ミューズ・イン・アウト

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「解ったわ、邪魔ってこと。すぐに籠るんでしょ?」マツモトが溜息をつき、食器を下げる。「感謝してるよ」ホンガンジがフスマを閉じて鍵を締める。「続いては、タマ・リバーに今年も現れた三匹のラッコについての微笑ましい続報ドスエ……」TVからは珍しく明るいニュースが流れていた。 23

2013-11-03 23:03:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「もう駄目かと思ってたわ」「ラッコチャンが生きてて良かった!」「タマ・リバーが、実はそんなに汚染されてないんだって事」…街頭インタビューの声。「絶対に開けないでくれよ」ホンガンジがフスマを開き、また閉じた。室内から大音量の音楽が漏れてくる。「解ってるわよ」マツモトが返した。 24

2013-11-03 23:12:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「まだファイル整理なんてしてたのかい、ハニー」「ごめんなさい。あと少しで終わるから」高層集合住宅の広い一室で、若い自我科医夫婦が語らう。「ヤブサメ運動シミュレータの調子が悪いんだ。ちょっと見てくれないか?」「UNIXの事はあなたの方が詳しいでしょ?」「あの機械は君の専門だ」 26

2013-11-03 23:19:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

広大なリビング。素晴らしい臨場感と運動量を得られる3D運動装置。「別に変じゃないわ」「ワイヤフレーム虚無僧を射ても反応しないんだ。実際やってみて」「いいわ。ほら、何も変じゃない……ちょっと!二人乗り……なんて……アイエエエエエ」「働き過ぎの罰だ」「嫌、そんな……怒るわよ!」 27

2013-11-03 23:27:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

KRAAAASH!不意にリビングのガラス窓が外側からの鎖鎌投擲によって割られ、LEDボンボリ灯にスリケンが突き刺さって火花を散らす!「何だ!?強盗か!?」男はカラテを構え、妻を守るように窓の側へと向かう。「まさか、ここは120階よ!?アイエエエエ!」女医が金切り声を上げる。 28

2013-11-03 23:36:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

明滅するLEDボンボリ。暗闇の中に飛び込む謎の人影がひとつ。「クソッ、何で警報が作動しない!」男が手動で警報UNIXボタンを押そうとするが、その指先は鋭利な刃物によって切り裂かれた。「アイエッ!?」ナムサン!警報制御板とスイッチは、すでにスリケンによって破壊されていたのだ! 29

2013-11-03 23:40:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

続けざま、闇の中でカマの刃が光った。恐るべきダブル鎖鎌の連続投擲!「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」男の首が切断され、女医の目の前に転がる!「アイエエエ!アイ!アイエエエエエ!」幸福に包まれていた家庭が、一瞬にしてジゴクに! 30

2013-11-03 23:43:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ひときわ大きくLEDボンボリが火花を散らし、書斎机へと後ずさっていった女医は侵入者の正体を知る。ニンジャ。ニンジャだ。まさか。ニンジャなど実在しない筈なのに。「夫を殺されるのは、どんな気分だ?」ニンジャが歩み寄り、闇の中で血に飢えた目を輝かせる。じゃらじゃらと鎖の音が鳴る。 31

2013-11-03 23:50:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「こ……来ないで!セプクするわよ!」女医は引き出しからデリンジャーを取り、こめかみに押し当てる。気丈なカチグミだ。「ところがそうもいかない」ニンジャの声には不気味なまでの冷静さと寂寥感があり、今しがた目前で展開された残虐カラテ行為との間に、猟奇的なコントラストを描き出す。 32

2013-11-03 23:56:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そうもいかないのさ」ニンジャは距離を詰める。女医が意を決して引き金を引こうとした瞬間、「イヤーッ!」目にも留まらぬ速さでスリケンが投げ放たれ、デリンジャーを彼女の華奢な右手から奪い取った。直後、彼女は羽交い締めにされている。「ンアーッ!」まさにベイビー・サブミッションだ。 33

