アナザー・ユーレイ・バイ・ザ・ウィーピング・ウィロウ

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【アナザー・ユーレイ・バイ・ザ・ウィーピング・ウィロウ】

2013-08-02 21:00:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「爺さん」その夜降る重金属酸性雨はシトシトと柔らかく、路傍の瓦礫やゴミクズの輪郭をぼんやり白く浮かび上がらせていた。「爺さん」「死んだ」隣のダンボール・ハウスから顔を出した老人が教えた。「死んだ」「……ナンデ」「そんな事……もともとワシら、歳だもの」「違いねえな」 1

2013-08-02 21:05:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アンタ……ジーザスの何かだろ」「ジーザス?」「とぼけるなよ」老人は言った。「その格好、映画で見た事あるぜ。弔ってやってくれや」「悪いが俺はニセ神父だ」カソックコートの男は言い切った。「それにな、こういう時は、祈り屋じゃなく行政を呼ぶンだ。腐っちまうぞ」酒臭い息。「俺みてェに」2

2013-08-02 21:12:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

背後の道路を三輪トラックが走り抜け、その光を受けた巨体は実際不穏な存在であった。カソックコートも、帽子も、ところどころが裂け朽ちて、帽子のツバと藁めいた長髪の陰からのぞく顔は包帯まみれだ。「アイ……アイエ……」老人は男の緑の目を覗きこみ、ごくりと息を呑んだ。 3

2013-08-02 21:17:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」奇怪な大男は白く酒臭い息を吐いた。老人が棲家に後ずさると、怪人は再び身を屈め、死体が横たわるダンボール・ハウスを探り始めた。「何……何してるんでェ」老人が震え声で問うた。怪人は答えない。やがて彼は雨の中へ戻る。その手には汚れた分厚い封筒が掴まれている。 4

2013-08-02 21:29:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「死体には」怪人は言った。「必要ねえものだ」「中身カネか?畜生、ワ、ワシにも一割受け取る権利があるぞ!法律だぞ、そういうのがある!」老人が叫んだ。その眉間に、ピシャリと音を立ててコインが命中した。「アイエーッ!」「金じゃねェー……」親指でコインを弾いたのだ。「そいつを取っとけ」5

2013-08-02 21:43:27
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老人は失禁しながらコインを握りしめ、棲家に引っ込んだ。そのまま大人しくなった。怪人は朽ち果てたコンクリート動物人形がまばらな公園の敷地から去ると、ドブ川沿いのおぼつかない路へ降りてゆく。得体のしれぬバイオ魚が水面を跳ね、また潜る。歩きながら彼はスキットルを取り出し、グイと呷る。6

2013-08-02 21:50:13
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川沿いの路はやがてトンネルになった。彼は歩き、また歩き、立ち止まる。そしてまた歩き出す。また、立ち止まる。彼は背後に、微かな音を聴く。(ハッ……ハッ……ハッ……)「……」彼は再び歩き出した。やがて前方に、壁に寄りかかって座る浮浪者有り。7

2013-08-02 21:59:11
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「爺さん」「……」「爺さん」「……」ベレー帽を目深に被ってうなだれる男は、返事をしない。「シケてやがる。行く先々で死体だぜ」怪人は毒づいた。突如、男が跳ね起き、怪人を睨んだ。「死んで!ねえ!」震える手で、転がっている杖を探り、怪人に突きつけた。「爺ッて歳でもねェぞ!」 8

2013-08-02 22:08:50
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「ドーモ……俺はジェノサイドだ。覚えてるか、爺さん?俺はアンタの名は忘れた」「近寄るな!」浮浪者は後ずさった。「……」怪人……ジェノサイドはカソックコートの懐から汚れた封筒を取り出す。男の表情が変わった。「オイ、まさか」「……」男の目の前で、ジェノサイドは封筒を開いた。9

2013-08-02 22:18:29
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封筒から出てきたのは、色褪せた写真の束である。「アーッ!」男は掴み取ろうとした。ジェノサイドは高く手を挙げてそれを阻止し、顔面に無言で蹴りを叩き込んだ。「アバーッ!」「慈善事業じゃねェぞ……出せ、約束のモノを」「アバッ、いじめないでくれ!」「面倒クセェ真似させるんじゃねェー」10

2013-08-02 22:24:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「とにかく礼を言う!」男は呻き、鼻血を拭った。「それ、俺の命なンだ」「命をタバコ代と交換か?俺にァ、どうでもいいがな……」ジェノサイドは写真を一枚一枚確かめた。ネコネコカワイイ。ユメミコ。ヤマミオン。ネオサイタマをときめくアイドル達のブロマイドである。「早くくれ」「交換だ」11

2013-08-02 22:28:51
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「チッ。約束も、ついでに忘れちまえばイイんだ」男は毒づき、後ろのリュックサックを探ると、中から木彫りのコケシを取り出した。「ほら!これだろ!」「……」包帯まみれの手がヌゥと伸び、それを奪い取った。「ブロマイドよこせ!」男が叫んだ。その顔面に写真束を叩きつける。「グワーッ!」12

