SecretLover

橘志摩さんのついのべをまとめました
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橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

(1)世間はクリスマス一色。 イルミネーションで彩られた街は気のせいではなく浮かれているように見える。 いつもの私なら毎年のようにその景色に苛立っているんだろう。 だが。 今年は、待ち合わせ場所にと指定したその大きな時計の下で、緊張で逸る胸を抑えるようにぎゅっと握りしめていた。

2013-12-21 23:04:18
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

(2)まさか自分がそれを利用するとは思わなかった。 話には聞いていたけれど、そもそもたかが一日、それも数時間だけのそれに万を越える大金を散らすことがどうしても有意義なものには思えなかったのだ。 それが、何故。 自分でもよくわからない。 手を出したのはちょっとした好奇心、それと。

2013-12-21 23:09:59
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

(3)「――こんばんは、芽衣さん?」 「……っ?!」 かけられた声に勢いよく振り返った。 そこに立っていたのは事前に写真を見て知っていた顔の筈なのに、何故か全然違う人に見える。 だが、私の名前を呼んだと言うことはきっと彼がその人なんだろう。 「…はい…」 「よかった、当たってた」

2013-12-21 23:14:40
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

(4)彼は爽やかな、言うなれば人懐こい犬のような笑顔を浮かべてホッとしたように笑う。 それも仕事のうちなのだろうか、そうぼんやりと考えていると、彼が来ていたコートの襟を小さく整えて、姿勢を正した。 「――じゃあ、改めて。出張ホスト[Secretlover]瑞希です、よろしくね」

2013-12-21 23:19:16
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

(5)「出張ホスト」なんて、利用する気なんかなかった。 寧ろそんなモノと鼻で笑ってた。 それが、何故、よりにもよってこんな日に。 手を出したのはちょっとした好奇心、それと、29にもなって、一人で過ごすクリスマスが酷く寂しかったから。 握手を求めてきた彼の手をそっと握った。

2013-12-21 23:22:23
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

(6)「取り敢えず場所移動しよっか。今回初めての利用ってことで、初めの30分はシステムの説明とかあるし、俺の事も信用してもらわないといけないしね」 「あ、は、はい」 彼の笑顔は変わらず爽やかなままだ。 回りの人からは普通の恋人同士に見えるのだと思う。

2013-12-21 23:30:18
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

(7)「あ、ここにしよっか、全席個室だって。空いてるかなー」 握手の為に取った手はそのまま繋がれた。 大して歩きもせずに見つけた居酒屋に足を踏み入れて席に案内される。プロだからか、馴れているのか、恐らくその両方だろう。 席について注文を済ませてから始まった説明には淀みない。

2013-12-21 23:35:20
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

(8)「本番行為は絶対厳禁、それ以外だったらできうる限りご要望にはお答えします。あ、料金は前払いね、説明聞いて、やっぱり無理って思ったらキャンセル料として5千円払って遠慮なく断って」 「……はい……」 返事はするものの、心臓は先程からバクバクと鳴り響いていて、いっそ痛い。

2013-12-21 23:40:57
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

(9)気が付かれないように小さく深呼吸をすると、クスッと笑う声が聞こえて顔をあげた。 「緊張してる?」 「…あ、いや、…あの…」 「あぁそれが普通だし気にしないで。 芽衣ちゃんの今日のオーダーはデートエスコート付の8時間コースだったよね。どうする?」 笑顔で問われて言葉に詰まる。

2013-12-21 23:46:37
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

(10)彼は笑顔のままだ。 その笑顔に頬が火照る。膝に置いたままだった手が、この日の為に買ったその柔らかで可愛いデザインのスカートを握りしめた。 「――帰るなら、今。だけどもしこのまま、俺といていいと思うなら最高の夜にしてあげる。」 胸に期待が過る。だが少しの不安も一緒に沸いた。

2013-12-21 23:54:10
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

(11)「…あ、の…」 「ゆっくり考えていいよ、時間はまだあるし。取り敢えず今は乾杯でもしようか」 彼がビールの入ったそのグラスを手に取った。 その動作にほっとしてしまう。自分から予約したくせに土壇場で怖じ気づいてるなんて情けない、そうは思うものの、覚悟が揺らいでいるのが現実だ。

2013-12-21 23:57:34
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

(12)これもシステムのうちだからと、彼はHP上で掲載されていたプロフィールを私に告げた。 源氏名は「瑞季」、歳は35歳、趣味はドライブ、昼間の仕事は秘密。 ニコニコと、笑顔を絶えず浮かべたまま、落ち着いた語り口調でそう言って、彼は再びお酒を口に運んでいた。

2013-12-22 00:01:33
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

(13)私も自己紹介をした方がいいのか、そう思って尋ねると彼は首を振る。 「プライベートは原則聞かないことになってるの。話したくない事もあるでしょう?話したかったら話してくれてもいいけど、無理にとは言わない。名前は知ってるしね」 「…はあ…」 「芽依ちゃんの気が向いたら、ね」

