ストーリー第13回目　なにが“欲しいもの”たり得るか？

榎本憲男★『サイケデリック・マウンテン』絶賛発売中！！！ @chimumu

0.はーい、chimumuだよ。久しぶりに映画のストーリーについてつぶやくよ。ここから連投ツィートになりますので、最近フォローした人で「これはウザくてかなわん」と思う人はフォロー解除願います。

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1.今日は「主人公の“欲しいもの”はどんなものであるべきか？」についてつぶやく。ストーリーとは、主人公が“欲しいもの”を手に入れる旅である、と前に説明したね。これまでのつぶやきは、ここ。http://bit.ly/dwy7Ur

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2.主人公の“欲しいもの”はストーリーの中では通常二段階で考えると話がわかりやすくなる。“とりあえず欲しいもの”と“本当に欲しいもの”だ。

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3.“とりあえず欲しいもの”は手に入れられる可能性があるもの、“本当に欲しいもの”は心の奥底から欲しているものだ。宮台真司は、前者を期待水準、後者を願望水準と呼ぶ。＜“とりあえず欲しいもの”を求めながら、“本当に欲しいもの”を発見する＞　これがストーリーの基本形だ。

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4.では、ここからが問題だ。“本当に欲しいもの”とは何か？　現代において、映画の中で、何が“本当に欲しいもの”に値するのか？　これは大きな問題である。ここを僕は「“欲しいもの”問題」と呼んでいる。http://togetter.com/li/27357

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5.“本当に欲しいもの”は容易にはわからない。このことは、「社会調整」というものを考える際に“最大多数の最大幸福”から“最大多数の最小不幸”という考え方にシフトしていることにも現れている。幸福で考えると何が幸福なのかわからなくなるので、不幸を尺度にするという発想だ。

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6.“最大多数の最小不幸”という発想をストーリーに当てはめると“巻き込まれ型”になる。例えば＜間違えられて逮捕された男が無実を晴らそうと努力する＞こうするとドラマの骨格は明確だ。しかし、＜“本当に欲しいもの”を求めるドラマ＞はなかなかに難しい。

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7.昔は、“本当に欲しいもの”は“愛”と定めるのが定石だった。しかし、性愛という人間関係の中で“本当に欲しいもの”を想定するのが果たしてリアルなのかという問題が出てくる。

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8.恋愛の本質とは何かというと「入替不可能性」である。「お前じゃなきゃ駄目なんだ」という感覚である。しかし、現実生活の中で、多くのカップルを見てそのような人間関係は結ばれていると言えるか？　「たまたまお前」「たまさかに貴女」という関係がリアルに一般じゃないか。

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9.このように恋愛の本質的なイメージとリアルとの落差故に、恋愛観はズブズブになる。この「恋愛の液状化」の延長線上に、どこに葛藤があるのかわからない恋愛ドラマが生まれる。観客が泣くために人が死に、観客は「じゃあ、泣いとくか」てな感じで泣く。しかし、本当に満足しているのだろうか？

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10.「リアル」とか思わず書いてしまったが、映画というのは元々は嘘（illusion）である。リアルである必要は必ずしもない。しかし、ややこしいことに人間（観客）は嘘とリアルを同時に欲しがるものなのだ。嘘で語るリアルというものが映画だと思って欲しい。

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11.リアルであるかどうかは、人間関係だけでストーリーが構築されている「ドラマ」というジャンルで、問題になる。＊映画のジャンル論では「ドラマ」はジャンルかという問題があるのだが、ここではさて置くよ。

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12.リアルな世界では“本当に欲しいもの”を“絶対に手に入らないもの”にしている人もいる。真の恋人をアニメのキャラにしたり、アイドルとつきあえないのなら誰ともつきあわなくてもいいというような態度である。しかし、これでは物語は生まれない。主人公が旅に出ないからだ。

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13.逆に“本当に欲しいもの”を禁欲的に消去して“とりあえず欲しいもの”だけで生きようとする人もいる。手に入るものだけで満足する人はリアルな世界では謙虚でいい人（中には買い物中毒の人も）かも知れないが、物語の主人公にするのは難しい。

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14.さしたる事件が起こらない人間ドラマにおいては、この“本当に欲しいもの”を炙り出すことが非常に大事だと思うのだが、同時に非常に難しいことも確かだ。で、どうしたらいいかというと、僕には僕なりの意見があるが、それは書かない。各自考えて欲しい。

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15.ひとつ言っておくと、これに関してはシナリオの教科書を読んでも無駄だということだ。シナリオの教科書はどんな優れた本でも、今のところ非常に重要な２つの項目が落ちている。それは「世界観」と「“欲しいもの”問題」なんだ。

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16.これはシナリオの技術論というよりは、その外側にある問題（例えば倫理の）なんだ。特に若い人はこの問題について、いろんな本を読んで、いろんな会話を交わしてこの問題を掘り下げていった方がいいと思う。俺もそうしている。

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17.まずいと思うのは、この「“欲しいもの”問題」をムードの中でボカしてしまうことだ。映画の終盤で、主人公がトツトツと感動的（であるかのよう）なことを語り、一緒に音楽も泣く。しかし、きちんと台詞を聞いてみると「なんだその程度のことかよ」って思う事はありませんか？（僕はよくある）

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18.そこでは物語の形式（フォーマット）だけが残る。例えば、行きずりの男女の愛の逃避行というフォーマット、引きこもりの青年と彼を預かった頑固な祖父というフォーマット、売春している少女と彼女を好きになった童貞男というフォーマット、傷ついた女たちが集う憩いの場所というフォーマット。

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19.僕は映像学校でストーリーを教えている。フォーマットというのは非常に心強い存在だ。技術論でいけば、このフォーマットを体得させるのが教師の役割である。これまで僕がストーリーについて述べてきた事もいってみればストーリーの形式の話だった。そして生徒は形式に一応頼る。

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20.そこで質問をしてみる。「そもそもその主人公を作者であるお前は好きなのか」「お前はそのストーリーが好きなのか、好きな理由はなにか。そのストーリーの何を信じているのか」　とたんに生徒は大人しくなる。

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21.“本当に欲しいもの”が描かれているのか、損なわれてならない関係が描かれているか？　そういうことを念頭において映画を観ることも大事なんじゃなかろうか。シネフィルの映画批評がいきずまっているのも、この辺を棚の上にあげて映画を語りすぎだからかも知れない。

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22.実は、このつぶやきは自主映画を撮っている若い人にむかって呟いている。自主こそがこの問題に過激にアクセスするべきなのだ。うまく撮れれば、大手メジャーとはまったく様相が異なった傑作が生まれると思うからだ。そして、その時にここぞとばかりにフォーマットを使い倒せ、といいたいのだ。

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23.シナリオの技術はトレーニングすれば誰でもある程度マスターできる、ストーリーの本当の勝負どころは世界観である。世界観の後編については、機会を改めてつぶやくよー。

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24.はーい、今日はここまでだよー。ちょっとややこしかったね。俺ももうちょっと考えます。