ニチョーム・ウォー……ビギニング #3
「アカチャン!」「ジャイアントパンダすぐに来る!」「ライフサイクル!」広告音声の洪水がヤモトを呑み込む。丁度その時はスクランブル交差点の歩行者信号の変わり目、一斉に市民が横断を開始した。ヤモトは走りながら後方を振り返った。テネイシャスが来る。 40
2014-05-03 23:07:01ヤモトは歯を食いしばり、速度を上げた。「イヤーッ!」「アバーッ!」テネイシャスは最短距離で接近してくる。その背後に、切り裂かれて崩れ落ちる市民。雑踏はまだ何が起こったか把握しきらない。ヤモトはテナントビル脇の路地に飛び込んだ。背後、路地入口にオリガミが展開、風車の壁を作る。41
2014-05-03 23:14:49「イヤッ!イヤーッ!」テネイシャスは爪を振るい、風車機雷を裂断する。ヤモトは数十フィート先で再び風車機雷を張り、更に、それらを飛び越える放物線を描くように、トビウオ型オリガミを撃ち出す。テネイシャスはこの対空攻撃を予期しており、ウカツに風車をジャンプしようとはしないのだ。42
2014-05-03 23:20:02「イヤーッ!」ヤモトは路地を曲がり、別のディープエリアに入る。転がり込むようにバラック店舗へ入ると、金網の奥からレジ係の肥った青年が睨みつけた。「18歳未満禁止」「成人です」ヤモトは言い、裏口へ走り抜ける。「イヤーッ!」数秒後、テネイシャスがバラック店舗に飛び込む。 43
2014-05-03 23:25:59金網の奥からレジ係が睨みつけた。「武装者入店禁止」「下郎!」睨みながら言い捨てたテネイシャスの背中を見ながら、レジ係はしめやかに失禁した。「イヤーッ!」裏口フスマを破壊して飛び出したテネイシャスは、より狭い路地に己を見出す。「小娘……」左か。右か。ニンジャソウル感知。右だ。44
2014-05-03 23:32:09バラック店舗を左右に、テネイシャスは歩き進む。「……」異常痩身のニンジャは首を巡らし、「力」「傷」「殺」のノレンをくぐった。「今、客があったな?」先程のアブノーマル・ショップの三倍密度の金網で護られた刀剣店店主が瞬きした。「客……アイエエエ!ニンジャ!ニン……」「イヤーッ!」45
2014-05-03 23:43:16金網は横薙ぎ爪攻撃で切り裂かれ、店主の護りを一瞬にして剥がした。「……小娘だ」「アイエエエ……有り金はたいて、商品を。釣りは要らないと」店主は店の奥を指さした。「裏口へ、い」店主の顔に時間差で赤い水平線が三本生じ、「い、アバーッ!」一秒後、無惨にスライス!ナムアミダブツ!46
2014-05-03 23:50:32「シューッ」テネイシャスは昆虫めいた殺意に満ちた息を吐き、たったいま自らが生み出した惨劇空間を去った。曲がりくねった路地には光が殆ど届くことがない。もはや広告やグラフィティもなく、ただ不気味に有機的な配管パイプや苔のにおいがテネイシャスを取り囲む。……突き当り。行き止まりだ。47
2014-05-04 00:01:04「……」人ひとりが通れる程度の幅しかない路地の突き当り、テネイシャスが佇む、その20フィート上。両壁を伝う配管パイプをそれぞれの足で踏みしめたヤモトは真下のテネイシャスを見下ろした。その目に桜色の光が熾る。その手に握った店頭陳列の安い電磁鍛造カタナにも。 48
2014-05-04 00:09:48ヤモトは配管パイプから足をずらし……落下した。「イヤーッ!」高く狭く切り取られた空の下、桜色の軌跡が路地裏の闇を裂く!「イヤーッ!」テネイシャスは振り向きながらの爪斬撃!ぶつかり合い、火花散らす二つの鋼鉄!二者は斬撃に続く蹴りを互いに繰り出す!「「イヤーッ!」」49
2014-05-04 00:16:39そして斬撃!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」飛び離れ、間合いを取る!「シューッ」テネイシャスはヤモトを睨んだ。「市民の肉盾、ジツの壁でイクサ場を選んだか。なかなかの抜け目無さよ」腕をグルグルと回し、鎖分銅を巻きつける。この狭さでは役に立たぬからだ。50
2014-05-04 00:22:14「だが今のアンブッシュが破られた時点で、貴様は最大最後の好機を逃した事になる。待ち伏せなど織り込み済よ」「ここなら誰もいない」ヤモトは言った。カタナを振って後ろに構え、やや身を沈めた。テネイシャスも同様に爪のカラテを構える。左手の甲から補助的なブレードが飛び出した。 51
2014-05-04 00:29:41ヤモトの眼光が更に強まる。折られていないオリガミが上から遅れて降りてくる中、ヤモトが足先へ体重をかけ、ジリジリと前ににじった。二者の視線がぶつかり合い、互いの殺気によって練られた空気が歪んだ。……テネイシャスが地を蹴った! 52
