ウィアード・ワンダラー・アンド・ワイアード・ウィッチ #3

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

流れ者と魔女は、再びストリートの大通りをMASUDA方面に向かって歩いた。ヤクザの事務所に行くためだ。来た時と同様、誰もが息をひそめ、恐れ、道を開けた。重金属酸性雨が近そうだった。もぬけの殻となった教会の十字架が、雷の光を背負い、ストリートを歩く二人に烙印めいた影を刻んだ。 67

2014-08-12 16:34:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「下手に手を出せば、鉱山が吹っ飛ぶって寸法か。面倒くせェな」ジェノサイドの懐には、テクノギャング団から受け取ったマキモノがある。そこには、彼をヨージンボーとして雇うためのオファー内容が幹部の手で直筆ショドーされ、ハンコが押されているのだ。「嬢ちゃん、さっきは上出来だったな」 68

2014-08-12 16:39:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「昔、よく足場で遊んだから。随分変わったけど」「ああ、奴を騙したブラフのほうだ」死体が返す。「騙すのは慣れてる。ずっと出自を偽ってきたから」ホリイは自嘲気味に笑った。「ウィッチを忌み嫌うハッカーや企業も多い。関係ないのに逆恨みされて、魔女狩りに逢ったコードロジストもいる」 69

2014-08-12 16:50:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「おかしな話だぜ」ジェノサイドは不意に、自分が何故こんな厄介事に首を突っ込んでいるのか不思議に思った。そのときまた雷鳴が轟き、教会のステンドグラス光景がフラッシュバックした。「くだらねェ……」彼らはまた会話を続け、小雨の中を歩いた。遠くに禍々しいカニの電飾大型看板が見えた。 70

2014-08-12 16:59:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その威容はまさしく、カットスロート・カニ・ヤクザクランの事務所ビルに相違無し。入口には「悪」「嫌」「鋏」などの漢字が書かれた暴力的チョウチンが掲げられている。「スンマッセン!」漆塗りの上等な傘を持ったレッサーヤクザのハクイが二人に気づき、大慌てで駆け寄ってきた。 71

2014-08-12 17:04:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「スンマッセン!雨の中、わざわざスンマッセン!」ハクイが傘を手渡す。「ギャングの所に行ったって聞いて、俺ァもう、いつオヤブンに殺されちまうか、気が気じゃなかったんですよ。で」ハクイはやや困惑した。「そちらのマブなお嬢さんは?」「俺のゲイシャだ。文句あンのか」「めっそうも!」 72

2014-08-12 17:11:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

二人はすぐに奥の宴会場へと通された。待っていたのはブラックハンドと数名のグレーターヤクザ。彼らは当初、この見覚えの無いワイアード・ウィッチというゲイシャを訝しんだが、アマクダリ・ネットにそのような名前は登録されておらず、またネンゴロを侮辱するとシツレイに当たるため、黙認した。73

2014-08-12 17:19:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

隻眼のニンジャ、ブラックハンドは間違いなく手練だ。タタミ八枚の距離で座っている。やや遠い。グレーターヤクザも直結型ヤクザガンで武装しているだろう。次に彼は、横に座る無力なホリイを見た。彼女は脆い。「……俺はメンツを重んじる」ジェノサイドは、ギャングの時と同様、会話を進めた。 74

2014-08-12 17:30:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「俺はいったんヨージンボーになったら、絶対に買収なんざされねえ。ただし十分時間をかけて吟味する」「良い事だ」その言葉は、ヤクザ文化を重んじるブラックハンドを頷かせた。「俺はナメた真似は許さねえ。騙して使おうなんざ思うな。単刀直入に聞くぜ。あんたら、どっちもアマクダリだな?」 75

2014-08-12 17:36:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……その通りだ」ブラックハンドが腕を組み、頷いた。「なら俺のデータもあるだろう。俺はアマクダリと面倒事を構えるのは御免だぜ」「その心配は無用……」ブラックハンドは目の前に置かれた冷たいニョタイモリ器から、マグロ・スシを摘んで口元に運んだ。「ここはアマクダリ内の緩衝地帯だ」 76

2014-08-12 17:42:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「緩衝地帯だァ……?」ジェノサイドはよく熱されたシャドウタイガーを口に運んだ。「ザイバツは滅び、もはや外敵は無し。ゆえにイクサを求めるアマクダリ下部組織同士が、このような価値の低いゴミ溜めを巡って、争っておるのよ」ブラックハンドは笑った。「大ごとにせぬうちは、おとがめ無し」 77

