「独白~新選組隊士たちのつぶやき 第六章 沖田総司~慶応四年四月~ガンバレ、ピンさん」
三日後、私は、また、大量の血を吐き、七条醒ヶ井の近藤さんの休息所で殆ど寝たきりの生活になってしまった。 寝ている間、思うことは一つだけ、「なんで、私が・・・」 今までの気だるさ、空しさにかわって、激しい憤りが私を襲った。 #試衛館の青春
2013-06-22 18:42:56忙しいなか、訪ねてくれるみんなに、私は、自分の感情が押さえきれず、悪態をついた。 それでも、みんな、優しかった。 私には、それがまた、癇に障った。 #試衛館の青春
2013-06-22 18:43:38大政奉還、王政復古の大号令と、時代は大きく変りつつあった。 師走に入り大方の幕府の組織は京を去った。新選組も例外ではなかった。 #試衛館の青春
2013-06-23 18:01:23新選組が京を出ていく前の日、来てくれたピンさんに、また、さんざん悪態をついた。独り京に残される淋しさと不安で、どうにかなりそうだったんだ。 #試衛館の青春
2013-06-23 18:02:12私の言うことを黙って聞いていたピンさんが、 「泣けよ」 って言った。 「泣きたいんだろ。我慢することないぞ」 って・・・。 そう言われるまで、別に泣きたいとは思ってなかった。 #試衛館の青春
2013-06-23 18:02:56ううん、正確には、泣きたいという自分の気持に気付かなかったと言った方が良いのかもしれない。 そう言われたら、涙が出た。どうしようもなく泣けてきて、しゃくりあげて泣いた。 #試衛館の青春
2013-06-23 18:03:54ピンさんは、隣で、私が泣き止むまで、黙って私を見つめていた。 そして、私が泣き止むのを見届けると、なにも言わずに帰って行った。 #試衛館の青春
2013-06-23 18:04:56おかしなものだ。 泣く前と泣いた後とでは、なにも状況は変わっていない。 なのに、何故か、気持が軽くなった。何か、吹っ切れたような気がした。 ありがとう、ピンさん。ピンさんのおかげだよ。 #試衛館の青春
2013-06-23 18:06:03明くる朝、障子の隙間からさし込む光が、久しぶりに綺麗だった。 #試衛館の青春
2013-06-23 18:06:47その後、京は危険だと言う事で、伏見のみんなのところに行った。 けれど、私が伏見に着いた日の翌日に、近藤さんが狙撃され、右肩に重傷を負ったので、一緒に大阪城に送られた。 #試衛館の青春
2013-06-23 18:07:41鳥羽伏見で幕府軍が負けて、江戸へ帰る船は、みんなと一緒だった。 だけど江戸へ着いてから、結局一度も、みんなのところへは帰れなかった。 近藤さんの知り合いの、ここ、神田の植木屋平五郎さんちの離れに居させて貰ってる。 #試衛館の青春
2013-06-23 18:08:37ここが植木屋だったことが、私には幸運だった。 梅や桜、そして私が名前も知らないいろんな花が、寝ている部屋から見えるんだ。綺麗だよ。 今まで何度も見ている花が、こんなにも綺麗だったなんて・・・。 #試衛館の青春
2013-06-23 18:09:41梅が咲き、桜が咲き、散り行く桜の花びらの一枚一枚が愛しかった。今、咲きかけた、紫陽花の小さな花弁の一つ一つが哀しいほど美しく見える。 #試衛館の青春
2013-06-23 18:10:42ああ、みんな生きてるんだって、生きてるってことは、それだけで素晴らしいんだって思うんだ。 そして、私もまだ、生きてるんだって・・・。 #試衛館の青春
2013-06-23 18:11:53ピンさん、訪ねてくれて、ありがとう。嬉しかった。楽しかったよ。 そりゃあね、独りでいると、「なんで、私だけ・・・」って気持が涌いてくる。私、それほど、人間出来てないもん。 #試衛館の青春
2013-06-23 18:12:59でもね、その気持、自分でなんとか出来るようになったよ。人って、どんな事にでも慣れるもんだね。 #試衛館の青春
2013-06-23 18:14:42確かな自信はないけれど、たぶん、「その時」も、静かな気持で迎えられると思うんだ。 だから、ピンさん、心配しないで・・・、ね。 大好きな土方さんの傍で、私の分まで、頑張れ! (第六章 了) #試衛館の青春
2013-06-23 18:15:51