ウィアード・ワンダラー・アンド・ワイアード・ウィッチ #3

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゴゴゴゴゴ……武骨な昇降リフトが地下の足場をノックして揺れる。トミーガンを持った見張りギャングが出迎える。ジェノサイドとホリイ、そして車椅子のGNマサルVIは、広大なロービットマインの最上層に降り立った。「認証ゲートがあります」車椅子ギャングが先行し、LAN直結で解除した。 44

2014-08-12 01:36:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ……」ゲートの先には、一輪車を押しながら、ライト付ヘルメットの労働者たちが坑道や危険な崖の足場を行き交うのが見える。認証ゲートをくぐる時、ホリイは一瞬どきりとした。それはハイデッカー検問所と同型の……オナタカミ社製の市民管理ゲートだったからだ。 45

2014-08-12 01:43:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

市民データが連携しているかどうかは解らないが、幸い、ゲート機能はGNマサルVIが一時的に解除した。ジェノサイドが引っ掛かりでもしたら、何が起こるかわからないからだ。三人はゲートを抜け、安全な監視用の足場を進んだ。途中で、突然ジェノサイドが立ち止まった。……“停止”したのだ。 46

2014-08-12 01:48:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ウワーッ!」崖では過剰労働疲弊したUNIX採掘労働者が、足を滑らせ暗黒へ落下していった。「ねえ、どうしたの」打ち合わせの通り、ホリイは腐臭を放つジェノサイドの首に横からすがりつき、背伸びして耳元で問うた。返事は無い。だが、相手が何か喋っているのを聞くように、彼女は頷いた。 47

2014-08-12 01:52:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何か問題でも」GNマサルVIが振り返り、サイバー車椅子を巧みに操作しながら戻ってきた。ホリイは相手に見せつけるように、ジェノサイドの横で数度頷き、それから手を振った。緊張で声が震えぬよう、直結したサイバーサングラスで答えた。「もう飽きたから、お前たちだけで行ってこいって」 48

2014-08-12 01:58:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヨロコンデー!」ギャングはジェノサイドの重圧から解放され、晴れやかな気持ちで暗黒採掘施設を案内した。坑道、Y2K地殻変動で刻まれた断層、それに渡されたバンブー足場、タタミ敷きのハンダ溶接所、そこかしこで蠢くマグロ目の人々。幼いホリイが見た希望の光は微塵も残っていなかった。 49

2014-08-12 02:05:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あれは何?」ホリイが反対の壁面を指差し問うた。それが何か知っていたが、敢えて問うた。「ああ……ライブラリです。薄気味悪いカルト共がそう呼んでるんです」ギャングが答えた。掘り出された旧世紀のラジオ・グリモアが何千冊も、金属製の棚に詰め込まれていた。かつてより肥大化している。 50

2014-08-12 02:16:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ゾクゾクするわね」ハッカー・ゲイシャが言った。「そうでしょう」GNマサルVIには理解できぬ嗜好だったが、ゲイシャを上機嫌にする事が彼の役目だった。「近くで見たいわ」「危険ですよ」「そのための護衛じゃないの?」「……その通りです」GNマサルVIは渋々、彼女をそこへ案内した。 51

2014-08-12 02:21:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハァーッ、ハァーッ……」坊主頭の男が、所蔵グリモアの年代を遡るように足場を急ぐ。彼はただの労働者ではない。クラタ・メイジンの弟子のひとりだ。その手には鑑定待ちICチップが握られている。目的のグリモアに向かう途中……彼は偶然、上から釣り糸めいて垂れるLANケーブルを見た。 52

2014-08-12 02:37:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……これは」男は監視カメラに気取られぬよう、ライトの陰で上段の様子をうかがった。確とは解らぬが、身知らぬ女がそれを垂らしている。ギャングが彼女を護衛しているのか。何か様子がおかしい。だが、LAN直結がすぐそこにある。暗黒体制に抑圧されていた烈しい感情が、男の胸で爆発した。 53

2014-08-12 02:46:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ナムサン……!」男はごくりと唾を呑み、艶やかな黒いケーブルを睨んだ。それはブッダがジゴクへ垂らすという希望の糸か。あるいは破滅を招く罠か。だがどちらにせよ、ここには破滅しか待っていないのだ。彼は覚悟を決め、自らの錆び付いた生体LAN端子へと、素早い手つきでそれを挿入した。 54

