モーサイダー!~Motorcycle Diary~Episode of Summer III~
- IngaSakimori
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それからしばらく日は流れて、七月末の月曜日━━ (あまり寝られなかったな……) 三鳥栖志智(みとす しち)が浅い眠りから目覚めたとき、時計の針は90度をさしていた。 深夜バイク便のアルバイトがある日ならば、これからやっと家へ帰ろうかという時間である。 #mor_cy_dar
2013-07-25 09:49:51(本当だったら今日も働いてておかしくなかったんだけどな) 未成年の志智にとっては遠い世界の出来事である国政選挙が、メディアの予想した通りの結果に終わってから数日後。 #mor_cy_dar
2013-07-25 09:50:04バイク便業者『テラ・ロジスティクス』の社長である藍田頼子(あいだ よりこ)から、志智が告げられたのは月末までのお前の仕事はないという一言だった。 #mor_cy_dar
2013-07-25 09:50:33曰く、働きたくても働かせない。その分は給料に割り増すと。選挙期間中に頑張った見返りだというのだ。 もっとも、頼子はその他にも自分の応援していた勢力が、もくろみ通りに大勝した祝儀だとも言っていたが。 #mor_cy_dar
2013-07-25 09:50:43(なんでそれがお金につながるんだ……?) やはりこの論理も志智の年齢では、理解に遠いものだった。 #mor_cy_dar
2013-07-25 09:50:53「ったく、中途半端に夜型のままだな」 結果として、志智は突然の暇(いとま)を言い渡されたも同然である。 #mor_cy_dar
2013-07-25 09:51:16おまけに大多磨周遊道路へいこうとすると、夕立に阻まれたり、あまりの猛暑に頭痛がしてきたりと、先日、芦田・橋本の二人と走って以来、ふしぎと縁がない。 #mor_cy_dar
2013-07-25 09:51:36「なんか……俺、うまく回ってないよな……」 「あ~……う~……あ、おにいちゃんだぁ~……」 「なんだ、千歳(ちとせ)。起こしたか?」 #mor_cy_dar
2013-07-25 09:51:55どこか霞がかかったような気分のままシャワー浴びたあと、リビングとはとても呼べない手狭な共有空間へ戻った志智が目にしたのは、だぶだぶのワイシャツ姿で目をこすっている妹だった。 #mor_cy_dar
2013-07-25 09:52:04「うん……あのね~、今日ってキャンプ……いくんだよね」 「ああそうだな」 「ん~……おにいちゃんが明日までいなくなる~」 「こらこら」 #mor_cy_dar
2013-07-25 09:52:24半分どころか七割くらいは寝ぼけていると思われる足取りで、志智に抱きついてくる千歳。 女子高生としては、かなり背が高いといってよいだろう彼女だったが、184センチもある志智の腕に包まれていると、ごく一部以外は平均的な少女に見える。 #mor_cy_dar
2013-07-25 09:53:44「お風呂あがりあったかい……ほかほか~……おにいちゃんエキスの補充する~……」 「……なんだよ、それは」 ぐりぐりと顔を押しつけてくる千歳の頭を撫でながら、志智はため息をつく。 #mor_cy_dar
2013-07-25 09:53:54「う~……」 「ほらまだ朝早いんだから、寝てろ」 「おいにちゃん、はやく帰ってきてね……帰ってこないとわたし、死ぬから~……死んじゃうからあ~」 「わかったわかった」 千歳を抱き上げると、志智は右足で小突くようにして薄っぺらなドアを開ける。 #mor_cy_dar
2013-07-25 09:54:13(そういえば、こいつの部屋に入るのは久しぶりだな……) 暗くておぼつかない足下に注意しながら、ベッドへ妹の体を横たえると、タオルケットをかけて、軽く前髪を撫でた。 #mor_cy_dar
2013-07-25 09:54:30「鍵ちゃんとかけるんだぞ。チェーンもな」 「う~……おにいちゃぁん……」 「やれやれ」 足音を忍ばせながら自室に戻る。大きな物音を立てると、また千歳が起き出しそうだ。 #mor_cy_dar
2013-07-25 09:54:41「……じゃあ、さ。 少しだけ留守にするよ。そのあいだ、千歳のことよろしく」 仏壇の両親へ手を合わせ、渡り廊下へ出ると、早くも空が明るくなりはじめていた。 #mor_cy_dar
2013-07-25 09:54:54「さて、と」 きゅるきゅるという音が連続する。後ろ髪を引く何かがいるように、スパーダのセルが愚図っている。 #mor_cy_dar
2013-07-25 09:55:47なかなか火のつかないエンジン。 苦笑しながら、軽くスロットルを捻り気味にしてスタータースイッチをふたたび押すと、黎明の住宅街にVツインのエキゾーストノートが一瞬吠えて━━そして霧消する。 #mor_cy_dar
2013-07-25 09:56:17時折、トラックが行きかう程度の国道16号をひた走り、待ち合わせ場所の道の駅・八王子滝山へ到着すると、そこにはリアシートへ荷物を満載した亞璃須(ありす)とティックの姿だけでなく、吉脇のハイエースも認められた。 #mor_cy_dar
2013-07-25 09:57:10「あれっ、ひょっとして吉脇さんも来るの?」 「いえ、私は留守番ですが、なにぶん朝早いものですから……少しでもお嬢様たちに楽をして頂こうと、ここまで参りました」 #mor_cy_dar
2013-07-25 09:57:18「なるほどね」 つまり、自宅から道の駅までXR650Rとグロムを積載してきたというわけだ。 少なくとも常識的な生活を送っているかぎり、朝四時半集合というタイムスケジュールはかなり厳しいに違いない。 #mor_cy_dar
2013-07-25 09:57:31「ところで」 「どうしました、志智?」 「いや、お前のXRだけどさ。 なんか変わってないか? こんなにコンパクトだったか?」 #mor_cy_dar
2013-07-25 09:57:46