第二大罪大戦《第四の狭間》【戦闘フェイズ1】

紅(ルージュ)は嫉妬、アンヴィ・ナルシス(@HeNotShe_Envie) 黒(ノワール)は傲慢、ベルカイン(@fusui_kouryu) 狭間に出で遭い、交叉する。
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黒の傲慢:ベルカイン @fusui_kouryu

相手の変容に、驚愕より憐憫を覚えてしまうのは何故だろう。 触手の椅子をほどき、一歩、進む。 狂喜と虚ろに満ちた声は心地よく、だからこそ。 「そうさな、シェスは佳き男だ」 容赦はしない。 「我のような化物すら腕で抱き止め、口付けさせてみせたのだから」 距離を、縮める。→

2013-08-05 20:02:35
黒の傲慢:ベルカイン @fusui_kouryu

笑う。笑う。笑う。 「真を確かめず目を背けるか。佳い、それが卿の有り様であるなら否定はせぬ」 漆黒の沼地を巨大な脚が進む。 「苦しいか? 哀しいか? 愛人に会いたいか? 無念よ、我にはどうすることも――」 言いかけ、止めた。 距離を空け、思案するように俯き、言葉を切る。

2013-08-05 20:05:07
紅の嫉妬アンヴィ・ナルシス @HeNotShe_Envie

「あいつが佳い男? きみが化物? へえ、そう?」 信じない。信じられない。それが僕の罪であり罰。 『黒』が、僕の『敵』が、近づいてくる事実を見て、僕の目は彼を睨んだ。 「苦しい? 哀しい? 愛人? 会いたい?」 鸚鵡返しに彼の言葉を繰り返す。そうして、笑う。

2013-08-06 00:56:12
紅の嫉妬アンヴィ・ナルシス @HeNotShe_Envie

「ああ、そうだね。僕はそう思ってる。僕はそう『信じよう』――あはははは!」 紡いだ言葉のすべてが、『不信』に歪んでいく。苦しみも哀しみも、すべてのこころが嘘になる。柵から解き放たれたような晴れやかな気分で、嘲笑う。 『不信』は、もう抑えない。

2013-08-06 00:56:15
紅の嫉妬アンヴィ・ナルシス @HeNotShe_Envie

狂ったような調子から、一見すると普段通り、穏やかな風に戻って、囁くような声を響かせる。 「ホーホムート、きみの、一番大切なものはなんだい?」 問いかける僕の声が耳に届いたなら、彼の心は『不信』に侵される。ここに在る僕の存在を、信じることができなくなる。つまり、それは――

2013-08-06 00:56:21
黒の傲慢:ベルカイン @fusui_kouryu

――大切なモノ? 柔らかい声音が、なぜか不気味なものとなり耳朶をうつ。 誰の声音か、聞き覚えがあるが思い出せず――『独りきり』の沼地で思案する。 己にとって大切なモノとは何か。最も自分が固執するもの、とは。 考えていく度焦燥が募る。→

2013-08-06 04:41:52
黒の傲慢:ベルカイン @fusui_kouryu

(愛か?――否) 誰も我を愛さない。 (黒の座か?――否) 自力で奪ったモノではない。 ……誰も、誰も自分の価値を理解していないではないか! 歯を鳴らし、怒りと責苦に耐え続けようやく出せた、答え。 (それらを内包する存在は、ただ、一つ) 「……世界だ」→

2013-08-06 04:48:33
黒の傲慢:ベルカイン @fusui_kouryu

言った刹那、上半身――右腕が軽くなった、そんな気がしてならない。 いや、事実『右腕』が、最も進化した自慢の部位の存在が感じられないことに愕然とした。 「何……」 思わず呟き、右腕を見つめる。 そこには、消化液を発する巨大な右腕が――なかった。 「……何、が、起きた」

