ゴールドラッシュ・オブ・ザ・デッド #11
……六人の分身体が瞬殺された。ただただ圧倒的だった。 「ば、バケモンだ……こいつぁ正真正銘のバケモンだ。情けねえ話だが、アタシは震えが止まらねえ……っ。逃げ出せるなら今すぐこの場から逃げ出したい。それほどの恐怖が全身を支配しちまってる……っ」 1
2014-04-16 18:58:07「分かってはいましたけど、まさかここまで圧倒的だなんて……っ。秘装銃士のあたしですら、これほどの絶望を味わったことはありません……っ」 2
2014-04-16 19:00:01「さて、忍者。もう終わりかね? まだ足掻きたいなら好きにして構わんよ。ほら、君たち忍者には最終奥義があるだろう? 時空を超えた召喚術……なんと言ったか。そう、『口寄せノ新薩界』だ。あれを試してみたらどうかね?」 3
2014-04-16 19:01:42「ずいぶんと忍者について詳しいんだな、腐れ野郎……っ」 そう、黄金郷の忍者たちには奥の手が存在する。それが最終奥義、口寄せノ新薩界だ。 4
2014-04-16 19:03:01その極意は『自らの血統が持ち得た究極の力を、時空を超えて口寄せする』というものだ。たとえば蛙使いの血統を持つ忍者は、口寄せノ新薩界を使うことで『かつて開祖が使役した伝説級の巨大な蛙』を口寄せしたりする。 5
2014-04-16 19:03:38ただの口寄せは空間を超えるが、口寄せノ新薩界は時すら超えて究極の力を呼び寄せる。まさしく最終奥義に相応しい忍法だ。 だがしかし、ウィルの血統は開拓者だ。 忍者の先祖を持たないウィルには、最終奥義は会得出来ない。ビチャモンテンや桜火からはそう教えられた。 6
2014-04-16 19:05:50「だからって、諦めてたまるかッ!」 カッとウィルは両目を見開いた。忍力はすでに尽きかけている。だがここで敗けるわけにはいかない。村のみんなの仇をとり、この街の人々を救うため、ウィルは忍力を振り絞る! 「忍法、爆縮轟炎超乱舞の術――ッ!」 7
2014-04-16 19:07:23それは現在ウィルが撃てる最大火力の忍法だった。大砲のような火柱が生まれ、大ガレス卿へと発射される。それは紅蓮の如き、熱! 熱! 灼熱! 「――星の精霊ブラッドフォードの失墜。砕け、万物を」 8
2014-04-16 19:09:19キラッと夜空で何かが輝いた。そして猛スピードで突っ込んでくる。超低空飛行、ほとんど大地と水平に飛来したのは――流れ星だ! 9
2014-04-16 19:09:41大ガレス卿の横を通り抜け、火柱と衝突する流れ星。そのパワーはウィルの忍法を超えていた。ゴォッ! と輝きを増す流れ星。闇を割いて進む流れ星。炎を物ともせずに突き進む流れ星。勢いは止まらない! 横にいたケヴィンが絶叫。 「ダメだぁぁぁっ、止まらねえ! 流れ星、強い!」 10
2014-04-16 19:10:51火柱が爆散した。流れ星がウィルへと直撃! 「ぐああああああ――っ!」 「だ、旦那ぁぁぁっ!」 衝撃波が幾多の屋根を吹き飛ばし、煉瓦の舗装を蹴散らした。 11
2014-04-16 19:11:51空へとかち上げられたウィルは放物線を描き、舞い散る木の葉のように地面へ激突。 「他愛もない。忍者如きがゾンビに歯向かうのが間違いなのだ」 十年の修行のすべてが破られた。ウィルの完全なる敗北だった。 12
2014-04-16 19:13:18「う、嘘だろ、そんな……っ、旦那が敗けちまうなんてありえねえ!」 「ケヴィン、どいて下さい!」 決着がついた瞬間、ソフィアは唇を噛んで駆け出した。 13
2014-04-16 19:13:54絶望しているケヴィンの横を抜け、弾薬帯からありったけの黄金の銃弾を掴み、大ガレス卿へと投げつける。 「目つぶしのつもりかね? では炎の精霊アルデンのいか――、ぬ!? これはっ!」 14
2014-04-16 19:15:16続けて撃った射撃によって、黄金の銃弾が連鎖的に爆発した。巻き起こった黄金の炎は精霊術を打ち消し、大ガレス卿の服の裾を焦がした。黄金の銃弾は精霊術も無効化するのだ。二度目はないだろうが、目くらまし程度にはなった。 15
2014-04-16 19:17:04「今のうちにウィルのところへいきますよ!」 「お、おう! がってんだ!」 二人は馬小屋の屋根から飛び降りる。山のように積まれた藁に着地し、ウィルのもとへ。 16
2014-04-16 19:20:17陥没した地面の上で、ウィルはなんとか立ち上がろうとしていた。だがガクガクと腕が痙攣し、まったく力が入らない。そこにケヴィンとソフィアが駆け寄ってきた。 17
2014-04-16 19:21:00「大丈夫かい、旦那!? ちくしょう、あのゾンビ野郎め!」 「あたしがなんとか時間を稼ぎます! その間に二人は少しでも遠くへ……っ」 ソフィアがコルトSAAを構えて空を見上げる。ウィルは堪らず叫んだ。 18
2014-04-16 19:21:30「ダメだ、ソフィア……っ。俺がなんとかするから、ケヴィンと一緒に逃げてくれ! 君じゃあいつの相手は無理だ……っ」 「そんなの分かってます! それでも今あなたを失うわけにはいかないんです!」 19
2014-04-16 19:23:03バサァと純白の羽が辺りに舞う。翼を広げ、大ガレス卿が舞い降りる。 「作戦会議は済んだかね? ではその忍者を断罪させてもらおう。開拓者諸君はゾンビにしてあげるが、忍者は断固抹殺だ」 20
2014-04-16 19:24:13その足元にはライフルバッグが落ちていた。吹っ飛ばされた時に落ちたらしい。大ガレス卿は「ふむ」と言って無造作にそれを踏み潰した。ベキンッ! と刃の折れた音がする。 21
2014-04-16 19:25:45「……っ!? ウィルの黄金の刃が……っ!」 シュウとかすかな光が漏れ出し、ライフルバッグが萎んだ。なかの黄金の刃が消滅したのだ。 「さて、これでもう力の供給は出来んな? 忍者よ」 22
2014-04-16 19:26:47六枚の翼が羽ばたき、烈風が荒れ狂う。真っ白なその右手をゴキッと鳴らし、最強最古の一角が近づいてくる。呼吸が止まりそうなほどの重圧感。 「お、おおい、どうすんだ秘装銃士!? く、くる! きちまうぞ!? アタシはもう失禁寸前だぞぉぉぉっ!」 23
2014-04-16 19:30:43ケヴィンの悲鳴がストリートに木霊し、大ガレス卿の翼がゴォッと強烈な輝きを見せる。出現するは、太陽と見間違わんばかりの巨大な火球。 24
2014-04-16 19:31:28