#短歌の文語 百人一首篇

短歌向けの文語文法の解説が欲しいという声にお応えして、不肖未熟ながらやれるだけやってみることにしました。随時更新します。 私は国文学・国文法は専門外ですので、誤謬がありましたら詳しい方からのご指摘をたまわりたいと思います。
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小山芳立@念仏無間 @khoryu

疑問文の作り方 現代語では文末に「か」を付けて疑問文にしますが文語(というか古文)では「や」が多いです。「や」は文末より、前に入れる場合が多いです。「や」は“係り”になるので文末を連体形の“結び”にします。 「君や知る」〈あなたは知っていますか〉 #短歌の文語

2013-06-07 22:32:23
小山芳立@念仏無間 @khoryu

疑問文における「や」はかなり前のほうに入っている場合、ちょっと分かりにくいかもしれません。 「春や昔の春ならぬ」(業平)=〈春はもう昔のままの春ではないのか〉 #短歌の文語

2013-06-07 22:37:02
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/16】立ちわかれいなばの山の峰に生ふるまつとし聞かばいまかへりこむ(中納言行平) 「いなば」→「去なば」〈去ってしまったら〉に「因幡」を掛ける 「…生ふる」までは「まつ」を導く序詞。「松」に「待つ」を掛ける 君が待ってくれていると聞けばすぐ帰るよ、の歌意 #短歌の文語

2013-06-08 11:45:03

※注
「去なば」は「去ぬ」(ナ変)未然形「去な」に助詞「ば」を付けたものです。あとで出てくる「なば」についての説明と混同なさいませんよう。

小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/17】ちはやぶる神代もきかず竜田川からくれなゐに水くくるとは(在原業平朝臣) 「ちはやぶる」→「神」の枕詞 「神代もきかず」〈神話でも聞いたことがない〉 「くくる」→「(下を)くぐる」に「くくり染め」を掛ける 川面が紅葉を映して真っ赤に染まっている画 #短歌の文語

2013-06-08 11:54:20
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/18】住の江の岸による波よるさへや夢のかよひ路人目よくらむ(藤原敏行朝臣) 「波」までは「よる」つながりで「夜さへ」を導く序詞 「や」は疑問。「よく」〈よける、避ける〉 「よるさへや…人目よくらむ」〈昼だけでなく夜さえ…人目を避けるのでしょうか〉 #短歌の文語

2013-06-08 12:00:33
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/19】難波潟みじかき蘆のふしのまもあはでこの世をすぐしてよとや(伊勢) 「で」=「ず」+「て」 「あはで」〈逢わないで〉 「や」は疑問。 「すぐしてよとや」〈逢わないで過ごせと?〉は、あとに「言ふ」を補うと分かりやすい。 #短歌の文語

2013-06-08 12:06:44
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/20】わびぬればいまはたおなじ難波なる身をつくしてもあはむとぞ思ふ(元良親王) 「わびぬれば」〈堪えきれないので〉 「はた」→意味があるようでないような〈やはり〉みたいな 「難波なる澪標(みをつくし)」に「身を尽くし」を掛ける #短歌の文語

2013-06-08 12:13:37
小山芳立@念仏無間 @khoryu

現在推量「らむ/らん」は「(今ごろは)〜しているだろう」「(あれはつまり)〜ということだろう」等の意味ですが、和歌では「なに」などが省略されていて「なんで〜しているのか」と問い詰め気味の疑問になることがあります。「夜さへや…人目よくらむ」「しづ心なく花の散るらむ」 #短歌の文語

2013-06-08 12:20:34
小山芳立@念仏無間 @khoryu

言い忘れました。「待つとし聞かばいま帰りこむ」の「し」は強調です。強調の助詞「し」を使うときはこのようにあとに「ば」を伴うのが通例。 #短歌の文語

2013-06-08 12:27:35
小山芳立@念仏無間 @khoryu

助詞「ば」 未然形+「ば」→仮定。「聞かば」〈もし聞くのなら〉 確実性を強調したいときは、連用形+「なば」。「な」は完了「ぬ」未然形で連用形に付く。「聞きなば」〈もし聞いてしまうのなら〉 已然形+「ば」→条件・状況。「聞けば」〈聞くとき、聞くので、聞けばすなわち〉 #短歌の文語

2013-06-08 12:37:13
小山芳立@念仏無間 @khoryu

枕詞は学校の授業で教わる通り、訳す上では意味を考えなくてかまいません。ただし鑑賞の上では話は別ですし、自分で使う場合も雰囲気を考えないといけません。(続 #短歌の文語

2013-06-09 00:39:55
小山芳立@念仏無間 @khoryu

承前)例えば「ぬばたまの」は「夜」などに掛かりますが要は“黒いもの、暗いもの”に掛かる枕詞です。よって「ぬばたまの夜景かがやく…」などとやると「ぬばたまの」が台無しになります。 #短歌の文語