2014-08-12 02:52:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

0101110……IRCが接続された途端、男はまずウイルスの先制攻撃を受け、殴られたように頭を揺らした。「アイエッ!?」むろん致死性ではない。それは気付けの一撃めいて、男に正しい判断力を与えた。彼は思いがけないIRCネームを見た。ホリイ・ムラカミ。クラタ・メイジンの弟子だ。 55

2014-08-12 15:23:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ホリイはライブラリの最上段、ぎしぎしと揺れるバンブー足場の上に立つ。十年前ほど身軽ではないが、まだ大丈夫だ。少し離れた所には車椅子のギャングがいて、周囲に銃を向けている。彼女はグリモアを検索しつつ、意識をIRCに集中する。垂らしたケーブルに見張りが気づかないよう祈りながら。 56

2014-08-12 15:27:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『あまり時間が無い。クラタ・メイジンは無事?』ホリイが問う。彼女はライブラリに来るのがクラタ・メイジンの弟子だけであることを知っている。『生きているが、良くない』男が返す。『皆を解放したい、でもどうしたらいいか解らない』『無理だ、ニンジャがいる』『こっちにもニンジャがいる』 57

2014-08-12 15:34:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『状況を教えて。手短に。圧縮して。今はあまり長居できない。怪しまれる』ホリイが言った。男は了解し、データを転送した。それと同時に、ニューロンの速度でIRC発言を行った。『セキュリティと監視ギャングの二段構えを突破できない。さらに、幹部連中は遠隔操作型の爆破装置を持っている』 58

2014-08-12 15:40:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『爆破装置』ホリイが言った。『ロービットマイン最上層、クラタ・メイジンの独房、そして我々の房室が吹き飛ぶ。大勢死ぬだろう』『なんて事を』ホリイは思わず口に手を当てる。バンブー足場が音を立て揺れる。『ギャングどもは、ここをヤクザに明け渡すくらいなら、全て台無しにするつもりだ』 59

2014-08-12 15:46:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『という事は、ナカニ・コードロジストの秘密は……』ホリイが気づく。『漏らしていない。我々をただのデバイス鑑定カルトだと思っている。些細なカネを稼ぐための歯車の一部だ』『正体を明かし、価値を理解させれば生き延びられる……』『クラタ・メイジンはそれを望まない。智慧を悪用される』 60

2014-08-12 15:53:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『爆破されれば、蓄積した智慧も失われる』ホリイは過剰採掘で荒廃したロービットマインを一瞥した。悔しさに歯噛みしながら。『説明した所で、彼らは真の価値など理解しない。フジサンで採掘されるレアアースと同じだ。カネを生むか生まないか。生むなら搾り取り、枯れたらイナゴのように去る』 61

2014-08-12 16:01:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『でも』ホリイは言いかけたが、言葉が見つからぬ。外の世界に出てよく解った。過去への探究心を持ち、それを正しく制御できる者は、あまりに少ない。『ホリイ、ここへ戻るべきではなかった。十年前から、遅かれ早かれこうなる事は解っていた。だからメイジンは、有能な者を外の世界へ送り出した』62

2014-08-12 16:07:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『システムに追われてるの。帰る場所は結局、ここしか無かった。それに地上も同じ。遅かれ早かれここと同じ運命をたどる。暗黒管理社会が到来する』ホリイが言った。『だがホリイ、君ほどの力があれば』『その力をどう使えばいいのかまだ解らない。クラタ・メイジンを助け出して、アイサツしたい』63

2014-08-12 16:13:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『解った。ホリイ、データ送信を終えた。命懸けで抜いたセキュリティ装置のデータもある』『ウィルスを作れる』『コーディングが全く間に合わない。複雑だ』『私ならできる』ホリイが言う。『オナタカミ系列のコードは見慣れている』『実際に流し込む作業が危険だ』『考えがある。また必ず来る』 64

2014-08-12 16:19:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

束の間のロービットマイン観光を終えたホリイ・ムラカミとGNマサルVIは、再び足場クレーンに乗って戻ってきた。ジェノサイドは先程と同じ場所に立ち、ホリイを待っていた。まだ“停止”したままなのでは、とホリイが案じた。だが死体はゆっくりと酒瓶を口に運び、唸った。「シケた鉱山だぜ」 65

2014-08-12 16:26:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

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2014-08-12 16:28:36