2014-05-04 00:40:12ヤモトの血中ニンジャアドレナリンは、泥のように淀んだ主観時間をもたらす。まずテネイシャスの動きの軌跡イメージが描かれた。足先、目線、呼吸。散らしたオリガミを警戒しているがゆえに、攻撃パターンが限定される。ヤモトも地を蹴る。斬撃イメージをなぞり、テネイシャスの爪斬撃が迫る。 53
2014-05-04 00:46:39ヤモトは上体を反らし、爪斬撃に幾筋かの髪を切られながら、懐へ潜り込む。更に迫り来るは左手ブレード。ヤモトは身体を捻り、すでにイアイ斬撃を繰り出している。片手持ちだ。全身のバネで斬るのだ。カタナ持たぬ手はテネイシャスの左手を内から外へ押す。「「イヤーッ!」」ヤモトは倒れ込んだ。54
2014-05-04 00:53:32テネイシャスはたたらを踏んだ。ヤモトは地面を転がり、跳ねるように起き上がって、振り返り、ザンシンした。「俺に油断は無かった」テネイシャスは呟き、メンポ呼吸孔から血を零した。「ニチョーム・ヨージンボ、成る程」「お前たちには渡さない」ヤモトは言った。テネイシャスの身体が裂けた。55
2014-05-04 01:00:37「グワーッ!」テネイシャスの鮮血が高く噴いた。異常痩身のニンジャは引き裂かれた枯れ枝めいて身悶えした。ヤモトは繰り返した。「デッドフェニックス!ニチョームは渡さない!」「デッドフェニックスは不死だ。必ず生き残る。俺はただヤクザのミーミー(meme)に還るだけだ……サヨナラ!」56
2014-05-04 01:10:03テネイシャスは爆発四散した。舞い散るオリガミはテネイシャスの爆発に連鎖し、桜色のセンコ花火めいて炸裂した。ヤモトはまだザンシンしていた。彼女は気持ちの揺り戻しと戦った。懐へ倒れ込むように身体を回転させながらの、全身全霊のイアイ斬撃。勝てた。勝たなければ。ジュクレンシャにも。57
2014-05-04 01:16:50IRCノーティスがヤモトのザンシンを破る。ヤモトは急いでこれに応えた。「モシモシ、ザクロ=サン」「モシモシ、ヤモト=サン。状況は?」「撒いた……追ってきた奴は、倒した。今から帰る」路地を抜け出し、再び走りだしながら、敵のことをザクロに語ってきかせた。ザクロは驚きはしなかった。58
2014-05-04 01:24:58『特にヘンチマンとは昔の馴染みでね。アタシとは腐れ縁』とザクロ。『昔からしょうのない奴だったけど、デッドフェニックスの犬にだなんて、悪い冗談よね。奴ら、ニンジャを集めて、ニチョームにナメた真似して……』「あいつら、どうしてそんな事」『時代と、焦りよ。ヤモト=サン』 59
2014-05-04 01:33:28ザクロは言った。『奴らの気持ち、少しはわかる。でも、わかるからッて、呑まれる義理はないわ』「……ザクロ=サン」『何?』「アタイ、ドージョーでカラテをしながら、この前うまく言えなかった事、考えていた」『うまく言えなかった事?』「最適解のこと」前方にニチョームの境界が見えてくる。60
2014-05-04 01:39:56「アタイ、やっぱり嫌だ。ダメだと思う」『……』「ザクロ=サン。このままずっと我慢し続けて、あいつの言うなりになって、そうしたらきっといつか……思っているよりずっと早く、ニチョームは無くなるんだ!」『ヤモト=サン』「今回の事だって!アタイは」「ヤモト=サン」ザクロが立っていた。61
2014-05-04 01:46:16「怪我してるわね」ザクロはヤモトをハグした。「あのね、ヤモト=サン」「アタイは……」「ヤモト=サン!あのね!」ザクロは遮った。「アータが正しい。アタシだけよ。腹くくってなかったのは」ザクロはヤモトから離れ、その目をじっと見た。そして言った。「おいで、ヤモト=サン」 62
2014-05-04 01:49:22ザクロはヤモトを促し、人気のないニチョームを進んでゆく。「怪我、もう少し我慢してね。そこで診てもらえるから」「どこへ?」「粋桃」ザクロは閉館したバーの名を口にした。「粋桃?」ヤモトは聞き返した。「潰れて取り壊したんじゃ……」「カネがかかるから放ったらかし。それが好都合だった」63
2014-05-04 01:57:12実際ゴーストじみた赤レンガの建物へ二人は近づく。周囲を警戒した後、廃材が立てかけられたままの階段を上がり、決まった回数、ドアをノックすると、覗き穴が開いてじっと睨む目が現れ、それから開いた。キリシマはヤモトをじっと見て、顔をほころばせた。「……ッてなわけか」「てなわけよ」 64
2014-05-04 02:05:44