アナザー・ユーレイ・バイ・ザ・ウィーピング・ウィロウ
二、三度、旋盤の操作を試みたが、キャプテンはもたついた。彼はいきなり背負った斧を掴み、ダルマに振り下ろした。「イヤーッ!」KRASH!ダルマが真っ二つになった。「よしッ!」キャプテンは拳を握って喜び、ジェノサイドを見た。「うまくいった!そして……おお、おお!」 50
2013-08-03 01:27:44ジャラジャラと音を立て、ダルマの中から机の上にこぼれ落ちたのは、瓶ビールや自動販売機ドリンクの王冠であった。「……?」ジェノサイドは無言で、やや首を傾げた。一方、キャプテンジェネラルは興奮のあまり痙攣しかかりながら、王冠をなで、一つ一つ丁寧に並べ始めた。51
2013-08-03 01:30:57「失われたもの、無し!」キャプテンはニヤニヤ笑いを張りつかせ、ジェノサイドを見た。「お前に価値はわかるまい、ゾンビー!」「わからねえな、耄碌ジジイ」ジェノサイドは傾いた帽子を直した。「どうでもいいことだ。モノを出せ。お前で最後だ」「はて……?」ガラス玉めいた目をしばたたいた。52
2013-08-03 01:34:42答えるかわり、ジェノサイドはキャプテンのベルトにくくりつけられたキーリングをむしり取った。「約束は守らせる」「こら!邪険だぞ!」キャプテンジェネラルは狼狽えた。「老人に邪険はよせ!」「最初からの約束だ」「フーム……フーム」いまだ不服げではあったが、キャプテンは引き下がった。53
2013-08-03 01:38:20「ワシはな」ジェノサイドの去り際、キャプテンジェネラルは強調した。「ワシは、地上の連中に様々な物を盗まれ、奪われた。哀れじゃ。だから若い奴らは絶対に許さん。それをわかってほしい。そして今後も、困ったことがあれば……きっとそれはワシから盗んだ奴らのせいゆえ、ワシに相談しなさい」54
2013-08-03 01:42:14「そうか。じゃあな」ジェノサイドは振り返らず、キャプテンジェネラルの店を退出した。彼はきた道とは別の方角へ進み、地上のしかるべきポイントへ通ずるハシゴにたどり着いた。地下に長居は無用。キャプテンのような狂人は一人ではない。リー先生の研究施設。そしてサヴァイヴァー・ドージョー。55
2013-08-03 01:46:12ハシゴを登りながら、ジェノサイドは陰気に考える。この面倒もいよいよ最後の詰めだ。ふざけた探索行の終着点だ。 56
2013-08-03 01:48:49……20分後、彼は周囲を安アパートに囲まれた空白地に足を踏み入れ、腰の高さに生い茂る、野生のバイオ米の稲穂(食べられない)をかき分けていた。遺棄されたこの庭の奥には、化け物じみて大きな柳の木が生えている。柳の木の下には、透き通る女が、陽炎めいて揺れながら、無言で佇んでいる。57
2013-08-03 01:53:16ザリザリ……ザリザリ……近づくと、透き通る女の周囲では、不穏な軋み音が断続的に鳴っている。ジェノサイドは稲穂をかき分け、かき分け、柳のたもとに近づいた。女のおぼろな顔はジェノサイドの方向を向いている。言葉を発する事はない。「……」ジェノサイドは柳の根にしゃがみ込む。 58
2013-08-03 01:58:14彼は女を無視し、あらかじめ用意したシャベルを使って、土を掘り返していった。シャベルは硬いものに当たり、ガチリと音が鳴った。ジェノサイドに生身の顔、肌があれば、まったくうんざりした表情をした事だろう。彼は素手で土をかきわけ、四角く無骨な金属塊の表面を夜気の下に露出させた。 59
2013-08-03 02:00:51こうして掘り返したのはこのサイバネ家電のごく一部分に過ぎず、大部分は土の下だ。それを掘り起こし処分するとなれば、たいへんな手間となる。ジェノサイドはパネルのキーシリンダーの土を払い退けると、キーリングの鍵を探り、一つ一つ、試していった。 60
2013-08-03 02:02:43そうしている最中も、透き通る女は佇み続ける。恨み事を呟いたり、ましてジェノサイドに襲いかかる事もない。ジェノサイドは鍵を試していく。この、実際に現実に影響をおよぼすことのない、くだらぬ存在のせいで、ジェノサイドはひどく迷惑させられている。 61
2013-08-03 02:05:16この空き地に隣接するアパートの大家が、この柳の下のユーレイを発見し、仰天。昼夜を問わず悲鳴を上げ、騒ぎたて、無意味なエクソシズムを試みるようになった。これがジェノサイドの安寧を大いに妨げることになった。62
2013-08-03 02:08:30路を挟んだ向かいの廃ビルが、現在のジェノサイドの住居だ。いい具合に周囲に溶け込み、邪魔なマッポの見回りもない。キノコ中毒者が集会することもない。お誂え向きの棲み家である。このユーレイの存在は迷惑千万だ。「迷惑だぞ」鍵を試しながら、彼は呟く。……応えるかのように、鍵が挿さった。63
2013-08-03 02:11:36「……」ジェノサイドは鍵を回した。キャバァーン!えらく大きな音が鳴った。ジェノサイドは周囲を素早く見渡す。それから再び操作パネルを見る。ブルズアイ。物理鍵が受け容れられ、管理者モードの起動に成功した。予備バッテリーが作動し、小型液晶モニタが点灯した。彼は文字パネルに触れた。64
2013-08-03 02:15:53自動オモテナシ機能。これだ。奇妙なオイラン立体映像投射を行うこの機能が、ユーレイの元凶だ。地中に不法投棄されたサイバー家電は、何かの拍子で自律起動し、薄い土を越えて、地上にノイズまみれのオイラン映像を投射させていた……ユーレイを。ジェノサイドは消去命令を打ち込む。 65
2013-08-03 02:18:58「……」消去命令の実行を行おうとした彼は、その手を止め、顔を上げて、佇むユーレイをもう一度見た。ユーレイはノイズに包まれ、表情の判別はできない。ジェノサイドは肩をすくめた。(((アリガトウゴザイマス)))「あン?」ジェノサイドは発せられた声の主を探した。……無人である。 66
2013-08-03 02:20:50(((最後のお世話、アリガトウゴザイマス)))ジェノサイドはユーレイを見た。ユーレイはジェノサイドを見た。そして、申し訳なさそうに、弱々しい笑みを浮かべた。ジェノサイドは首を振った。「バカげてやがる。オカルトはたくさんだ」機能消去。自律電源をOFFにした。 67
2013-08-03 02:23:10ザリザリ……ザリ。ユーレイが消滅した。示し合わせたように、夜明けの時刻となった。ジェノサイドは立ち上がった。「やれやれ」スキットルのサケをふた口呷り、空き地を出て、路を挟んだ廃ビルへ。「これで静かに眠れるぜ」歩きながら、彼は独りごちた。 68
2013-08-03 02:27:08◇タイムライン直りましたか?◇昨日深夜、タイムライン取得できないツイッター的ななんかがあった事が観測されました。更新中に何らかインシデント中断したとお考えの方には安心を伝えたい。昨日のエピソードは一回で完結しております。読めなかった人は当アカウントのツイットからご確認ください。◇
2013-08-03 10:59:07