2013-12-22 00:05:42
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

(14)そういうものなのか、彼の笑みをぼんやりと見つめながらそう思う。 初めてだからシステムイマイチよくわかってない。 彼も心得ているのか、その都度丁寧に説明してくれる。30分などあっという間だった。 彼に再び「どうしよっか」と声をかけられて何の為の時間だったかを漸く思い出した。

2013-12-22 00:10:30
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

(15)だけど、最初の頃の不安はそれほど大きくはない。むしろ彼と話した事でそれは小さくなっている。 語り口も優しいし、笑顔だって安心感がある。 何より、もう少し、後少し、この人と話してみたい。そう思っている自分がいることも確かで。 迷っている私の背中を押したのは、彼の言葉だった。

2013-12-22 00:13:53
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

(16)「もうちょっとだけ一緒にいたいっていうのでもかまわないよ、もしダメだったら一緒に話すだけでも全然平気。その場合の料金は変わらないのだけは了承してね」 「…私…」 「うん?」 ドキドキと心臓が鳴り響く。 声が震えないように小さく息を吐いてから、彼を見つめた。

2013-12-22 00:16:25
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

(17)「…私、…瑞希さんに、…瑞希さんと、一緒にいたい、です」 「…本当に?」 彼の瞳の色が、変わったような気がした。 だけどここで帰ろう、やっぱりやめよう、そんな迷いは一切生れず、私は彼のその瞳を見つめたまま、小さく頷いた。 「…おっけ、じゃあ今から俺は、芽衣ちゃんの彼氏ね」

2013-12-22 00:28:03
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

(18)「芽衣ちゃんはなんて呼ばれたい?芽衣の方がいい?それともこのまま芽衣ちゃんの方がいい?」 早々と居酒屋を出た彼に手を引かれて恋人達で溢れる道をすり抜けるようにして歩きながらそう問われて一瞬頭が混乱する。 呼び方なんて考える余裕、ない。 そう答えると彼が笑う。

2013-12-22 00:32:01
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

(19)恥ずかしかったが、それが事実だ。今の私に余裕なんてない。 結局呼び名は「芽衣ちゃん」で決まったらしい。 人の少なくなった道で隣に並ぶと彼に肩を抱き寄せられて心臓が跳ねた。 「緊張しないで、楽しんでよ。ね?」 「…そ、そんな事言われても…」 頬が赤くなっている自覚はある。

2013-12-22 00:34:45
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

(20)緊張するなと言われても、密着した体からじんわりと伝わってくる温もりに心臓が壊れたように早鐘を打っていた。 「せっかくお金払ってるんだし、楽しまなきゃもったいないと思わない?」 顔を覗き込まれて言葉に詰まる。確かに、お金は封筒に入れたまま、居酒屋を出る前に彼に支払っていた。

2013-12-22 00:39:52
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

(21)はたから見れば、虚しいだけの関係かもしれない。事実、私だって、馬鹿にしていたのだ。けれど今はもう私は彼との時間を買ったし、彼も買われている。 仕事だと、そうわかっている。 けれどその割り切りの上にこの関係が成立しているのだ、今ここで純情ぶったところで、そう頭を過ぎった。

2013-12-22 00:41:42
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

(22)自然と笑みがこぼれて、強ばっていた肩の力を抜いて、彼の身体に身を寄せる。 その人は戸惑うこともなく私の身体を支えてくれた。 「…そうですね、楽しまないと、もったいない」 「そうそう。そうやって、リラックスして楽しんで」 彼に笑顔をむけられて、私も笑みを返す。

2013-12-22 00:44:10
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

(23)肩を抱かれたまま再び夜の街へと足を踏み出した。 「そういえば、敬語。止めようか」 「え?」 「恋人同士なのに、敬語っていうのも変でしょ。使わなくていいよ」 彼が私より年上なのは間違いないし、なんとなく遠慮してしまう。 そんな私の気持ちを読み取ったのか、彼が苦笑して言った。

2013-12-22 00:46:46
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

(24)「ま、すぐには無理だろうから、ゆっくりね」 「…は…う、うん…」 ぽんぽんと頭を撫でられて、その感触に胸が鳴る。 食事は済ませた、時間はまだ始まったばかり。 行き先は聞いていないけれど、行く場所は決めているようだで、その足取りに迷いはない。 不思議な事に不安は消えていた。

2013-12-22 00:49:13
橘 志摩( ˙▿˙ )<ホンモノだよ! @gara_panda

(25)イルミネーションを見て、お店を冷やかして、開いている喫茶店で休憩して、それはまるで、本物の恋人同士のようで、繋いだ手の温もりが自分に馴染むのはあっという間だった。 私を知らない人だからこそ、いつもなら口に出せない我が儘を自然に言っていた自分に驚きはしたが、それが心地いい。

2013-12-22 01:09:01
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