【twitter小説】氷のイコン#4【ファンタジー】
氷のダンジョンは暴走状態に陥っていた。天井の照明はチカチカと点滅し、小さなダンゴムシのような晶虫の幼虫が外から入り込んで壁や床に貼りついている。もはや内部に氷は無いが、まだダンジョンはひんやりとしていた。 118
2013-09-29 16:49:57もうすぐこのダンジョンは完全に化け物たちの巣になるだろう。半永久的に生成される魔力エネルギーに寄生するため、外の世界から様々な異形の生き物がやってくるのだ。それをはねのけるシステムはもう無い。 119
2013-09-29 16:56:26雪熊はしばらく放心状態でダンジョンの奥に座りこんでいた。綺麗に畳まれた主人の服はが目の前に置いてある。自分は何のために生きているのだろうか、目的も理由も失ってしまった。雪熊はほとんどダンジョンの支配力を失っていた。 120
2013-09-29 17:03:28大きく斬られた傷跡は残り、心の傷も果てしなく深い。だが、まだ死ぬ気にはなれなかった。不意に失われつつあるダンジョンの機能が彼に接近する人物の存在を告げた。それは二人の人間だった。それ以上は分からない。 121
2013-09-29 17:08:29二人の人間は入口までやってくると、すぐに引き返し始めた。何だったのだろうか、雪熊はようやくぼんやりとした思考の中から自分を拾い上げた。そして、ゆっくりと立ち上がった。大切そうに主人の服を抱え、荷物をまとめ始めた。 122
2013-09-29 17:15:03雪熊は我に返った。ここから出よう、そして旅に出よう。いまだ目的も理由も無い。ただ、ここでこのまま朽ち果てる気分ではなかった。背嚢に大切そうに服を入れて背負った。持ち物はほとんどない。精神生命体になった時にすべてのしがらみは捨てていた。 123
2013-09-29 17:29:12背嚢を背負った奇妙な雪熊は、ゆっくりとダンジョンを登る。奥で座り込んでいた時には気づかなかったが、ダンジョンの奇妙な生き物はそこらじゅうに寄生していた。もうすぐここも自然に還るだろう。そして有用な資源の元になるのだ。 124
2013-09-29 17:44:20ダンジョンの入り口からでると、眩しい太陽の光が彼の目を刺した。空は雲ひとつなく旅立つには最高の日よりだった。先程の二人は何をしに来たのだろう。雪熊は辺りを見回す。すると、すぐ二人の置いていった置きみやげに気付いた。 125
2013-09-29 17:52:49それは小さな手のひらサイズのキャンバスだった。写真立てに飾れるくらいのサイズだ。それには精密に絵が描かれていた。……もう見ることは無い、彼の主人の姿が描かれていたのだ。まるで生き写しのようにそっくりと。 126
2013-09-29 17:57:22雪熊はさっきの二人が誰だかわかった。そしてその絵を拾うと、背嚢に大切にしまった。大切な思い出になるだろう。記憶は無くなっていくものだが、絵の中に描かれた姿はそう簡単には消えてはいかない。雪熊は二人の心遣いに感謝した。 127
2013-09-29 18:01:36彼は歩き始めた。彼は、もう少し寒い所に行こうと思った。ささやかな理由だが、寒さは彼の故郷を思わせる。西か、北の極地には氷の大地があるという。そこを目指そう。ささやかな理由、ささやかな目的だが、彼の足を進ませるには十分だった。 128
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