魔法少女まどか☆マギカSS 『おいしんぼ』

食い物のことで喧嘩したマミあんを、お食事会で和解させようとする主演ほむらの変なSS。おおむね題名通りです。 ※即興で書いてるので一人称と三人称がgdgdです。ヤバイ!!
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GammaRay @sizuoka074

砂糖は幸せを運んでくれる。先程まではあんなにむくれていたマミでさえ、むっちりとしたゼリービーンズを噛みしめながら、ほんわかとした笑みを浮かべ、さやかやまどかと談笑していた。「次はちょっと塩気を取ろっか」ぱたぱたと茶棚に駆け寄って、まどかが別のお菓子を取ってきた。

2014-04-12 22:43:04
GammaRay @sizuoka074

「商店街のくじで当たって、食べきれなかった残り物だけど……」窓から差し込む光を鈍く反射してるのは、やはり駄菓子のうんまい棒だ。メンタイ味にチーズにコンポタ、少し珍しいタコヤキ味。「あら、私コンポタ大好きなの!」「なぎさの好きなチーズもあります!」「たこ焼き味の固さはいいよねえ!」

2014-04-12 22:48:20
GammaRay @sizuoka074

私もたこ焼き味を一本手に取り、かなり強めに歯を立てる。普段口にする物の中ではかなり固いほうにある、独特な感触が顎に伝わる。味は……まあソースの味だ。たこ焼きというには怪しいが、甘じょっぱいソースの風味がスナックの香ばしさと相まって、なんともいえないおいしさがある。

2014-04-12 22:50:30
GammaRay @sizuoka074

「杏子ちゃんは何が好きなの?」「……コンポタ」まどかが人なつっこい笑みを浮かべて尋ねると、杏子はその日初めて喋った。マミが僅かに眉を動かし、目の端で確かに杏子を捉える。杏子は相変わらずの表情だった。なにか言いたげにしてるのに、それを押さえ込むような顔。少し、胸が辛かった。

2014-04-12 22:53:22
GammaRay @sizuoka074

「それじゃあお料理を出す前に箸休めを食べてください」最後にまどかが取り出したのは、チューインガムほどの赤い小箱。都こんぶだ。「あ、あたしこれ好きなんだよねー」ぱっとさやかがすぐに手に取り、あっという間に封を開ける。

2014-04-12 22:56:37
GammaRay @sizuoka074

「箸休めに酢の物を出すなんて、鹿目さんも上品ね」「うう……なぎさはすっぱいものが苦手なのです」「こら、ベベちゃん。お酢は体にすごいいいのよ」「うう…わかったのです」粉末のまぶされた昆布を口に入れると、たちまち唾液が湧いてくる。得意な味ではなかったが、たまに食べるとなかなか美味だ。

2014-04-12 22:59:04
GammaRay @sizuoka074

前菜らしき物を一通り食べ、カップを盆に重ねていると、いよいよまどかが席を立ち、私にも起立を促してきた。「それじゃあ今日のメインディッシュを食べる前に、ご飯を作ってくれたほむらちゃんに一言挨拶をしてもらいます」「どうも、暁美ほむらです」私は起立し、礼をした。挨拶は大事だ。

2014-04-12 23:06:38
GammaRay @sizuoka074

「今日私が作ったのは、戦うみんなのための食事です」リビングを見渡し、マミと、杏子の二人を見つめる。「魔法少女として契約し、魔獣と戦うことを義務とする私達には、時に大きな試練に耐える力や、支えが必要になる。これから出す物を召し上がってもらえば、その支えをきっと思い出せるはず」

2014-04-12 23:11:53
GammaRay @sizuoka074

「それでは拙い物ですが、楽しんでいただけたら幸いです」再び一礼して着席すると、クララ達がトレイを持ち、リビングに次々と駆け込んで来た。トレイには銀のクロシュがかけられ、肝心の料理は誰にも見えない。「あ、なにこれ。すっごく美味しそうなお肉の匂い……」「たまらないのですう……」

2014-04-12 23:16:09
GammaRay @sizuoka074

「この匂いは……」「どうぞ召し上がってください。これが、ある魔法少女の求めた愛情、彼女が支えを思い出すためにどうしても必要なもの。――スパムご飯です」クロシュが一斉に取られると、濃厚な肉の匂いがリビングいっぱいに放たれた。

2014-04-12 23:19:04
GammaRay @sizuoka074

質素な白い皿に盛られた、ごく薄切りのランチョンミート。脇には炒めた玉ねぎともやしが添えられ、隣の小鉢にはウサギの林檎。椀には銀シャリが一杯盛られ、ほかほかと湯気を立てている。「これが戦うためのご飯なのです!?」「に、肉の厚さが一ミリしかない!?」さやかとなぎさは驚愕していた。

