濱口竜介の「はじめのことば」 ③「聞く」ことについて(上)

今年(2013年)9月より開催される「即興演技ワークショップ in kobe」にあたり、映画監督濱口竜介が、演技をする上で重要な要素の1つだと考える「聞く」ことについて、前半のツイートをまとめました。
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濱口竜介 @hamryu

また朝です。「即興演技ワークショップ in Kobe」(http://t.co/bJgd9LETDm)の話、ワークショップ(以下WS)の三本柱として今回「聞く」「話す」「動く」ということを設定しています。今日の話は「聞く」ことと「即興」や「演技」は関係があるのか、ということです。

2013-06-11 06:33:06
濱口竜介 @hamryu

演技における「聞く」ことの重要性は、ある程度前提として共有されてる気もしますが、(前の台詞を聞いてないと自分の台詞が言えない、とかそういうレベルから始まり)、一般的に「演技力」と言うと基本的には「話す」「動く」能力であって、「聞く」ことをそこに数える人は少ない気もします。しかし…

2013-06-11 06:34:15
濱口竜介 @hamryu

例えば映画を見ていて、二人の俳優が同一画面に収まっていながら、まるで別々に「話し」「動いている」感覚を覚えることがあります。二人の持ち寄った演技プランが違ったり、いわゆる「演技力」に差があるのかもしれません。ただ、ここでの問題は単に「聞く」ことによって解決される気が常々してます。

2013-06-11 06:35:31
濱口竜介 @hamryu

日常生活でもよくあることですが、誰からも聞かれることなく、発される言葉はどこか浮遊でもしているんでしょうか。浮遊しているならいい方で、書き言葉はともかく話し言葉は、聞かれることなく発されたならば、ただ消え去るのみです。演技空間でも同様で消え去って行く無数の台詞とアクションがある。

2013-06-11 06:37:10
濱口竜介 @hamryu

聞かれることのない演技というのは、とても孤独なありようをして見えます。一つの画面の中にいる人たちがまるで画面分割されているような印象を覚えたりします。スイッチのoffにされた回路みたいなものでしょうか。そこには何の流れもなく、その場を一つなぎにするものが何もないように見える。

2013-06-11 06:38:47
濱口竜介 @hamryu

もちろん、その「一つなぎ」をカメラポジションと編集によって再構築することができるかもしれないし、孤独な人たちのありようを題材として扱うことで解決できる、かもしれないのですが自分が30過ぎて何だかそればっかりってのも寂しく思えて来たというのが正直なところです。それはさておき…

2013-06-11 06:41:01
濱口竜介 @hamryu

では互いに「聞き合える」演技空間というのが構築されればオッケーという結論になりますが、簡単ではありません。問題はその場合「聞き手」は誰?ということです。役者では?ということになりますが、僕の実感としては(意識として)「聞く」ために役者になる人は極めて少ないのではないでしょうか。

2013-06-11 06:42:15
濱口竜介 @hamryu

「聞く」ことが演技にとって必要だという理解があっても、それ自体が役者の目的となるような事柄とは思えない。それはそれで当然と思います(少なくとも、聞くことは「演技」よりもずっと「演出」に近い。これは事実ではないかと)。思えば、それは実生活でもそうだという気がします。

2013-06-11 06:43:39
濱口竜介 @hamryu

どの場面であれ重要なのは、おそらく「聞く」ことは技術ではない、ということです。会議なんかで、いずれ自分の意見を言うために「相手の話を聞いてみる」みたいなことではなく、それこそ自分を相手に捧げるような、自分が自分でなくなるリスクある一つの「生」として「聞く」ことを想像してます。

2013-06-11 06:46:59
濱口竜介 @hamryu

長くなったのでもう一日てとこでしょうか。明日は『うたうひと』という映画から、「聞く」ことについてもう少し…一つ先に申し上げておきたいのは、僕は何かを知ってたり、わかってたりしているから、このワークショップをやるわけではなくて、全面的にわからないからやるのだということですね。

2013-06-11 06:53:05