2014-08-12 17:47:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「暇潰しか?」「否。奴とは因縁がある。これは命と組織とメンツをかけたイクサだ」ブラックハンドが返す。ホリイは、ニンジャの暴虐に対し、怒りと恐怖が同時に沸き起こるのを感じた。ニンジャにとってストリートは、あのひんやりと冷蔵されスシを盛られた、哀れな自我破壊オイランと同じなのだ。78

2014-08-12 17:57:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ここでまた、ジェノサイドは不意に“停止”した。ホリイは心臓が止まりそうな緊張感と心細さに襲われた。「……どうした、ジェノサイド=サン、サケが気に入らなかったか?」ブラックハンドが問う。「……arrrgh……」ジェノサイドは唸ったまま動かない。何か、間を持たせねばならない。 79

2014-08-12 18:07:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「シーッ……」ホリイは口に人差し指を当て、サイバーサングラスの液晶面に警告文を走らせた。ヤクザ達の剣呑な視線が、彼女に集まる。『サケを味わっている時の彼を邪魔すると、酷い事になる』ワザマエ……!さらに、ウカツなギャングがいかにして壁の染みに変わったかを、多少脚色して伝えた。 80

2014-08-12 23:24:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

それは実際、30秒程度の沈黙であった。ホリイには何分間も続いているかのように思えた。(((ナムサン……!)))次の話題も思いつかず、頭の中が真っ白になった。だが、幸いなるかな、部屋の隅の電子シシオドシが鳴るのとほぼ同時に、ジェノサイドは再び動き始めたのだ。「……いいサケだ」 81

2014-08-12 23:28:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「良かった!」「安心した!」ヤクザたちが全員、安堵の表情を作る。ジェノサイドらは再び交渉の流れを掴んだ。「あんた方の勝算を知りたい。奴ら、相当に守りを固めてやがる。いざとなりゃ、鉱山を爆破して、手渡さねえつもりだ。警告が来てるだろ?」「ああ。腰抜け共のくだらんブラフだろう」 82

2014-08-12 23:33:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「それが、ブラフじゃねえのさ。奴らは本気だ。全部埋めるほどの爆薬じゃねえが、相当数の鑑定士や採掘者が死ぬだろうな」「奴が考えそうな女々しい戦法だな!」ブラックハンドの片目に侮蔑の怒りが燃える。「そんな事をされりゃ、たとえ勝ってもあんたらの懐が痛むだろ。俺の儲けが減るわけだ」 83

2014-08-12 23:40:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何か策があるとでも?」「待て、俺ァまだあんたの側についた訳じゃねえ。ただよォ、余りに女々しい戦法は好かねェ……だから警告をと思っただけだ。ちなみに、俺のゲイシャはハッカーだ。俺をヨージンボーに雇うんなら、もれなく有能なハッカーがついてくる」「成る程な」ブラックハンドが唸る。84

2014-08-12 23:46:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「極論、支払い次第だが、俺ァどちらかと言えばヤクザ流のほうが好みだ。ヤクザは、一度決めたら裏切らねえからな」ジェノサイドは残ったサケを流し込み、息を吐く。「それに向こうの……ドレッドノート=サンか。あれは随分歪んだタマだぜ。戦利品の目玉を自慢げにホルマリン漬けにしてやがる」 85

2014-08-12 23:53:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……ッ!」ブラックハンドがマグロ・スシを握り砕く。「だが、俺に先に声をかけてきたのは向こうだ。そこのメンツも立てにゃならん。悪くねえ値もつけてくれたからな」ジェノサイドはギャングのマキモノをその場に置いて立ち上がった。「少し庭を見せてくれ。それから、いい値を頼むぜ……」 86

2014-08-12 23:58:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ジェノサイドはヤクザ側とギャング側、両者のマキモノを携えて、民宿サルーンMASUDAへと戻った。ブラックハンドは当然、その場での即決を求めたが、熟考したいと言い、結論を先延ばしにしたのだ。既に営業中だったため、ジェノサイドとホリイはサルーンの部屋へと戻り、作戦会議を行った。 88

2014-08-13 00:08:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

万札、違法トロ粉末、未公開株券、違法素子……両者の支払いは様々なフォーマットに分割されてるが、ヤクザのほうがやや高い。兵隊の戦力も、ヤクザのほうが上。「だがドレッドノートの方が策士だ」とジェノサイド。「それに、最終的にギャング側につかないと鉱山にアクセスできない」とホリイ。 89

2014-08-13 00:16:31
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