2013-06-09 00:43:47
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/21】今こむといひしばかりに長月の有明の月をまちいでつるかな(素性法師) 「む」→未来推量・意志〈だろう、しよう、したい〉 「し」→直接過去「き」連体形 「つる」→完了「つ」連体形 あなたが「今すぐ行く」って言うから待ってたらもう夜明け近いわ、という歌。 #短歌の文語

2013-06-09 12:20:28
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/22】吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風を嵐といふらむ(文屋康秀) 「しをるれ」=「しをる」〈しおれる〉已然形 「むべ」〈なるほど〉 「らむ」→現在推量。ここでは〈(あれは)〜ということなのだろう〉 山風と書いて嵐つまり荒らしですね、という(ry #短歌の文語

2013-06-09 12:25:55
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/23】月みればちぢにものこそかなしけれわが身一つの秋にはあらねど(大江千里) 「ちぢ」(千々)は〈いろいろ様々に〉の意だが、乱れているニュアンス。 「ものこそかなしけれ」→「もの、かなし」の係り結び。「こそ」の係りには末尾を已然形で結ぶ。 #短歌の文語

2013-06-09 12:31:05
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/24】このたびはぬさもとりあへず手向山もみぢのにしき神のまにまに(菅家) 「ぬさ」→神への捧げ物 「とりあへず」〈取りそろえる暇がない〉。「〜あへず」は「しようとしてもできない」 「まにまに」=(御心の)ままに。「波のまにまに」は「間に間に」ではない #短歌の文語

2013-06-09 12:39:47
小山芳立@念仏無間 @khoryu

【百人一首/25】名にし負はば逢坂山のさねかづら人にしられで来るよしもがな(三条右大臣) 「名にし負はば」→〈そういう名を持つのなら〉 「逢」「さね/小寝」が含まれることによせて 「で」=「ず」+「て」。「しられで」〈知られないで〉 「もがな」〈〜があればいいのに〉 #短歌の文語

2013-06-09 12:46:11
小山芳立@念仏無間 @khoryu

完了の助動詞にいくつか種類があり、はっきりくっきり使い分けられるというわけではありませんが、それぞれ異なるニュアンスがあるので簡単に解説します。(続 #短歌の文語

2013-06-09 12:51:08
小山芳立@念仏無間 @khoryu

完了「ぬ」:連用形に付く。自然現象あるいは無意識的な現象について使うことが多い。「風立ちぬ」「春はきぬ」「風の音にぞおどろかれぬる」〈風の音を聞くとおのずと気づいた〉 また、「日も暮れぬ」〈急がないと日が暮れてしまう〉のように未来の確実なものについても使う。 #短歌の文語

2013-06-09 12:54:35
小山芳立@念仏無間 @khoryu

完了「つ」:連用形に付く。「ぬ」に比べると動作主の意志を感じさせる。「ほととぎす鳴きつるかたを…」 「うらみぬ」に比べて「うらみつ」は積極的に恨んだ感じ。 #短歌の文語

2013-06-09 12:59:40
小山芳立@念仏無間 @khoryu

完了・存続「たり」:連用形に付く 〈した〉という動作完了 〈している〉という動作進行 〈した状態で続いている〉という存続 の3つを表す。「雪ふりたり」は〈雪が降った〉〈降っている〉〈降りやんだが積もって残っている〉の3通りの意味があるので、文脈で判断する。 #短歌の文語

2013-06-09 13:04:35
小山芳立@念仏無間 @khoryu

完了・存続「り」:「たり」と同じ意味と思って差し支えないが、四段の已然形に“だけ”付く。「咲けり」(=咲きたり)「降れり」(=降りたり) 四段以外の動詞に「暮れり」などと使うのは間違い。その場合は「たり」を使って「暮れたり」とすること。 #短歌の文語

2013-06-09 13:08:40
浅草大将 @asakusanotaisyo

@khoryu 主観ですが、「つ」はどうも和歌になじまない。特に結句の「つ」止めは近代短歌のニュアンスになるように思います。一歩ふみこめば、作者ー作中主体の問題に行き当たるのかもしれません。私は大抵「ぬ」にしてしまいます。

2013-06-09 13:27:27
小山芳立@念仏無間 @khoryu

係り結びとは、特定の助詞を使った場合(係り)に、文末の用言を終止形ではない形で“結び”にすることです。 係り「ぞ」「なむ」「か」「や」→連体形の結び。ただし「なむ」は短歌ではまず使わない。 「風の音にぞおどろかれぬる」(「風の音におどろかれぬ」)の係り結び (続 #短歌の文語

2013-06-09 18:10:10
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