2013-08-06 04:53:23
紅の嫉妬アンヴィ・ナルシス @HeNotShe_Envie

僕の罪科は『不信』。その力を抑えずにかけた問いは、相手の心に不信を植え付ける。不信の先は、僕自身。問いかけだけを残して、僕がここに存在していることを、信じられなくする。 彼が心中で自問を繰り返す姿を、眺めながら、沼地を歩く。 「大切って、何だろうね」 存在しない呟きは、届かない。

2013-08-06 05:37:09
紅の嫉妬アンヴィ・ナルシス @HeNotShe_Envie

彼が答えたことで、彼の認識に僕の存在が戻る。『不信』のもたらす不干渉は、問いかけが役目を終えることで失われる。 同時に、もうひとつ。 「右腕がなくなってしまったね」 事実を述べただけの無意味な言葉。問いかけではないから、僕はここに存在している。彼から十分な距離をとって、その背後。

2013-08-06 05:37:16
紅の嫉妬アンヴィ・ナルシス @HeNotShe_Envie

何が起きたのか、それを『敵』に説明してあげる必要はあるだろうか。 「きみにとって、自分の右腕が信ずるに足る、大切なものだったっていうことだよ」 失われてしまえば、それは過去形。そして僕には、もう信じられないこと。 虚ろな笑みを浮かべ、次の問いを考える。彼は次に、何を失うだろうか。

2013-08-06 05:37:25
黒の傲慢:ベルカイン @fusui_kouryu

「……なるほど、亡失や削落に似た力か」 微かに怒気を帯びた声音は、しかし怯むことなく力強い。 「確かにあの右腕は惜しいことをした。一番の力作なのでな」 首だけを【敵】に向け、大きな口を縫い跡がほつれるほどにまで笑う。 「だが、片手がなくとも貴様を捻ることは出来るわ!」→

2013-08-06 07:12:30
黒の傲慢:ベルカイン @fusui_kouryu

振り向きざまに巨大な足を水面に叩きつけ、【敵】との間に泥水の壁を作る。左側頭部に蠢く触手を数本噛み千切り、そのまま跳躍。 【敵】の眼前近くまで躍り出ると、触手を潰して出した口に含んだ液体を振りかける。それは確かな【外れ】。 今度は背後に飛び、間をとった。数本の彼岸花を踏み潰し。

2013-08-06 07:33:17
紅の嫉妬アンヴィ・ナルシス @HeNotShe_Envie

削落に似た、と言われればほんの少し嬉しい気がする。そして同時に、同意もできた。僕は、彼女により近いものに変わったのだろう。 「ありがとう。それは、褒め言葉だね」 怒気の滲む声に、僕は笑み返し。 首だけをこちらに向けて笑う姿は、たしかに異形の化物のよう。だけど、あれはただの大罪だ。

2013-08-06 19:43:30
紅の嫉妬アンヴィ・ナルシス @HeNotShe_Envie

黒い泥水の水柱が立った。振りかかる飛沫が目に入らないよう、顔の前に袖をかざして。目眩まし? 「何をする――」 つもりなの、と問いかけるより速く、彼が肉迫した。泥濘を蹴ったとは思えない跳躍で一気に距離を詰められ、僕は衝撃に備えて後じさる。 けれど予想外れ、襲い来たのは痛みではなく。

2013-08-06 19:43:33
紅の嫉妬アンヴィ・ナルシス @HeNotShe_Envie

何か得体のしれないものを吐きかけられて顔をしかめる。水柱に隠れて、これを口に含んでいたのか。 鼻を突くにおい。汚されたことが不快だった。 「ねえ、これは何のつもり?」 それだけでまた離れて行った彼に問いかける。『不信』を植え付けて、顔の汚れを拭う。

2013-08-06 19:43:40
紅の嫉妬アンヴィ・ナルシス @HeNotShe_Envie

そうして気付く。ペンダントを留める銀の鎖が、黒く染まっていた。毒か、と思いながら、嘆く。 「……折角、新しい怠惰がくれたのに」 紅い石は、拭えば元の輝きを取り戻したけれど。銀の曇りを取り除くには、どうすればいいのか。紅の地に戻れば、誰か知っているだろうか。誰か帰っているだろうか。

