スマトラの記憶(短歌形式編) 1.JICAマラリア対策
教会と豚を追い抜き 赤茶けたモスクの村を過ぎる昼下がり ゴム林から油椰子林すり抜けて ココヤシ林にめざす村あり むらおさと挨拶かわし その足で 定点の池 めぐる 強き陽の下
2014-02-23 17:38:29噴く汗が乾きて塩となる顔で ぼうふら数えて池をめぐる 池めぐり 終えて まどろむ砂浜に 椰子の葉を抜けた風ゆるく吹く 弁当を右の手で食べ 談笑す 斜陽の下の海の香と音
2014-02-23 19:18:56日没にやや先駆けて準備する サンドバンクの家の中と外 夜の闇に 小さき悪魔 襲い来る マラリアの蚊 今夜は如何に 血を吸いに 肌に留まりし はまだら蚊 吸虫管で捕らえて数う
2014-02-24 11:27:47人一人何匹の蚊が襲うのか 二週に一度半夜調べる 人おとり非人道的な業なれど IPMに欠かせぬ手法 代替の手法はありや人おとり 難しけれど探すべき道 pic.twitter.com/vSdesqnWUt
2014-07-07 18:56:53ココヤシの葉陰に かすかな光うごく クナン・クナンと呼ばれる蛍 マングローブに蛍の集う木ありぬ 日中に見れど 他と変わらぬ木 ココヤシの葉陰の彼方 オリオン座 南十字をはるかに凌ぐ
2014-02-24 11:46:12コーランを習う夜の学校から 子どもたち帰りきて あたり賑やか コーランを唱えて競う夜の声 わずかにつなぐか ジャカルタへの径 夜の涼 自転車で水売る なりわいに 近くの泉に人かげ増える
2014-02-24 15:14:06夜間調査 秘かな楽しみ小休止 ライトを持って 林に踏み込む たまさかに コブラ現る 里はやし キノコムシども 倒木にうごめく 電池式のブラックライトに飛び来る 羽音うれしきアトラスカブト
2014-02-24 20:01:06[スマトラ] 夜ふかし 海辺の村は冷たくて 湿気を含むフィールドノート 調査終え フィールドラボに戻る夜半 ヘッドライトに浮かぶ赤い目 小さきは猫の目ならん 闇のなか 大ききものは誰ぞ 赤い目
2014-03-12 21:32:48[スマトラ] 闇の中 いくつもの村 通り過ぎぬ 揺れるランクル 還りをいそげ 舗装路にでれば かすかに家灯り 人の行き来は 無かりしなれど 冷蔵庫にサンプルを入れ一息つく インドラプーラのフィールドラボよ
2014-03-12 21:56:59[スマトラ] 水浴びを終えて仲間と談笑す ビンタンビールは懐かしきかな 皿に入れスプーンで食べる即席めん スプルーミィの唐辛子あじ 屋根を打つ激しき音に 寝付かれず アルミの窓からスコールを見る
2014-03-21 20:06:11[スマトラ] コーランを唱える拡声器にとぎれがち 熱帯の朝のすがしき微睡み 村人の列に並びてラジオ体操 椰子の疎林に朝餉のけむり 校庭で遊ぶ子らに見送られ 再びめざすマラリアの村
2014-03-21 20:40:29[スマトラ] ラマダンのサーベイの日差し肌を突き 汗も乾きぬモスリムの友 昼食を隠して食らう我を見て キリスト教徒の友は微笑む 民族と宗教が絡まるスマトラは るつぼにあらずサラダボールか
2014-03-25 21:35:09[スマトラ] 二日目の午後にようやく完遂す 定点池のぼうふら調査 ココヤシの実生を植えし畝に沿い 潮汐利用の潅漑溝延びる 潅漑の溝の最奥に深みあり 潮が運びし魚を養う
2014-03-26 19:34:03[スマトラ] 潮汐と雨水利用の文化なり バンジャール人の創りしものぞ 海水と雨水の出会う汽水域 マラリアの蚊のぼうふら棲まう 柄杓にて掬いし水のぼうふらを 数え数えてふたとせ過ぎぬ
2014-03-26 19:46:04[スマトラ] にぎやかな子らに囲まれ水掬う 小学校の教師も我ら見守る マラリアに倒れし乳飲み子のあるを知る 誕生の祝い渡せし子なりき 健やかに遊べる子らを見やりつつ 心に強く思うことあり
2014-04-05 21:56:42[スマトラ] 見渡せば干潟の彼方住まいあり マラッカ浅海の水上家屋 潟におり貝採る老女一人いて 昼下がりの海は波音もせず 静寂を破りしものは人の声 水鳥の群れ飛び立ち移る 刃物持ち男を追うは妻ならん 浜の一つ家 浮気の果てか
2014-04-06 21:44:49[スマトラ] サーベイで渇きしのどにしみいるは 村人にもらうココナツの水 ココナツの至近落下で ランクルのボンネットへこむ 夜のサーベイ ココナツの軸をかじりて落とせしは 熊鼠ならん姿は見えねど ココナツの直撃におびえ 林内を歩く速度おのずと早まる
2014-04-07 22:52:58