2013-11-04 00:01:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……やがて、暗い室内に危険な吐息と押し殺した嬌声。「あなた……狂ってるわ……」「狂っていたらどんなに良かったか。俺をカウンセリングしてみろ」ニンジャは粗い獣じみた息を吐く。女医はファック&サヨナラの恐怖とこの男の放つ超自然的アトモスフィアの前に、精神を破壊されかけていた。 34

2013-11-04 00:12:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「俺の頭の中にミューズが降りてきた。彼女は暴虐的で血を求める。それと引き換えにイマジネーションをくれる」「ンアーッ……続けて……」「あるいは逆だったのかもしれない。彼女は俺のニューロンをファックして力を与えた代わりに、イマジネーションという奴を、根こそぎ食い荒らしちまった」 35

2013-11-04 00:16:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「富士山……鷹……ナスビ……死のシンボル…」NRSによる一時的狂気に陥った女医は、自らの心理状態とニンジャの異常性を、象徴心理学を駆使して理知的に説いた。ボンボリLEDの火花が、彼らの背徳的シルエットをショウジ戸に投射する。「彼女はどんどん貪欲になっていく。心配でならない」 36

2013-11-04 00:23:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ニンジャなのに……恐い?」「悪人を殺すだけじゃ満たされない。俺の想像力はいずれ枯渇する」苦悩に満ちた嘆息。「興味深いわ……私たちいい関係に」「知能指数の高い女を殺したくなったんだ。凄く興味があって。次の作品は凄いものになる」その声に邪悪な情熱を感じ取り、女医は戦慄した! 37

2013-11-04 00:29:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「作品……ですって……!?そんな……もしかして、あなた……アーッ!ンアアアアアーッ!」SPLATTTT!鎖鎌が閃き、女医は即死した。血飛沫がフスマを染める!サツバツ!「……ウハハハハハハハ!ウハハハハハハハハハハハ!」ニンジャは邪悪な高笑いとともに、身を仰け反らせて笑った。 38

2013-11-04 00:38:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「今年初の雪がネオサイタマに……」深夜TVでオイランキャスターが和やかに笑う。「シトネ出版からIRC、三作目の原稿の事……」マツモトが不安そうに言う。「大丈夫、あと少しだ。これさえ書き切れば、俺の名声は盤石……」ホンガンジがマツモトの握ったスシを淡々と咀嚼しながら返す。 40

2013-11-04 00:50:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「体、大丈夫……?もうずいぶん、外にも出てないでしょ」「ああ、合意するよ」「シトネ出版の人、ちょっと性急じゃない?話題性があるうちに書けってのは解るけど……このままじゃ、書き上げる前にカロウシするんじゃないの?」「ああ、合意するよ」ホンガンジはまた手帳に目を落とし、上の空。 41

2013-11-04 00:55:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

食卓の上に厳戒国境線めいて積まれた書物と資料の山。隙間越しに、マツモトは分厚い眼鏡をかけたホンガンジの険しい横顔を見た。物理距離は一年前から変わっていないのに、遥か地平の彼方へ行ってしまったようだ。「ねえ、同僚から聞いた都市伝説だけど、下水道に白いワニが群生してるんだって」 42

2013-11-04 01:02:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「全くおめでたいな」「想像力が豊かなのよ。以前は笑って話に付き合ってくれたのに。ねえ、心配してるの」「君の通帳に入ってるだろ、結構なカネが。温泉旅行にでも行って……」「ここは私の家よ?出てけっての?邪魔だから?」「待ってくれ、すまない。本当に感謝してるんだ。でも佳境で」 43

2013-11-04 01:07:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「これさえ書き上げれば、あとはもう……自動書記だって何だって、カネが入ってくる。そしたら全て終わりで……」「解ったわよ……」マツモトはホット・サケで酔いつぶれ、食卓に突っ伏して寝息を立て始める。「絶対に……俺の作業部屋に入らないでくれよ」「ええ……邪魔……しないわ……」 44

2013-11-04 01:10:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……「ハッ!」マツモトは食卓から身を起こし、己のウカツを悟る。食卓の上にはスシの皿が放置され、ショーユが床にこぼれている。ウシミツ・アワーを告げるTV番組。彼女は二時間ほど眠りこけた。立ち上がると、背中にフートンがかけられているのが解った。 46

2013-11-04 01:18:25