濱口竜介の「はじめのことば」 ⑤「聞く」ことと会話の即興性

今年(2013年)9月より開催される「即興演技ワークショップ in kobe」にあたり、映画監督濱口竜介が、日常生活の会話における即興性と演技の問題について考察したツイートをまとめてみました。
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濱口竜介 @hamryu

おはようございます。また朝になってしまった。体調は快復傾向です。「即興演技ワークショップ in Kobe」(http://t.co/bJgd9LETDm)の3本柱は「聞く」「話す」「動く」だと何度か言っていますが、「即興」「聞く」「話す」の関連を少し…

2013-06-14 06:38:24
濱口竜介 @hamryu

日常生活の中で最も即興性が高いのが「会話」だと常々感じます。言い換えれば、日常生活の中で最もリスキーな行為が会話だと思います。高校のとき、あまり親しくないクラスメイトを駅のホームで見かけると、会話が始まることを避けて、そっと隠れて電車を1本逃したりした記憶があります。

2013-06-14 06:40:01
濱口竜介 @hamryu

このとき、恐れているのは格別親しくないクラスメイトとの「親しくなさ」が会話によって、確認されてしまうことです。自分の受け答えの一つ一つが相手との会話のブレーキになることを恐れている。でも1本待っているうちに、別のクラスメイトと会ってしまったりする…。

2013-06-14 06:40:43
濱口竜介 @hamryu

そんなことを繰り返して行くうちに、我々はひとりひとり日常会話に関してはエキスパートになって行きます。だからこそ、程度の差はあれ皆即興的に話せるわけですね。とは言えそのリスクがあまりに高いから、社交辞令を覚えたり、リアクションをパターン化したりして、何とか即興性を下げようとします。

2013-06-14 06:43:11
濱口竜介 @hamryu

思えば、こうした会話は最も不味い演技に何だか似ている、という気がしなくもありません。ある「キャラクター」を演じてしまうこと。体裁としてはそう見えるのだけど、そこには信じられる感情がないから、見ている側としてもどうも入って行けないような感じがする。それは少し先の話として…

2013-06-14 06:44:00
濱口竜介 @hamryu

何をしゃべっていいかわからず、時間が早く経って欲しいと思うような類の会話の経験は誰しもあると思うのですが、この「何をしゃべっていいかわからない」という感覚は「何かしゃべってはいけないことがある」という感覚と隣り合わせです。

2013-06-14 06:46:09
濱口竜介 @hamryu

それは親しさの段階や相手の興味の度合いを計りかねているとも言えるし、いわゆる「場の空気」を読みかねている状態かもしれません。こういう会話は関係性の変化するあらゆる段階で発生するもので、基本的には必要なものです。少なくとも「何を言ってもいい」ような社会では我々は生きていない。

2013-06-14 06:47:19
濱口竜介 @hamryu

ただ、突然スイッチが入ったように会話が時間を追い越して行くことがあります。気がつけば2時間も3時間も経っているような、そういう「普通の会話」の経験もまた多くの人がしているのではないでしょうか。終わった後にプールから上がったような感覚のある、粘度や濃度のある時間としての会話。

2013-06-14 06:49:15
濱口竜介 @hamryu

会話そのものへの集中が極めて高まっている状態ですが、格別興奮や高揚をしているというわけでもなく、テンポが速いこともあれば沈黙もある。一つ言えるのは、とても自由に会話をしている!ということです。こういうとき「しゃべってはいけないこと」への意識は、随分希薄になっている気がします。

2013-06-14 06:51:54
濱口竜介 @hamryu

今にして思うと、こうした場の基盤として「聞かれている」という実感があります。自分の言葉が仔細に検分されて、選り分けられるのではなくて、一旦受け取られているという実感があるときに、次の一歩としての言葉を継ぐことができる。その一歩毎に自由に振る舞える境界が広がるような感覚がある。

2013-06-14 06:53:35
濱口竜介 @hamryu

ここで http://t.co/LabemzOxnA 小野さんが言う「自分/語りのための語り」が現れる要件として、もしかしたら小野さんが無自覚かも知れないことは、それは小野さんが聞いているから起こっているのだ、ということです。人が本当に話し始めるときその影に「聞く」人がいる。

2013-06-14 07:00:07
濱口竜介 @hamryu

また長くなっています。自分でも言葉にするのが初めてのことも多くて、言葉にしてしまうことの危うさを大いに感じつつ、言葉で言い切れるものでもない、という確信のもとに言い募って行こうかと思います。「聞く」こと「話す」こと、その絶えざる交替の話としてまた明日以降に…。おはようございます。

2013-06-14 07:01:21