2014-04-12 23:23:51
GammaRay @sizuoka074

「暁美さん!これはどういうことなの!」予想通り、マミががなり立ててきた。「お食事会って聞いて来たら、こんなものを私に出して!いくらあなたが佐倉さんと親しくっても、黙っていられないことがあるわよ!」「マ、マミさん少し落ち着いて!」「私を馬鹿にするためにここに呼んだの!?」

2014-04-12 23:27:11
GammaRay @sizuoka074

「鹿目さん、悪いけど私は帰らせてもら」「ほ、ほむらちゃん」激昂し、席を立とうとするマミと、それを必死で止めようとするさやか。まどかが顔を真っ青にし、私の顔を覗き込んだその時、「父よ、あなたのいつくしみに感謝してこの食事をいただきます。アーメン」杏子が十字を切って、食事を始めた。

2014-04-12 23:31:31
GammaRay @sizuoka074

誰もがその光景に目を奪われていた。あの杏子が馬鹿丁寧に祈りを捧げ、黙々と料理を口にしている。恐らく彼女のこんな姿を目にしたことがあるのは、私かまどかぐらいだろう。杏子はハムのように薄いスパムを箸で行儀良く摘み取り、一口一口を噛みしめながら、ゆっくりと食事を味わっていた。

2014-04-12 23:34:17
GammaRay @sizuoka074

「あ、これ……麦ご飯じゃない?」「うう……味が薄いのです……」杏子に自然と倣う形で、さやかとなぎさも手を付け始めた。ライスは確かに麦飯だ。やや香ばしく感じるとはいえ、米のような甘みは薄く、食感もややばさばさしている。肉は薄く、味は薄い。

2014-04-12 23:36:26
GammaRay @sizuoka074

もやしと玉ねぎにも歯ごたえが無く、新鮮でないのは明らかだった。だが杏子は一言の文句も漏らさず、何度も何度も食事を噛みしめ、不意にほろりと涙を流し、それでも箸は止めようとしない。「佐倉さん……」マミはうろたえ、言葉を探した。その質素な食事を前に、ついに真実に辿り着いたのだ。

2014-04-12 23:39:29
GammaRay @sizuoka074

「緑茶は文字通りの二番煎じです。また、食前に食べていただいた全てのお菓子も、風見野のスーパーでは全て格安で買える物を要しました」「え、ちょ、ちょっと。なんでそこまでして安い物をあたしらに?」私はマミの目を見て言った。「困窮した杏子の親には、それしか買うことが出来なかったの」

2014-04-12 23:50:37
GammaRay @sizuoka074

「……ッ!」マミがうつむき、息を呑む。「この食事は昔、杏子の家が貧しかった頃、なけなしのお金をはたいておじさまとおばさまが用意した、佐倉家一番のごちそうなのよ」「……そうだったのですか」「ごちそうさま」杏子は一人食事を食べ終え、また十字を切って茶を口にした。涙の後が痛々しかった。

2014-04-12 23:56:18
GammaRay @sizuoka074

「美味しくもない。栄養だって偏っている。だけど杏子にとってこのメニューは替える物のない真のごちそう。両親への愛を思い出せる、心の支えになる物なのよ」そこまで私が言い終えると、マミはうつむき、泣き出した。自己嫌悪によるものだろう。

2014-04-13 00:04:22
GammaRay @sizuoka074

自分の料理をないがしろにされたと感じるマミが杏子にどんな言葉を掛けたのか、私は安易に想像できた。責めることもできただろう。だが、彼女の啜り泣きの中に混じる謝罪の言葉を撥ねつけることができるのは、マミと直にぶつかり合った杏子以外には許されないのだ。

2014-04-13 00:07:48
GammaRay @sizuoka074

「マミ」杏子は湯飲みをテーブルに置き、マミの肩に手をやった。「悪ぃ。こういう貧乏話とか、あんたにするのも恥ずかしくってさ」「佐倉さん……」「ホントにごめん。ちゃんとあんたに言うべきだったよ」二人は互いに固く抱き合うと、はらはら涙を流し始めた。

2014-04-13 00:10:59
GammaRay @sizuoka074

今、二人は自らの犯した間違いを、自らの過去を見つめているのだ。同じ方を向いている。なにも心配はいらないだろう。(行きましょうか。私達はもうお邪魔だわ)(賛成)(さんせー)(賛成なのです)小声で頷き、それぞれの盆を持って廊下に出ていく。

2014-04-13 00:19:17
GammaRay @sizuoka074

部屋の中からは、二人のひそひそ話が聞こえる。まったく、こっちはいい被害者だった。人の家に食事に言うのは野暮だが、このスパム飯はホントにまずい。「それにしてもまずいよねえ」スパムをつついてさやかが笑った。私も同意し、肩をすくめた。「犬も食わないとはああいうものよね」 〈了〉

2014-04-13 00:22:34