悪い男に騙される山城【二章最終日】

今話題の読者参加型なりきりストーリーアカウント『悪い男に騙される山城 @fd_yamasiro 』さんのこれまでのあらすじをまとめました。TLで気になったけど話の概要を掴めていないご新規様やもう一度見たい貴方に是非ご活用ください。 最初→http://togetter.com/li/574052 前→http://togetter.com/li/574533 次→http://togetter.com/li/575718
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悪い男に騙されていた山城(完) @fd_yamasiro

刀の柄を握り、鞘から刀身を少し引き抜く。 日向の笑顔のように曇りの無い銀に映る自分を見詰める。 名前を呼ぶ。 返事は、無い。

2013-10-09 08:11:10
悪い男に騙されていた山城(完) @fd_yamasiro

風邪は引かずに済んだ。 髪が短くて本当に良かったと思う。 今日の出撃は絶対に外れたくなかった。 改になってからの初めての出撃であり、姉様と久し振りの同艦隊編成であり、そして何よりも。 榛名もいる。 刀を鞘に納める。澄んだ金属音が響いた。 うん、そうだね日向。わかってる。

2013-10-09 08:18:02
悪い男に騙されていた山城(完) @fd_yamasiro

何かと話し掛けてくる姉様に対して、いつも通りの私を演じる。 姉様の昨晩の発言も不可解だった。 榛名の味方だと言っていた。榛名は間違っていないと言っていた。 間違ってないのですか? 向を殺した榛名が間違ってないと言うのですか姉様。

2013-10-09 12:19:59
悪い男に騙されていた山城(完) @fd_yamasiro

でも姉様を疑いたくない。 姉様だけは信じ続けていたい。 私が間違っているのですか? 榛名が正しいのですか? どういうすれ違いがあれば、私の見ている世界が榛名を歪めてしまうですか? 名が正しいのならば、私は何をしているのですか?

2013-10-09 12:26:30
悪い男に騙されていた山城(完) @fd_yamasiro

出撃の準備をしていると、姉様と私に 工廠への呼び出しが掛かった。私達姉妹に41cm連装砲のプレゼントが提督からあるらしい。流石は連日苦戦を強いられているという沖ノ島海域での作戦である。私にまで新規装備を回すとは、提督も本気のようだ。

2013-10-09 21:00:09
悪い男に騙されていた山城(完) @fd_yamasiro

目に見えて感激してはしゃいだ様子で私の手を引く姉様に連られながら、私は逆に気持ちが沈んでいくのを自覚していた。 なんだか嫌な胸騒ぎがして仕方が無い。 行ってはいけない気がする。 理由は全く見当も付かない。どの道拒否なんて出来ようもないのだけれども。

2013-10-09 21:08:43
扶桑改二 @husou_kankore

@fd_yamasiro これでもう欠陥戦艦とは呼ばせないわよ♪ 私達も提督の期待に応える働きをしましょうね(なでなで

2013-10-09 21:14:33
悪い男に騙されていた山城(完) @fd_yamasiro

ええ、そうですね姉様…。 姉様の笑顔に悪寒が薄れるけども、消えはしない。 腰の刀の鞘を無意識に握る。 日向に会いたい。 彼に会いたい。

2013-10-09 21:43:13
悪い男に騙されていた山城(完) @fd_yamasiro

火薬の匂いの濃い工廟に着くと、職人の方々がスパナやらを片手に待っていた。喝采のような歓声を挙げて、私達を中心に置かれた新兵器の元へと手招きする。換装の準備はできているようだ。 出撃までの時間を考えれば当然なのだけれど。 キョロキョロしない程度に見回す。彼の姿は見当たらない。

2013-10-10 00:10:22
悪い男に騙されていた山城(完) @fd_yamasiro

ん…? 片膝をついて砲身を覗き込んでいる人影を見付け首を傾げてみる。よく見れば榛名であり、ちらりともこちらを見ないで兵器の観察に没頭している。 …。 換装の為に、私から衣を受け取ろうとしていた助士を無言で押しのけて早足で近寄る。 すぐ傍に立っても榛名は私に気付かない。

2013-10-10 01:51:36
悪い男に騙されていた山城(完) @fd_yamasiro

何してるの? 長い黒髪を見下ろしながら尋ねる。思いの他冷たい声が出た事に満足する。 体勢はそのままで榛名が首だけで振り向き、長い睫毛を飾る瞳を私に向けた。 それは姉様と私の武器よ。 場がしーんと鎮まっている事に気付く。皆が揃って私と榛名を遠巻きに呆然と眺めている。

2013-10-10 01:59:16
悪い男に騙されていた山城(完) @fd_yamasiro

「…知ってるわ」 簡潔に答えてくれた。そしてそのまま何事も無かったかのように観察を再開する。私の中で何かが切れる。 なら触るな!! 叫び、手の甲で目の前の無防備な即頭部を打ち付ける。鈍い感触。 姉様が私の名を大声で叫び、倒れた榛名の元へと駆け寄る。その様を横目で眺め続ける。

2013-10-10 02:17:00
扶桑 @Husou_

@fd_yamasiro 山城…!山城、駄目…!(妹の様子を固唾を飲んで見守っていたが、手を振り上げた事を確認すると瞳を丸くして。妹を気にしつつも榛名の元へと行くとそっと榛名を抱き起こし)…榛名、起きられるかしら…?

