ゴールドラッシュ・オブ・ザ・デッド #05

ゴールドラッシュ・オブ・ザ・デッド @GR_o_t_D

【ゴールドラッシュ・オブ・ザ・デッド】♯05

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リコリスにだけは真っ直ぐ幸せになってほしい。だから、どうか――。 「なあ、生きててくれよ……ッ」 祈るようにケヴィンは叫んだ。目の前でゆっくりと鉄の扉が倒れ、武器庫の様子が見えてくる。そこには――。 「姉さん……っ！」 「リコリス……っ！」　1

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最愛の弟がいた。胸に飛び込んできた弟をケヴィンは力いっぱい抱き締める。 　2

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「リコリス、お前無事だったんだな!?　ちゃんと人間だろうな!?　ゾンビになんてなってないよな!?　服脱げ、見せてみろ。腐ってないな？　ちゃんと綺麗な肌だな？　ちくしょう、心配させやがって……大好きだコノヤローっ！」　3

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「やだ、姉さんくすぐったいよ……っ。大丈夫、ちゃんと僕だから。姉さんがきっと助けにきてくれるって、僕、信じてた」 「よしよしよしっ、お前は良い子だ！　他の奴らはどうした？　ジャックにショーン、エイリーンやアデラも一緒だったろ？」　4

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「あ、みんなは……」 ふいにリコリスの目じりに涙が浮かんだ。顔を伏せて絞り出すように言う。 「みんなは僕を武器庫に匿うためにゾンビたちに向かっていったんだ……っ」 「なんだって……っ!?」　5

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「みんなが言ってたよ……お頭には一生掛かっても返し切れない恩がある。自分たちを見捨てないでくれたのは、お頭だけだ。だから今この命を使うんだ、って……みんな、僕のために……何にも出来ない僕なんかを助けるために……っ」 「もういい！　何も言うな、リコリス！」　6

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　ケヴィンは溢れそうになる涙を必死に堪えた。 「なあ、秘装銃士……聞いてたか？　聞いててくれたか？　アタシの仲間は最高のバカヤロウ共だったろ？」 「……ええ、あたしの騎兵隊に勝るとも劣らない見事な絆です。感服しました」　7

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まるでガラス細工を扱うように、ケヴィンは弟の頭を撫でる。 「外に出たら大好きなミートパイを山ほど食わしてやるからな。一緒にここを出て、姉弟二人でやり直しだ。お前を守ってくれたバカヤロウ共の分まで……精一杯生きよう」　8

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「うん。姉さんが一緒なら、僕は――」 姉の言葉に頷こうとしたリコリスの――その表情がふいに凍った。その視線はみなの背後。反射的にケヴィンが振り返るのと、負の叫びが木霊したのは同時だった。　9

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「ポルギュァァァァァァァッ！　人がいる人がいる人がいるぞぉぉっ！　聞いて下さい、淋しい淋しい淋しい私は淋しいのですぅ！」 通路の奥からフライングデッドが飛んできた――っ！ 「秘装じゅ――」 「すでに捕捉済みです！」　10

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猛るコルトＳＡＡ。マズルフラッシュが閃き、黄金の炎がゾンビ共を焼き払う。 「走って！　ここはあたしが食い止めます！」 ケヴィンはリコリスを背負おうと膝をつき、だがそこで――ぴたりと動きを止めた。　11

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「う……っ」 目の前の窓、そこにべったりとゾンビ共が張りついていた。無数の赤い瞳が一斉にぎょろりとこっちを見る。 「うわぁぁぁぁっ!?」 悲鳴と共にケヴィンはスタールを抜く。同時、窓をぶち破ってくるゾンビ共。　12

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「下さい下さい下さい下さい下さい、その娘さんを僕に下さいぃ、ギュリィィッ！」 ケヴィンの銃弾はゾンビの身体に穴を開ける。だが効かない、止まらない。 「姉さん、危ないっ！」 リコリスがケヴィンを突き飛ばした。その背中に……ゾンビの牙が深々と突き刺さる。　13

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ケヴィンの瞳が絶望に見開かれた。 「いやぁぁぁぁっ、リコリス――っ！」 こちらに気づいた秘装銃士がゾンビを撃ち殺した。けれどもう遅い。 リコリスは噛まれてしまった。　14

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ゆっくりと倒れていくリコリス。ケヴィンは震える手で抱き留める。 「ごめん、姉さん……噛まれちゃった」 「馬鹿野郎！　お前がアタシを庇ってどうするんだよ!?　お前を守るのはアタシの役目なんだ！　それなのに、それなのに、この……ッ、大馬鹿野郎ッ！」　15

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リコリスの背中がポォと光った。そして始まる身体の腐食。背にまわしていた手にべちゃりと体液の感触がきた。哀しみとやるせなさ、そしてどうしようもない生理的嫌悪感がケヴィンの胸を締めつける。 「姉さん、お願いがあるんだ……」　16

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「分かった、ここから出たらなんでも聞いてやる！　だから今は脱出するぞ！」 「……銃を貸して。フライングデッドになる前に、自分の手でケジメをつけなきゃ……」 「……っ、何言ってんだ馬鹿野郎、そんなことさせられるかよ……っ！」　17

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ケヴィンは首を振る。もう涙は止まらなかった。弟は静かに笑った。　18

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「......フライングデッドになった人はさ、最初に自分の身内を襲う習性があるんだって。僕を逃がしてくれたみんなもそうだった……お願い、このままフライングデッドになって姉さんを襲ったりしたら、あの世でみんなに顔向け出来ないよ」　19

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「ダメだ、絶対嫌だ……ッ」 「ねえ、お願いだよ。これが……人生最後のお願いだから」 本当は分かっていた。人としての尊厳を守ってやるには、もうそうするしかないことを。 「うぅ、ちくしょう……ッ」　20

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震える手でスタールをリコリスの胸に押し当てる。 「……分かったよ。でもお前を守ってやるのはアタシの役目だ。可愛い弟の尊厳はアタシがきっちり守ってやる。……安心しろ、姉ちゃんがちゃんと人間として殺してやるから」　21

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すでにリコリスの両手は腐り果ててしまっている。銃なんて握れる状態じゃなかった。 心底申し訳なさそうに目を伏せた後、弟は静かに頷いた。 「……うん、助かる」　22

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トリガーに掛けた指が震える。涙がぼろぼろこぼれて止まらない。勇気を振り絞るためにケヴィンは叫んだ。　23

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「アタシはっ、撃たねばならないッ！　本当に大切なものを守るため、この手でッ、自分の意志でッ、大事な弟を失わなくてはならない！　アタシはそれが出来るやつだ！　ケヴィン・シンカーはいざという時やれる女だッ！　アタシは知ってるぞ、アタシはそういう頑張れる子だ――ッ！」　24