただ〔なんだか知らないが、やたら品物をぶら下げた奴〕と感じただけだ。この表現がすごくおかしくて、ぼくはゲラゲラ笑ってしまいました。

2013-05-01 20:12:28
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

『富士』は内容だけではなく語り方も変わっている。語り手は医学研究者として患者たちの狂気を客観的に観察しているはずが、彼らといやおうなく関わるなかで、異様な閉世界の当事者にならざるを得ない。しまいには患者から診断を受ける身になってしまう。それが語りのレベルにも影響している。

2013-05-01 20:12:49
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

さらにいちばん外枠の語りは、精神病院での「現在」(戦時中)から25年後にあって、ストーリー進行中にもときどきそれが明かされる。読者がその場にいるようなつもりで見ていると、急にカメラアングルが引きになり、レンズの存在に気づかされる感じ。

2013-05-01 20:13:07
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

しかし、すぐにまた濃密な情景が描かれ、読者は知らずしらずに精神病院の「現在」にまた没入してしまう。武田泰淳の筆力、凄いな。

2013-05-01 20:13:21
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

『マラキア・タペストリ』はかなりの傑作ですよ。『鳥の歌いまは絶え』は佳作。『フィメール・マン』『334』『バドティーズ大先生のラブコーラス』は手放しで褒めるほどではないけれど、それぞれに特長があって、ぼくは好きです。RT@okiraku_k まだ読んでないのでめぼしいところ//

2013-05-01 20:30:00
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

サンリオSF文庫の話題になるとつい口出ししたくなってしまいます。余計なお世話でスミマセン。『アマチュアたち』は復刊したもの( 彩流社)が、まだ新刊で入手可能です。

2013-05-01 20:33:08
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

種村季弘編『島尾敏雄 孤島夢』(国書刊行会)を読んだ。夢を扱った作品(あるいは夢のごとき小説)が多く収録されており、その味わいは内田百閒よりも筒井康隆に似ている。筒井さんには悪フザケやウケ狙いのない森々とした幻想作品がいくつがあって、それらを思い出した。

2013-05-02 17:20:26
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

ぼくは夢文学ではだんぜん内田百閒が好きで、それは「あ。これはぼくの夢だ。昨晩見たのに、目覚めとともに忘れてしまった夢だ」と思うからだ。他人が紡ぐ情景や辻褄が、自分の記憶につながっている不思議。そこには文体の磁力が作用していて、ページをめくるうちにすうっと引きこまれる。

2013-05-02 17:21:28
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

この作家の文体が自分に合っているとか、こちらはしっくりこないとかよく言う。それが重要なのは、文体が内容から切り離せるものではなく、作品世界そのものだからだ。というか、そういう小説のありかたこそ、ぼくにとっての文学性である。……そのような論議を、このあいだ西崎さんとしたな。

2013-05-02 17:23:42
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

『島尾敏雄 孤島夢』に収録されたうち、夢と関係のない作品(いや、そのつもりになれば、すべてが夢文学と見なせるのだけど)で、ぼくが面白かったのは「むかで」。

2013-05-02 17:24:26
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

語り手が温泉宿に逗留していると、大嫌いなむかでが出てきてちょっと騒いでしまう。むかでのほかには大した事件はなく、回想や独白が絡まるくらいだ。

2013-05-02 17:24:46
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

この、むかでだけの話という構えが、なんだか良い。志賀直哉「城の崎にて」(これも温泉宿が舞台だった)――死んだ蜂だけの話――に匹敵する。

2013-05-02 17:25:27
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

あれ、「城之崎にて」ってもしかすると、もっと内容があったのだっけ。蜂しか覚えていないや。

2013-05-02 17:25:45
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

百閒はじつに詰まらなそうに、あたりまえの調子で食材や食事のことを書いているのだけど、読んでいるほうはむしょうに美味しそうに思えてくる。

2013-05-02 18:18:52
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

武田百合子! ぼくも大好きです。随筆に関しては、百閒を超える面白さ。RT@tolle_et_lege 武田百合子『富士日記』も何がいいのか説明できない。『日日雑記』も。もう、よく覚えていないけど。

2013-05-02 18:26:02
牧眞司(shinji maki)『『けいおん!』の奇跡、山田尚子監督の世界』刊行 @ShindyMonkey

ただ、百鬼園先生も百合子さんも、“面白い”って形容だとちょっとそぐわないんだよなあ。平然というか飄然というか天然というか、巧まざる絶妙さ。

2013-05-02 18:31:47
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