2013-10-10 02:20:26
悪い男に騙されていた山城(完) @fd_yamasiro

扶桑姉様に起こされた榛名が、殴られたのと逆のこめかみを押さえ、その手に付いた血を見下ろす。硬い床で切れたのか、すぐに赤い線が頬にまで延びていく。 「山城、謝りなさい…!」 嫌です。 あまり聞く機会の無い姉様の怒声に即答する。次いで何かを言おうとした姉様を、榛名が遮る。

2013-10-10 02:46:16
悪い男に騙されていた山城(完) @fd_yamasiro

「扶桑さん、いいんです。…山城、悪かったわ。ごめんなさい」 …。 気に入らない。 榛名の表情と声は微塵も怒りを湛えてなくて。 私の存在も今の出来事も、たいした事ではないと言うかのように涼しげで。 視線は砲身にじっと向けられていて、別の何かを考え込んでいる。

2013-10-10 02:52:46
悪い男に騙されていた山城(完) @fd_yamasiro

完全に蚊帳の外で事態を見守っていた工員達が徐々に動き出し、やれ薬だ包帯だと騒いで榛名を囲んでいく。 私は一人、その場に立ち尽くす。誰も近寄らない、声を掛けてこない。 人の隙間から感じる姉様の視線から顔を背けると、冷たいコンクリートの灰色の壁が見えた。

2013-10-10 02:59:35
悪い男に騙されていた山城(完) @fd_yamasiro

夕日に赤く染まっていく海はいつ見ても綺麗だわ。 360度どこを向いても海と空しかない甲鈑で、赤と紺とその狭間の紫とが描く大パノラマを見上げる。涼しく強い風に、戦闘で上気した体温と砲身の熱が心地よく冷めていく。 航行は概ね順調だった。二戦終えて尚、艦隊の被害は微少である。

2013-10-10 17:50:33
悪い男に騙されていた山城(完) @fd_yamasiro

間もなくこの幻想的な景色も夜の黒に包まれるが、それでも今回の作戦は終わらない。あと何度戦えばいいのかもわからないが、今しばらくは私達に休息が許されていた。 改になった私の身体も背中の新しい連装砲も調子が良く、この時間にしか味わえない静謐な空気と併せてとてもいい気分だった。

2013-10-10 17:59:13
悪い男に騙されていた山城(完) @fd_yamasiro

ただ一点を除いて、ではあるけども。 …。 目線だけを横に動かし、数メートルの距離だけを挟んで佇む榛名を見やる。何かするわけでも何か言うわけでもなく、包帯の巻かれた額を顔ごと上げて空を眺め続けていた。 目を逸らし、聞こえても別に構わない気持ちで嘆息する。反応は無い。

2013-10-10 18:05:10
悪い男に騙されていた山城(完) @fd_yamasiro

気まずい、という感情は無かった。ただなんとなくもう、どうでもいい。 わざわざ離れるのも馬鹿らしく感じ、無論の事こちらから話し掛ける気もさらさら無かった。 裏切られた、なんて思いは昨夜のほんの一瞬だけだった。そもそも何を信じたというのかも、今となっては私にはよくわからない。

2013-10-10 18:08:32
悪い男に騙されていた山城(完) @fd_yamasiro

朝の出来事以来姉様とも口を利いていなかった。 ちくりと胸が痛むが、目を瞑ってどこかに追いやる。姉様も姉様だ。昨夜の事といい、今朝の事といい。 何が正しいのか、何が間違っているのか。 誰を信じればいいのか、誰を敵にすればいいのか。 考えと感情が纏まらないので、放置するしかない。

2013-10-10 18:11:53
扶桑改二 @husou_kankore

@fd_yamasiro (山城も思うところは沢山あるでしょうし私も考えるべき事は山ほどある・・・でも今は眼前の戦いに集中しないと・・・)

2013-10-10 19:20:45
悪い男に騙されていた山城(完) @fd_yamasiro

もう彼しか頼れるのも信じれるのもいないんじゃないか。 世界はもうとっくに私を切り離していて、彼以外は全て敵なんじゃないだろうか。 酷く寂しいと思ったのはほんの一瞬で、すぐにそれでもいいかなと思い始める。 鎮守府も姉様も捨てて、彼とどこかで暮らすのが一番幸せなんじゃないか。

2013-10-10 18:16:01
悪い男に騙されていた山城(完) @fd_yamasiro

瞼を開けると、視界の隅に嫌でも風に揺れる榛名の長髪が映る。 日向を殺した。 そう言っていた。憎む理由としては充分過ぎる。腰の刀で刺してやると考えたのも一度や二度では無い。 その言葉を耳にしたのだって、榛名の事を怪しいと思っての行動の果てだったじゃないか。 けれど何故だろう。

2013-10-10 18:19:21
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