ゴールドラッシュ・オブ・ザ・デッド #01
かつてコロンブス船長が新大陸を発見してから幾年月。 時は西部開拓時代、まさしくゴールドラッシュのど真ん中。 誰もが黄金という夢を追い求め、荒野を自由に駆ける華々しい時代――のはずだった。 開拓者たちは今、窮地に立たされている。 1
2014-03-24 19:05:27荒野に出現した、ある天敵によってだ。 奴らは人々を襲い、黄金を求め、そして――空を飛ぶ。 誰かが言った、「死体が襲ってきた! ゾンビだ!」。 誰かが言った、「ゾンビが飛んだ! 空飛ぶゾンビだ!」。 開拓者たちはその天敵をこう呼んだ。『空飛ぶ死体』――フライングデッドと。 2
2014-03-24 19:06:01いくつもの開拓村が潰された。 突如、空から降り注ぐ数百数千のゾンビ共。それを防ぐ手段はない。 デタラメな天敵を斃す、荒野の救世主――そんな存在は、まだどこにもにいなかった。 3
2014-03-24 19:06:28七歳のウィルはその日、井戸の水汲みにいっていた。 近所の遊び仲間と岩場へいき、そこに一つだけ掘られた井戸から水を汲んで村へ戻る。 ふいに空が陰ったのは、酒場の前まできた時だ。 4
2014-03-24 19:07:02コンドルならばすぐに通り過ぎるはず。しかし地面に落ちた影は動かない。それどころか影は瞬く間に増えていく。この時点で最悪の予感が脳裏をかすめた。空を見上げる。 無数のゾンビが空でにっこり笑ってた。 5
2014-03-24 19:07:38「う、うわぁぁぁぁぁ! きた、きた、フライングデッドがきたぁぁぁぁっ!」 バケツを放り出し、悲鳴を上げて逃げ出した。 一体いつの間に飛んできたのか、村の上空はゾンビの群れに覆われている。 急降下してくるゾンビ共。最初に喰われたのは雑貨屋のジミーだった。 6
2014-03-24 19:08:11「だずげで、ウィルぅぅぅぅ……ッ!」 「ジミーっ!? だ、誰かぁ! 誰か助けてぇ、ジミーが喰われてるよぉぉぉっ!」 もうその時には村中が蹂躙されていた。助けを呼んでも、当の大人たちもそこかしこで襲われている。 7
2014-03-24 19:08:45無残な肉塊に変わるジミー。だがすぐに傷口は塞がって……ジミーはゾンビとなって起き上る。 「ポルギュアァァァァッ! なんでなんで助けてくれなかったのウィルぅぅッ! 喰い千切んぞぉぉぉッ!」 腕の下に膜が張り、それを羽としてジミーは飛び立った。 8
2014-03-24 19:09:07村で一番の鈍足だったジミーは、今や風のような速度を手に入れた。 そして、トムが喰われた。メアリーが喰われた。次々にみんな餌食になっていく。次々にみんなゾンビになっていく。残ったのは……ウィルだけだった。 9
2014-03-24 19:09:41「オウ、マイゴッド! ああ、神様いるなら助けて下さい……っ! こんなクソったれなこと、あんまりだ……っ!」 命からがら平屋へ逃げ込み、鍵を掛けた。ウィルは膝を抱え込んで泣きじゃくる。 「誰か助けて……っ。父さん、母さん……っ」 10
2014-03-24 19:10:13きっと誰かがきてくれる。ウィルの父親は保安官だし、教会の牧師や学校の先生だって困ったときはいつも助けてくれていた。祈るように助けを待つ。でも誰もこなかった。 ふいに甲高い音が響いてきた。ウィルの両肩がビクッと震える。 11
2014-03-24 19:10:32「な、なんだ!? なんの音だこれ!? まるで砲弾でも飛んでくるみたいな音だ! 近い、どんどん近いづいてくる! まさか……っ!?」 次の瞬間、天井が吹き飛んだ。 ゾンビが空から突撃してきたのだ。 瓦礫でもみくちゃにされながら、ウィルは己の浅はかさを悟った。 12
2014-03-24 19:11:10上空何百メートルからの突進はゾンビに砲弾に変える。籠城などまったくの無意味だった。「はは、ちくしょう……」乾いた声が洩れた。 ゾンビ共は優雅に頭上を旋回している。 それは、村のみんなだった。 家族同然だった村のみんなも、ゾンビになったらこの有様だ。 13
2014-03-24 19:11:41――ああ、そっか。誰も助けてなんてくれないんだ。 「「「ポルギャャアアアアアア――ッ!」」」 そしてゾンビ共が一斉に急降下。奇怪な羽を大きく広げ、突っ込んでくる。 こっちの身体は満身創痍。指先一つ動かない。 14
2014-03-24 19:12:52……本当は分かってた。ゾンビ共が襲ってきたら、その時点で終わりなんだって。 奴らを斃せるような存在。颯爽とみんなを助けてくれる荒野の救世主。そんなものは、荒野のどこにもいないんだから。 「……でもっ、だったら! だからこそっ!」 15
2014-03-24 19:13:48叫ばずにはいられなかった。拳を握り締めて立ち上がる。 人間としての、開拓者としての、最後の意地だ。 16
2014-03-24 19:14:47「俺を甘く見るなよ、腐れ野郎共! たとえ全身嚙み砕かれても魂までは屈しない! 見ろ、固く握ったこの拳! 俺はお前らをぶん殴る! この命のすべてを懸けて、お前らを一発ぶん殴ってやんよぉぉぉぉぉッ!」 17
2014-03-24 19:15:17