2013-08-06 19:44:57
黒の傲慢:ベルカイン @fusui_kouryu

まただ。また黒沼と漆黒の中に一人、置き去りにされる。 否、絶対に誰かといたはずだ。移動していることから、そして【外れ】の触手が数本なくなっている二転より推測した。 されば、自分は【外れ】のあれを  へ浴びせたことに……なるのではないか? 頭の中の空白が埋まらず、思案を巡らせる。→

2013-08-06 19:59:06
黒の傲慢:ベルカイン @fusui_kouryu

周囲への警戒は怠らず、殺気を巡らせても反応はない。 ここまで気配を消せる何かに敬意を送りたいほどだ。出来れば持ち帰り、進化の研究に使えればいいのだが、まあ、無理な話だろう。 そして、耳に届いた次の『問い』。空白を擦るような、落ちついた声にしかしまだ答えない。脳が警告を発する。→

2013-08-06 20:08:10
黒の傲慢:ベルカイン @fusui_kouryu

それでも静寂は自分が嫌うモノの一つ。 孤独も同じく、自分が嫌うモノの一つ。 罪科が胸を苛み頭痛を走らせる。 (孤高、ト孤独、ハ違ウノヨ) 黙れ。 (オ話シ相手、探ソウヨ) 黙れ。 己の唾棄すべき部分の思いを閉じ込め、声に応えた。 「物を尋ねるときの態度ではないな」 次いで、喪失→

2013-08-06 20:17:20
黒の傲慢:ベルカイン @fusui_kouryu

ごそりと、自慢の銀髪が抜け落ちこぼれていく姿を見た気がした。 アンバランスだからこそ映え、威圧を出すためにとっておいたそれの喪失に今度こそ大きく溜息をつき、肩を落とした。 「禿げた……」 言葉は間抜けだが、唾棄すべき己がやかましく泣き叫ぶことで苛立ちが募り、冷静を保てそうにない。

2013-08-06 20:21:16
紅の嫉妬アンヴィ・ナルシス @HeNotShe_Envie

「ああ、かわいそうに。……気に入ってたんだね、銀色の髪」 毛髪のあった右側がつるりと禿げ上がった姿は、なんというか、左側が異形の触手と化しているものだとしても痛ましく思えた。哀れみを言葉にしてみれば、そんな感情もすぐに薄れてしまうのだけど。 「きみは随分、自分自身が大切なんだね」

2013-08-06 23:57:41
紅の嫉妬アンヴィ・ナルシス @HeNotShe_Envie

『不信』によって失われるのは、問われた相手にとって大切で、信じられるもの。彼は二つ失ったけれど、それはどちらも、彼の体の一部分だった。 「それとも、自分以外は信じられないのかな。きみはさっき、世界が大切だと答えたけれど、世界から失われたのはきみ自身だけだものね」

2013-08-06 23:57:45
紅の嫉妬アンヴィ・ナルシス @HeNotShe_Envie

呆然とため息をついて肩を落とす姿に向かって、淡々と推測を並べ立てる。それから少し声色を落として。 「僕は妬ましいよ。自分を信じられる、きみが。その上きみは、黒に迎えられながら、黒よりも大切なものがあるんだから」 首飾りの紅い石に触れる。 「僕には、紅(これ)しか残ってないのに」

2013-08-06 23:57:52
黒の傲慢:ベルカイン @fusui_kouryu

銀髪に触れようとしても無駄なことで、掌からすり抜けていく。 両膝が、沼へへたりこむようカクリと折れた。 (ア、ア、ア、…アアアアアアアアアア) 煩い。 (イヤ、ヨ、イヤヨイヤヨイヤヨイヤヨイヤヨ) ――煩い! 唾棄し損なった弱さが悲鳴の嵐を脳髄に撒き散らす。→

2013-08-07 03:35:41