【twitter小説】暗中模索#2【ファンタジー】
その空間は実験設備のようで、あちこち鉄骨やダクト、配線がむき出しになっている。下の方に作業着を着た研究員やローブを着た魔法使いが右往左往して機器を操作している。扉をくぐるとそこは足場になっており、下の床に続く階段が伸びていた。 32
2013-09-09 18:34:33宙に浮かぶ暗黒球は表面がぼんやりとしていて光沢は無い。 「これが、ヴォイド・ジェネレータですか?」 メルヴィはミクロメガスに訊いてみる。彼はにこりと笑って頷いた。そして階段を下りていくのでメルヴィはそれに続く。 33
2013-09-09 18:38:30「もっとも、これは実験的な設備でいまは発電はしていないし活性化もさせていないよ。今日はこの中に用がある」 「中……? 中に入れるの?」 「ああ。入れるさ。大丈夫、僕と一緒なら危険は無いよ」 34
2013-09-09 18:43:40下の作業員はミクロメガス達を気にすることなく作業に没頭している。時折近くにいる者が帽子を取って挨拶した。ミクロメガスは右手を上げて挨拶を返す。そしてメルヴィに説明を始めた。 35
2013-09-09 18:49:20「このヴォイド・ジェネレータはヴォイド鉱を精製して作られる……ヴォイド鉱は聞いたことがあるだろう。この時代を司る神、混沌神ベルベンダインが作った物質だ。ヴォイド鉱の純度を上げていくと、ベルベンダイン神そのものに近づいていく」 36
2013-09-09 18:53:24「そして、その純粋な結晶たるこのヴォイド球はベルベンダイン神へと辿りつくゲートでもある。ベルベンダイン神はとても強力な女神だ。この時代、濁積世を創造した女神だからね。だからこそ、ヴォイド球はとてつもないエネルギーを生成することができる」 37
2013-09-09 18:57:59メルヴィは黙って聞いていた。つまり、このヴォイド球の中へ入ることで、ベルベンダイン神に干渉するのだ。教導院は様々な神と交渉を行うが、主神エンベロードと副神ベルベンダインはその中でも特別扱いだ。 38
2013-09-09 19:00:53「ベルベンダイン様に何か用事があるのですが?」 「さぁね……ベルベンダインは君を指名し会いたいと言ってきたんだ」 それは驚くべきことだった。ベルベンダイン神は濁積世の創世に失敗し、下界の民と一切の干渉を断っているのだ。 39
2013-09-09 19:05:28力を失いつつある神々の中でも、ベルベンダイン神はいまだその力をほとんど失わず保っている。だからこそ、この濁積世の副神として神々に選ばれたわけだ。その力を……どこかに隠れてしまったベルベンダインの力を人々は何としても利用しようとした。 40
2013-09-09 19:09:29そのため教導院という政府の期間やベルベンダイン教導体といったギルドが作られている。そこまでしても、ベルベンダインを召喚することはおろかメッセージすら年に数回得られればいい方というほど彼女に干渉することは難しいのだ。 41
2013-09-09 19:13:30そのベルベンダイン神自ら、干渉を持ちかけたという。これは異例中の異例の事態だ。ミクロメガスが言うには、こんなことがあったのは人類帝国建国から続く教導院の歴史の中でも数回しか無い。メルヴィは心中複雑だった。だが呼ばれた以上行かなくてはいけない。 42
2013-09-09 19:17:50「ヴォイド球の中に入ったことはあるけど、普通にしていればいいよ。危険は少ない……と言ってもベルベンダインの領域だから、彼女の思うままだけどね。危害を加えたいならもっと単純な方法がいくらでもあるさ」 43
2013-09-09 19:21:59中空に浮かんでいるヴォイド球に侵入するため、銀色の錆びたタラップが運ばれてきた。ミクロメガスは何のためらいも無くタラップを登っていく。メルヴィは戸惑うばかりだ。 「どうした? 来なさい。心配はいらないよ」 44
2013-09-10 17:49:34意を決しメルヴィもタラップを登る。ミクロメガスはヴォイド球の表面にゆっくりと右手で触れた。それはまるで霧に沈むようにゆっくりと黒い靄の中に消えていく。 「ほら、大丈夫だ。二人で一緒に行くよ」 そう言ってメルヴィを招き寄せる。 45
2013-09-10 17:54:55メルヴィも恐る恐るヴォイド球の表面に手を伸ばす……が、まだ勇気が出ないようだ。ミクロメガスはふっと笑い、メルヴィの肩を掴んで抱き寄せた。 「あっ」 「行くぞ!」 そしてそのまま一気にヴォイド球の中へ身を投げる! 46
2013-09-10 18:00:252、3歩踏みだすと、そこは奇妙な空間だった。長い、真っ直ぐな薄暗い通路の途中に二人はいた。木で張られた通路に電気の明かりが弱弱しく灯っている。壁には黒く塗りつぶされた絵が額に入っていくつも飾られていた。 47
2013-09-10 18:04:01ミクロメガスはメルヴィの肩から手を離し、ずいずいと通路を歩いていく。不安になりながらもメルヴィはその後ろを歩いた。床のカーペットは長年踏みならされたように薄くぺたんこになっていて薄汚れている。 48
2013-09-10 18:08:33「この先にいるのですか?」 「誰が?」 「その……ベルベンダイン様が」 ミクロメガスは振り返ると、やはり柔らかく笑って言った。 「もうここは彼女の体内だよ。後は……彼女が心を開くのを待つだけさ」 49
2013-09-10 18:13:25通路を道なりに進むと、ようやく曲がり角が現れた。そこからの通路はかなり入り組んでいた。道はいくつも枝分かれをしていて、たくさんのドアが壁に並ぶ。階段を何度も登ったり降りたりしてミクロメガスはずいずいと先へと進んでいく。 50
2013-09-10 18:17:32「あの……道が分かるんですか?」 「いや、適当だよ」 ミクロメガスは無造作に傍の扉を開いて中へ進んでいく。 「歩く必要はないけど……歩いた方がいい。そうやって僕らのことを見ているんだ、ベルベンダインは」 51
2013-09-10 18:22:16「彼女は決して自分から心の中に招き入れようとはしない。相手が自分の中に踏み込んでくるのをいつも待っているんだ」 そのとき、通路の陰に誰か少女のような白い影が横切った。ミクロメガスはそれを見て、初めて神妙な顔になる。 52
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