濱口竜介の「はじめのことば」 ⑥「聞く」ことと「演じる」こと

今年(2013年)9月より「即興演技ワークショップ in kobe」を開催するにあたり、映画監督濱口竜介がワークショップの柱だと考える「聞く」ことと「演じる」ことの関係について考察したツイートをまとめました。
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濱口竜介 @hamryu

おはようございます。『即興演技ワークショップ in Kobe』の話(http://t.co/bJgd9LETDm)。「聞く」こと、「話す」ことと「演じる」ことの関わりについて。朝から少し長くなるかもしれません。『あまちゃん』の前には終わらせたいですが。

2013-06-19 07:38:11
濱口竜介 @hamryu

演技空間において「聞く」ことは簡単には起こらないとここで言いました→http://t.co/EFjbiFVX2D 。それはおそらくは、役者が役者を選ぶ理由(カメラや観客の前に立つ理由)が基本的には「聞く」ことではないからです。ただ、それは単に「目立ちたい」ということとも違う。

2013-06-19 07:39:07
濱口竜介 @hamryu

『親密さ』という映画を撮って以来、役者が役者になろうとするのは、ほとんど本人でも制御がつかないような、止むに止まれぬ理由があるのだ、と感じるようになりました。それは単純な言葉で言えば「別の何ものかになる」ということです。ただ、それがそんなに特別な想いとも、今は思いません。

2013-06-19 07:40:09
濱口竜介 @hamryu

東北でインタビューを続けるうちに、今ここにいる自分を越えた「別の何ものかになりたい」という欲求は誰もが持っていると認識したりもしました。役者になる人たちは、その欲求や衝動がひと際強くなってしまったり、誤摩化せなかったり、少なくとも日常の中に収まりきらないだけなのではないかと。

2013-06-19 07:41:44
濱口竜介 @hamryu

役者が「別の何ものかになる」ために、自分ならざる言葉(台詞)や所作(振付)を選択することは、とても自然な、しかも合理的な方法に思えます。ただ結局それは他ならぬ「今ここ」の自分の声として、体としてまず現れるという圧倒的な現実に打ちのめされることである、という気がします。

2013-06-19 07:46:00
濱口竜介 @hamryu

「聞く」ことが演技空間の中でおざなりにされ易いのは、やはり「別の何ものかになる」という欲求が「表現」に向かい易く、聞くという一見して受動的な営みには向かいづらいからではないでしょうか。ただ、もし実は聞くことこそがその欲求に最も忠実かつ理想的な方法であるとしたらどうか…

2013-06-19 07:48:14
濱口竜介 @hamryu

「聞く」ことは本性的に「別の何ものかになろうとする」ことです。正確に言えば「別の何ものかになろうとする」のでなければ決して聞くことはできない。聞く者にとって、聞くことはほとんど今の自分を捨てることに等しく、それが聞くことが技術でなく、リスキーな一つの生だと言う理由でもあります。

2013-06-19 07:51:21
濱口竜介 @hamryu

「話す」側が聞かれているという具体的な感触の中で、自分自身の声を獲得して行くのは、そのとき「聞く」者を他者と感じていないからです。自分と聞く者の境界を曖昧に感じている。それが起こる背景には、聞く側のほとんど捨て身の姿勢があります。

2013-06-19 07:53:00
濱口竜介 @hamryu

踏み込んで言うならば、誰もが少なからず持っている「別の何ものかになりたい」という欲求は、結局はほとんど「自分自身になりたい」という欲求なのだと感じます。役者は「演じる」ことを通じて、社会生活の中で出会えない自分自身になろうとしている、自分自身の声を聞こうとしている、のではないか。

2013-06-19 07:53:59
濱口竜介 @hamryu

こう考えると「演じる」というのは、今の社会で市民権を得ている数少ない(しかしカジュアルな)狂気であって、それがヌケヌケと色々なところで展開されているのを見るのは何だかニヤニヤしちゃうというところもあります。役者はどこか社会の狂気を一身に担っているのかもしれません。それはさておき…

2013-06-19 07:57:40
濱口竜介 @hamryu

「自分自身の声を聞く」ことが役者の希求だとすればますます、「演じる」ことと「聞く」ことは決定的に離れるような気もします。自ら「聞く」側に回って、演技空間を望ましく変質させることは、実はその希求から最も離れてしまうのかも知れない。どれだけいい声が響いてもそれが自分の声ではないこと。

2013-06-19 08:00:11
濱口竜介 @hamryu

ただ、個人的にはそれは案外無理なく一致するのではないかという気もするんですね。それが「即興演技ワークショップ」の目的でもあります。というのも「聞く」ことはおそらく「話す」ことだからです。何だか禅問答みたいになってきたので、また次回にもう少し言葉を継いでみます。おはようございます。

2013-06-19 08:02:49