2013-08-02 22:33:03
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バラけて散らばったブロマイドを拾い集める男を尻目に、ジェノサイドは踵を返し、歩き出す。「……」先ほどの鼻息は聞こえない。「おお、おお!畜生、ブッダ!絶対手放すもんかよ!もう二度と!嗚呼!イイ!良かった!」「そいつは良かったぜ……」ジェノサイドはトンネルを後にした。 13

2013-08-02 22:39:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……その30分後、ジェノサイドは、がらんと広いコケシ工場の作業所に居た。「間違いないね」サムエ姿の中年女性は、木彫りコケシの底に刻まれた焼印を虫眼鏡で確かめ、厳かに言った。「間違いない。ウチの基準コケシだ」14

2013-08-02 22:44:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

コケシの縮尺は厳密に規格が定められている。基準コケシが無ければ、コケシ工場の業務は立ち行かなくなる。「礼を言うよ」「礼は要らねえ。言葉はな」「キメダの野郎、どこに逃げてやがったんだい?あの野郎……」「さあな」ジェノサイドは帽子を直し、「故買屋から故買屋へ、最後は浮浪者の手だ」15

2013-08-02 22:51:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「夜食をとろうとしてたんだよ。アンタも食べるかい?」彼女は腰を叩きながら立ち上がった。「しかし、まさか取り返してくるとはね……」「礼も、食い物も要らねェ」ジェノサイドは言った。「要るのはモノだ」「……」中年女性は頷いた。「そうさね」彼女は事務所の隅にある金庫に屈みこんだ。 16

2013-08-02 22:58:44
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ダイヤルを左右に回すと、金属製の扉がカチリと開く。彼女はそこから手の平大の桐箱を取り出した。「とっとと持ってっておくれよ。捨てるに捨てられなくってね。良かったよ」「それなら素直に渡しやがれ。面倒を押し付けやがって」「ウッフフフフ!それが、経済さね……」彼女はニヤリと笑った。17

2013-08-02 23:06:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ジェノサイドは彼女が見ている前で桐箱の蓋をスライドさせた。……中には、水分を失い、干からびた指が入っていた。「間違いねェな」ジェノサイドは呟いた。ヤクザのケジメ指だ。「誰に返しゃいいか、わからない。誰が奪い返しにくるか、わからない」中年女性は言った。「あんたは知ってるんだろ」18

2013-08-02 23:11:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ああそうだ」ジェノサイドは低く言った。「邪魔したな」彼は踵を返した。「待ちな、待ちな!」ショウジ戸を開けかけたジェノサイドを、彼女は呼び止めた。棚から出した、サケの瓶を抱えている。ラベルには、銘柄「卵焼き」と書かれている。「アンタ、酔っぱらいだろ!サケなら嬉しいだろ」 19

2013-08-02 23:14:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……いつしか雨はあがり、明滅する街路灯から街路灯へ、ジェノサイドはしめやかに歩き進む。手にしたサケをラッパめいて繰り返し傾けるうち、すぐに中身が空になった。(ハーッ……ハーッ……)「……」彼は足を止めた。声はまた聞こえなくなった。空の瓶をゴミ山に放り捨て、再び歩き出す。20

2013-08-02 23:17:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……一時間後。ジェノサイドは朱塗りのヤクザ庭園に通されていた。カーボンフスマがゆっくりと両開きになると、サツバツとした電子録音トランペット音が再生され、膝立ち姿勢のオヤブンが膝を擦りながら入室、ジェノサイドにドゲザをした。タタミの上にアグラするジェノサイドの前には、例の桐箱。21

2013-08-02 23:23:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

オヤブンは頭を上げ、厳かに桐箱を受け取る。そして、自身のケジメ痕に、干からびた指を当てはめた。「……間違いねえ」「ああそいつは良かったぜ」ジェノサイドは頷いた。オヤブンは指を桐箱に戻し、「これでメンツが立つ。実際助かった」「そうか」「先祖に呪われてクランが滅ぶところだった」22

2013-08-02 23:36:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ブードゥーじみた信仰は勝手にやってくれりゃいいが」とジェノサイド、「その先祖のメンツにかけて、約束を守るがいいぜ」「そりゃ勿論です」オヤブンは頷いた。そして、部屋の隅で直立するワカモノを振り返り、命じた。「ヤジ!すぐ持って来い!」「ハイヨロコンデー!」 23

2013-08-02 23:42:22
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ターン!ワカモノはフスマを勢い良く引き開け、退出した。「アバーッ!」コンマ5秒後、ワカモノは吹き飛ばされて部屋へ戻ってきた。その胸から腹部にかけ、斜めに切り裂かれた刀傷から鮮血が噴き出し、天井を汚した!「アバババーッ!オヤブン!デイリだ!」死亡!ナムアミダブツ!「何だと!」24

2013-08-02 23:46:03